ここでは透析者の医療費(65歳未満)について取り上げています。
透析にかかる医療費の仕組みは、複雑で理解しにくいところがあります。
透析にかかる医療費はどのくらいかおわかりですか?
1ヶ月あたり透析にかかる医療費はざっくばらん40万円にものぼります。
年間換算では、透析者1人400~500万円近くかかっていることになります。
莫大な医療費です。これでは払えませんし、透析も受けることができません。
しかし、1万円ないし2万円で済むようになっています。なぜ「1万円ないし2万円」で済むのでしょうか?
これは次の1~3に沿って、各々の制度でカバーしあって軽減されるからです。
1.特定疾病の特例(高額長期疾病)
2.自立支援医療(更生医療)
3.障害者医療費助成制度
1.特定疾病の特例(高額長期疾病)
特定疾病の特例(高額長期疾病)は、健康保険法を根拠としています。
特例とついているように、通常の「高額療養費※」ではありません。
高額長期疾病には現在3つの特定疾患が指定されていて「人工腎臓を実施している慢性腎不全(=人工透析治療))が該当します。
「特定疾病の特例」を受ける場合は、各医療保険に申請して「特定疾病療養受療証」の交付を受けて、医療機関の窓口では被保険者証と共に提示します。
自己負担額は「1万円ないし2万円」とされていますが、これは透析者の所得によります。
※なお、透析のような特定疾病に係る高額療養費は、原則として「多数回該当に係る支給回数」に通算されません。
2.自立支援医療(更生医療)
自立支援医療(更生医療)は、障害者総合支援法を根拠としています。
更生医療は身体障害者が手術等によって障害の程度を軽くしたり、取り除いたり、障害の進行を防ぐことが出来ることが可能な場合に、その医療費を助成する制度です。
腎機能障害である透析も対象であり、人工透析療法(血液、腹膜)そのものが治療にあたります。
自立支援医療(更生医療)は「18歳以上の身体障害を有するもの」とされていますが、前提として「身体障害者手帳」の交付を受けている必要があります。
透析の導入が必要であるということは、治療を行わなければ生命の維持が困難な事例にあたるので、身体障害者手帳と更生医療の申請を同日付で受け付けてもらえることがあるので、相談してみましょう。
申請後、「自立支援医療受給者証」の交付を受けたら、各都道府県知事の指定した指定自立支援医療機関(※)の窓口にこの受給者証を提示します。
※「各都道府県知事の指定した指定自立支援医療機関」は、一般的には透析を受けられる病院等と考えて良いのですが、各都道府県で医療機関名簿があるので、念のためWEBや窓口で確認しておきましょう。
ここまで、1.特定疾病の特例(高額長期疾病)によって、透析者の自己負担額が「1万円ないし2万円」になりますが、2.自立支援医療(更生医療)を利用すれば、原則として(かかった1万円ないし2万円の)医療費の1割に相当する額」を自己負担する形となります。
但し、自立支援医療の制度を利用するには、透析者本人の収入や世帯の所得(※※)によって1ヶ月に支払う自己負担額に上限が設定されます。
※※会社員のような透析者の場合早退を余儀なくされますし、雇用形態の不安定さ等から収入減になることは十分にありえます。
このように低所得者に関しては一定の軽減措置がされています。透析(血液、腹膜)は長期に治療が必要な疾病にあたり、「重度かつ継続」ということで減額される経過措置がとられています。
3.障害者医療費助成制度
障害者医療費助成制度は、各自治体(都道府県・市町村)が行うもので「心身に重度の障害がある方に対して医療費を助成する制度」になります。
助成対象者は、前提として「身体障害者手帳を取得している障害者」となっているため、あらかじめ手帳の取得をしておくことが必要です。
各自治体(都道府県・市町村)によって、医療費助成の名称や障害程度(手帳でいうと1級・2級※。一部の県で3級まで助成あり。)や年齢、所得制限などがあり、差異は見られます。そのためお住まいの自治体のWEBぺージや窓口で確認するようにしましょう。
※身体障害者障害程度等級表(じん臓機能障害)というものがあり、等級は1級と3級、4級とがあります(よって手帳には2級が無いことになります)。
なお(腎疾患の障害の)障害年金のほうの等級には、1級~3級があります。が、障害者手帳の等級や障害状態等とは関係がありません。
このように、
1.特定疾病の特例(高額長期疾病)~3.障害者医療費助成制度を上手に利用(※)することで、医療費の負担を減らすことができます。
※制度とはいえ、2.自立支援医療(更生医療)に該当せずに、直に3.障害者医療費助成制度を利用することもあります。
透析は医療サービスにあたり、医療を受けるも受けないも「透析者の意思」に委ねられますが、しかし生きていくためには欠かせないものであり必要な治療です。
治療ではなくてあくまでも「透析者の意思」で選べるような医療サービスもあります。
例えば透析中や入院した際に提供される食事代、入院した際の差額室料などがあります。
それらは「入院時食事療養費」「差額ベッド代」とも呼ばれています。いずれも健康保険上は適用外となっているので、全額自己負担することになります。
最後に、同じく透析者の医療費の負担に絡む内容なのですが、透析しながらでも海外旅行に出かけることは可能です。
旅行の際は、海外にある現地の病院を選んで透析を行うことになります。
海外で受ける透析も治療であり、日本の保険診療として認められている「医療行為」であるので、帰国した後で健康保険法上の「海外療養費」と「高額療養費」を申請すれば、かかった費用の自己負担分について払い戻しをすることができます。
ただし、日本と海外とでは医療体制や治療方法等が異なったり、日本円換算の方法で計算しなければならなかったりするので、結果として払い戻しの支給金額が大幅に少なくなったりすることは十分に起こりえます。
また3.の障害者医療費助成制度も利用することができます。
以上、透析にかかる医療費は制度を上手に利用して、負担軽減を図っていきましょう。