腎機能が低下して、本来の働きができなくなる末期腎不全まで進行すると、食事療法や薬物療法では対応できなくなります。
そのため腎代替療法(透析療法または腎移植)のいずれかを選択することになります。
私は透析療法は選択しました。
今回は透析療法のなかでも、日本では9割選択しているとされる血液透析(HD)と腹膜透析(PD)を比較していきます。
・日本では血液透析(HD)が圧倒的に普及している
・最近はQOL(生活の質)の向上の面からしても「腹膜透析⇒血液透析」の導入の流れ
・血液透析(HD)と腹膜透析(PD)を選ぶには、共通点、メリット・デメリットを知ること
透析療法を比較することの意義
血液透析と腹膜透析の両者を比較する事は、それらの共通点やメリット、デメリット(リスク)等を知ることができます。
血液、腹膜のどちらの透析を選択すべきなのかという導入の目安になるばかりではなく、
透析導入後の仕事や家庭、プライベート等のQOL(生活の質)にも影響を与えていきます。
最近はかつてのように血液透析から導入するのではなく、QOL(生活の質)の向上の面からしても
「腹膜透析⇒(約7、8年後に)⇒血液透析」というふうに、透析導入時は残腎機能を生かしながらも、仕事も継続しつつ家庭も優先!といったように勧める医者もいます(透析治療も二人三脚、相談してください)。
いずれにしても、血液透析か腹膜透析のどちらを選択するにせよ「透析をする」という点では、器械で腎臓の働きの「一部を代替」していることには変わりはありません。
現時点での医学では、腎臓はあまりにも構造が複雑で、再生不可能な臓器なのです。
なので、透析することで生体の腎臓自体を治療しているわけではありません。
以降、透析について読み進めていただいて、現在(または将来の)仕事や家庭環境、プライベートなどを総合的に顧みながら、血液透析、腹膜透析のどちらから導入したら良いのか?などの参考にしてほしいと思います。
なお、ここでは腎移植は触れません。
参照:「【透析の選び方】自分に1番マッチした治療方法を選ぶべき!」
透析療法には主に2つある
透析療法には、血液透析と腹膜透析の2種類があります。
日本では圧倒的に血液透析が普及しています。
・血液透析(HD)は、腕の血管から血液を取り出してダイアライザー(人工腎臓)に流し、血液中にある老廃物や水分を除去する方法です。
日中は仕事(会社員、自営業とを問わず)をしているとすれば、選択肢として夜間透析が多くなるかと思います。
ただ「早退を避けたい」、「一定の収入を確保したい」というのであれば、場所や条件が許されるのであれば、オーバーナイト透析や在宅血液透析を選ぶといったことも考えられます。
・腹膜透析(PD)は、自分の腹膜を腎臓代わりに使って尿毒素を除去する透析方法です。自宅でも会社でも行うことができます。
腹膜透析にも2通りの方法があり、昼間(1日通常3~4回)に透析液を交換する持続携帯式腹膜透析(CAPD)と就寝時(機械を使って寝てる間)に行える自動腹膜透析(APD)があります。
比較!血液透析と腹膜透析のメリット・デメリットとは?
1.透析治療に必要な手術内容
(血液:)
・バスキュラーアクセス(=血液の出入り口であるシャントを作る手術が必要。)
→治療中にシャント閉塞などあれば、再手術が必要になります。
(腹膜:)
・カテーテル挿入術(自分のおなかにある腹膜に透析液を出し入れするカテーテル(チューブ)を留置するための手術が必要。)
→ただし、大きな腹部の手術を受けたことがある人は、できない場合があります。希望したとしても腹膜透析はできません。
2.透析の生命予後
(血液:)
・術後10年以降は腹膜透析に比べてリスクが低い
(腹膜:)
・術後10年までは血液透析よりリスクが低いか同等
→残存腎機能が保たれやすいですが、しかし概ね8年程度で血液透析への移行が必要になります。
3.透析治療について(時間・場所・通院回数等)
以下、〇はメリット、×はデメリット。△は条件付きで可能なものです。
(血液:)
×{通院時間+@(着替え、穿刺や針抜までの待ち時間)+(4~5時間×週に3回)}
→職場や自宅に透析病院が無い場合は通院のため時間も必要となり、負担になります。
→最低でも12回/月は通院。
(腹膜:)
〇持続携帯式腹膜透析(CAPD)の場合は1回30分、1日4~5回
→イメージは在宅治療。時間的拘束が少ないです。
→自動腹膜透析(APD)もあり。
〇通院は月に1~2回程度
→時間や交通費などを考えてみても負担は少なめです。
4.透析と日常生活への影響(拘束時間など)
(血液:)
×透析病院へ通院時間、透析の時間的拘束が多い
→{通院時間+@(着替え、穿刺や針抜までの待ち時間)+(4~5時間×週に3回)}
△旅行や出張はできます。
→長期の場合はあらかじめ透析病院への予約が必須です。
