「ドライウエイトって何でしょうか?」
血液透析をはじめて導入する人にとっては、初めての医療的用語だと思います。
ドライウエイトは、「基礎体重」とか「適正体重」、「目標体重」などと呼ばれます。
透析者は、食事・飲用しようにも排泄することができないため、尿毒素を含む水分は溜まり続けていきます。透析をすることで、体内の毒素を濾過するとともに、体内水分を除去しているのです。
「血液透析した後の体重で、身体の中から余分な水分を取り除いた時の体重」ではあるのですが、単に体内の水分を除いているというニュアンスではありません。
基礎体重とか適正体重というように、「透析者にとって、体のなかにある水分が過剰でもなく、脱水している状態でもない」わけで、言い換えれば、「ちょうどよく適度な状態に保たれているときの体重」というわけです。
なので、透析者は自分に適したドライウエイト(基礎体重)を設定しているわけです。
では、なぜ「ちょうどよく適度な状態に保たれているときの体重でなければならないのか?」というと、ドライウエイト(基礎体重)が合わないと、大なり小なりとも体に変調を起きてしまいます。
透析者のなかで、特に土・日曜の食事管理が疎かになって、ドライウエイト(基礎体重)を超えてしまい、体重を増やしてしまう人がいます。
その言い分は、安易に「透析で除水量を増やせば良い」「除水速度をあげれば良い」と考えているところです。
一見正しいように見えますが、通常4時間という透析時間、透析しているのは「生身」の透析者です。
限度がある、ということに気づいていないようです。
このような状況下で、除水をしたとしましょう。
透析中は、血液中にある老廃物の濾過だけではなく水分や塩分も除去していくので血液量は減り、血圧が下がりやすくなります。
水分の引き過ぎは、血圧がなかなか戻らないどころか、透析終了直前やその後において、過度な透析疲れ、ふらつき、めまい、足のつり(=こむら返り)や声枯れといった諸症状を覚えます。
帰宅中でもや自宅等に戻った場合でも、透析からくる起立性低血圧(めまいや立ちくらみ)を感じることがあります。
最悪、血圧が非常に低下した場合にはシャント閉塞が起きてしまい、使えなくなってしまうことさえあります。
ここでは水分を引き過ぎたケースを挙げましたが、症状の有無に個人差はあるものの、いつ、どこで、どのような事が起きるかは分かりません。だから、避けるべきなのです!
では「どうしたら避けられるのか?」という話しになります。
それが、透析者でも医師・看護師等にとっても基本中のキホン
「ドライウエイト(基礎体重)の3~5%増までは許容範囲」である血液透析では共通認識です。
3~5%は日々意識しておかなければならない数字です。
もちろん、5%超もなって体重を増やしてくれば、医師や看護師から食事や水分の摂り方についての説明を求められるばかりではなく、注意も受けることになるでしょう。
3~5%増というのは、「透析の中1日なら3%、中2日なら5%までは大丈夫※」という目安になります。
(※中2日というのは、月水金曜が透析日(土・日曜は非透析日)の場合、土日の場合には次の透析までには「2日と半日」があり、水分+食事量も「2日半」分は増えてしまうので、5%という意味です。)
「体重増加はどこまでOKなのか?」を具体的な数字を交えて説明します。
ドライウエイト(基礎体重)が60kgに設定されている男性の場合。
隔日の次の透析日までのドライウエイトは3%増まではOKなのですから、
60(Kg)×1.03=61.8(Kg)。
⇒1.8(Kg)までの増加なら許容範囲。
土日を挟んで次の透析日(月曜)までのドライウエイトは5%増しまでOKなのですから、
60(Kg)×1.05=63.0(Kg)。
⇒3.0(Kg)までの増加なら許容範囲。
といったように、計算することができます。
とりわけ土日の「2日半」には、外食したり、旅行先での食事をすることも多く、(無意識のうちに許容範囲を超えて)体重増やしてしまうこともあります。
当然に5%を超えるとなると、最低限の4時間透析のなかで除水することはできないと考えてください。心臓や体、血管に負担がかかってしまうからです。
なので、土日に関わらず、宴会や旅行での暴飲飲食などには十分に注意が必要です。
ところで、ドライウエイト(基礎体重)の設定は、年中同じというわけではありません(ふだんの生活でも体重の増減はありますね。)
ドライウェイト(基礎体重)が合っていない、ずれてくる時が出てきます。
表現は異なりますが、「ドライウェイトがキツイ」とか「ドライウェイトが甘い」等と言います。
透析者の基礎体重は男性・女性、ヤセ・太目、筋肉量や食欲などによっても違ってきますし、梅雨時や夏場や冬場などの季節の移り変り、タイミングで変わるものもあります。
一般的に治療中は血圧が下がり気味になりますが、ふだんから血圧が低い人には、ドライウエイトを上げて、徐水量を減らし体重を増やすことで、血圧を上昇させるといったことが行われます。
ドライウエイトを上げる、下げることを「ドライウエイトの設定」と言いますが、毎月行うレントゲンによる「心胸郭比(CTR」と血中の血液濃度、血圧の変移などを総合的に診断したうえで、透析者と相談しながら調節していきます。
「心胸郭比」はドライウエイトを適正に維持するための判断材料の一つになります。
毎月1回レントゲンにおいて「心胸郭比」を撮るのは、水分や塩分を摂り過ぎると、体重が増加し血圧が上昇する為、「心胸郭比」が増大する、といったように前月比と比べたりすることできるからです。
(心胸郭比の計算は別として、)透析後に辛くない状態の基準値というのがあり、男性では50%以下、女性では55%以下が適正とされています。
ただ「ドライウエイトの設定」というものの、微調整(微増・微減)しながら行うほかはなく、少々時間がかかるものです。適正なドライウエイトとは、以下の状態を言います。
1.顔や手足にむくみがない
2.心胸郭比が正常範囲(心臓が大きくない)
3.血圧がほぼ正常範囲(低すぎず高すぎず)
4.無理なく日常生活ができる(体調が良い)
このような状態を維持できるように、持っていくわけです。
まとめます。
「ドライウエイトとは透析後の基礎体重」であり「ドライウエイトの増加は+5%以内に留める」ことが、体にとって優しい透析になります。
低血圧・高血圧、浮腫み、立ちくらみなど何か症状や兆候を感じているのなら、ドライウエイトの調整をする必要があるので、医師・看護師へ相談していきましょう。