→温泉など感染症に注意が必要です(生活上での入浴でも同様)。
→入浴時、シャントからの感染に注意してください。
△適度な運動はできます。
→但し、過度な運動(バレーボールや長距離マラソンなど)は避けます。
→シャントの保護は必須です。
(腹膜:)
〇持続携帯式腹膜透析(CAPD)は1回30分、1日4~5回。
→自動腹膜透析(APD)もあり。
→自宅や職場での治療が可能です。生活スタイルにあわせた治療が行えます。
△血液透析と同様に自分で行う治療なので、当然人任せはできない。
→血液透析の裏返しであり、自分で「処置」し「治療」します。
→自分で腹膜透析を行うためには、きっちりと治療操作を覚えなければなりません。まず教育システムが整い実績を持った透析病院で、勉強を行い実践を積まなければなりません。
確実なバッグ交換手技や十分な交換時の注意点を習得しなければ、感染症などになりかねません。
△旅行や出張はできます。
→制限はありません。但し、透析液や・器材携行は必要であり、配送料が必要になることもあります。
→カテーテル出口部の保護が必要です。
〇適度な運動はできます。
→但し水泳・腹圧のかかる運動は避けてください。
5.透析と仕事・社会復帰率
(血液:)
△~×仕事や社会復帰は可能
→病院移動、透析治療(臨時で外来の場合も含む)のため時間的制約あり。
→日中に仕事の場合は、夜間透析が多い。
→就職・転職は正直厳しい。
条件にあった会社を探すこと自体が難しい(自宅・会社・透析病院との往復、交通費、会社や家族の理解などのバランス)が大変で、長丁場になることもあり。
→現に就業中、就職・転職活動中であれば、オーバーナイト透析(夜間の睡眠時間を利用しての透析)、在宅血液透析も検討する余地は十分にあり。
(腹膜:)
〇~△仕事や社会復帰が容易
→血液透析よりは容易とは言えます。
→会社やチームで持続携帯式腹膜透析(CAPD)をするだけの時間や場所の確保、周りの人の理解などがあれば、という条件付きはあります。
6.透析者の食事や水分制限など
(血液:)
×食事と水分制限が厳しい
→厳密な食事の管理(たんぱく質、水、塩分、カリウム、リンなど)
→食事メニューを作るのが難しい
(腹膜:)
〇食事や水分制限は緩やか
→毎日、腹膜透析を行うために血液透析に比べれば制限は緩やかです(これは、透析液にカリウムが含まれていないためです)。
ただ、いずれ腹膜のはたらきは悪くなってくるので、カリウムや水分制限が必要となってきます。
7.透析者の精神・心身の負担
(血液:)
△残存腎機能の低下が早い
×精神的・経済的負担が大きい。
→{通院時間+@(着替え、穿刺・針抜までの待ち時間+(4~5時間×週に3回)}と、通院と治療が一生ものであること。
→ストレスやフラストレーションを感じやすくなります。
→治療中の過ごし方や医療面での経済的負担などを減らす方法はあります。
×時間的制約
→仕事ならば早退する(残業ができない)ので、収入は減ります。
→旅行や出張がしにくいということもあります。この場合、臨時透析(旅行透析)のために、観光の時間、出張の滞在時間などが減ったりします。
×心身的な負担
→精神的的負担と同等に負担が大きい。
→体内環境の変化が大きい(透析日⇒非透析日とを繰り返します。体に老廃物や水分の溜まった状態が中1日ないし中2日おきに来るわけで、透析前後でも大きいのです)。
→透析導入時などでは不均衡症候群。ほかには穿刺痛や血圧の低下があります。体調によっては頭痛や吐気もみられます。
(腹膜:)
〇残存腎機能が保たれやすい
→個人差はありますが、血液透析と比べて腹膜透析を導入後であっても、残っている腎機能をより長く保つことはできます(但し、残存腎機能があるうちに腹膜透析をはじめた場合です)。
〇血液透析は体内環境の変化が少ない
→24時間365日連続連続可能。毎日透析を行うので、体液や血圧の変動が少なくて心臓への負担もそう大きくはありません、緩やかです。
8.透析の医療面(全般)
(血液:)
◎専門の医療者に透析をしてもらえるため安心・安全 →安心・安全がゆえにシャントや食事などの「自己管理」の方も忘れずに!
〇医療スタッフとのコミュニケーション
×定期的な通院が必要 →在宅血液透析の場合は、生活リズムにあわせて行うことができるので、精神・心身の負担が解消される場合があります。 但し、水回りと電気工事は必須であり、月の電気代や水道代が倍にかかります。
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(腹膜:)
〇~△自宅や会社、出先でも腹膜透析が可能(生活リズムにあわせて透析バッグの交換が可能)
→持続携帯式腹膜透析(CAPD)で、1日通常3~4回の透析液交換を行う必要があるが、会社に理解は得られるかどうか?
→自由度が高く就寝時に行える自動腹膜透析(APD)の選択もあり。
〇通院回数が少ない(医療機関へ通院は月2、3回)
△透析効率は血液透析と比べれば低い
×継続すると腹膜の機能は低下
→5年くらいからはたらきが悪くなってきて、概ね8年程度で血液透析への移行が必要になります。その際、バスキュラーアクセス(=血液の出入り口であるシャント)を作る手術が必要になります。
9.透析による合併症等
(血液:)
×血液透析特有の合併症の存在
→透析アミロイド症、二次性副甲状腺機能亢進症、心不全、貧血、高血圧、低血圧、体の痒み
×バスキュラーアクセスに伴う合併症
(腹膜:)
×腹膜透析特有の合併症(腹膜炎、被嚢性腹膜硬化症、カテーテル感染など)
→カテーテルと腹腔とは直接つながっているため、バッグ交換の際に不潔な操作を行ったり、カテーテルの出口部の手入れを怠ったりすることで起こりやすくなります。
→長期の腹膜透析者が腹膜透析中止後に被嚢性腹膜硬化症を発症することがあります。
×腹腔内への透析液貯留に伴う影響(バック交換時に1500~2000mlの透析液を注入するわけですが、お腹の膨らんだ感じや腰痛を感じることがあります。食事量が一時的に減るかもしれません。)
×ブトウ糖の栄養代謝に及ぼす影響
×透析不足の危険性
△~×衛生管理ができる人でなければいけない
→透析液は結構大量でありその物置き場の確保も必要です。処理は医療廃棄物にあたりますので、指示に従う必要はあります。
血液透析と腹膜透析の共通点
透析療法(血液透析と腹膜透析)の共通点をみてみると、
1.透析療法の治療開始の制限が少ない
→(血液透析ではバスキュラーアクセスの手術を、腹膜透析ではカテーテル挿入術をすれば治療が行うことができます。
2.ほぼ日本中のどこでもできる
→血液透析では透析病院(または在宅で)、腹膜透析では自宅や会社、プライベート先で行うことができます。
3.透析特有の合併症を持っている
→血液透析、腹膜透析をしている状態とは「悪い状態」です。
貧血や骨代謝異常、アミロイド沈着、動脈硬化などの諸問題であり、解決されません。
→細菌性腹膜炎のほか、長期長期の腹膜透析では、被嚢性腹膜硬化症の危険性があります。
4.貧血や骨代謝異常、高血圧など慢性腎不全の諸問題に対する薬剤は必要です。
→透析ではできないことがあります。透析療法で代行できないのは、造血ホルモンの分泌、ビタミンDの活性化などです。
◆まとめにかえて
末期腎不全まで進行し、透析療法か腎臓移植のいずれかを選択することになると冒頭で説明しました。
日中に仕事をするような会社員や自営業の方の場合、「透析の組み合わせ」は以下のようになるでしょう。
1.腎不全⇒血液透析(夜間透析)
→もっとも多い方法です(もちろん、「午前透析」「午後透析」半固定的ですが、午後から、夜に仕事という方はこちらを選択しています)。
2.腎不全⇒腹膜透析⇒(約7、8年後に)⇒血液透析(◎夜間透析や〇オーバーナイト透析、△在宅血液透析)
→当初は腹膜透析を選択し、7、8年後には血液透析することになります。血液透析へ移行の際は、仕事の状況に応じて夜間透析やオーバーナイト透析を検討してください。在宅血液透析については、いくつかの諸条件があります。
3.腎不全⇒血液透析(オーバーナイト透析)
→血液透析(オーバーナイト透析)は、土地的には首都圏が有利です。オーバーナイト透析を行っている透析病院は地域差があるのが現状で、全国的にも限定されています。
4.腎不全⇒血液透析(在宅血液透析)
→在宅でできるということは、何より透析病院に通わなくても良い事。
→自分の好きな時間に、好きなだけ透析できます(毎日でも可)。
仕事や家庭、プライベートを最優先度にしたい!といった場合で、QOL(生活の質)を上げたいのなら、血液透析の中では在宅血液透析が最強と言えます。
なお、腎移植についてここでは取り上げませんでしたが、「腎不全⇒腎移植」、「腎不全⇒血液/腹膜透析⇒腎移植」という流れもあります。
参照:「【透析の選び方】自分に1番マッチした治療方法を選ぶべき!」
参照:「血液透析の【手順・流れ】は確認しておいた方が良いです!」
参照:「透析時間の決め方。えっ!4時間透析は【最低ライン】なの?」
参照:「ドライウエイトって何?ズバリ【透析後の基礎体重】のこと。」
参照:「オーバーナイト透析は勤労者にメリット【大】課題は普及率!」