署名活動とは?請願は国民の権利。腎疾患や透析者であっても!

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署名活動とは~腎疾患に関する私たちの願いを国会に届ける~

毎年の冬のこと。

「今年の透析もいよいよ終わりだな」という年末年始が近づいてくると、私たち透析者に「国会請願」のための署名活動の依頼が入ってきます。

署名したのは、「腎疾患総合対策の早期確立を要望する請願書」というものです。

早速、署名を行いました。

・日本国憲法 第16条に「請願権」あり
・国会請願の署名活動の請願団体は、全国腎臓病協議会(全腎協)
・請願事項は医療や福祉、仕事、税・サービスなど幅広い
・採択されるのは「1割以下」という狭き門
・いまある「ふつう」にあるものは、先代が国会に声を上げてきた歴史である
・医療や福祉、仕事、税・サービスも時代にそぐわなければ、改悪や廃止はありうる
目次

請願のための署名を行いました

日本国憲法 第16条の請願権って何?

まずは、日本国憲法で保障されている、いわゆる「請願権」について確認しておきます。

 

日本国憲法 第16条

何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

 

請願書1

 

国会請願の請願団体は、一般社団法人全国腎臓病協議会(以下、全腎協)です。

署名用紙の表面には、「腎疾患総合対策の早期確立を要望する請願書」という表題と「請願の趣旨」が。裏面には「請願事項」と署名欄があります(詳細はこの頁下)。

 

流れとしては、全腎協から都道府県~病院内にある腎友会通じて、会員へ請願用紙を渡して署名を依頼するのが一般的です(ところによっては、非会員にも署名活動の理解を求め、依頼するところもあります)。

 

署名数は多いほうが良いです。

透析者のみならず親や兄弟、親族、友人と広げて、私たちの声として国会に届けてあげるところに意味があります。

そして最終的に、全腎協のほうでとりまとめ、毎年3月に請願の署名を国会議員に届けています。

請願の歴史でもある請願表を見て欲しい

全腎協のWEBでは、今日までの国会に請願してきた取り組みを「請願表」というかたちで見ることができます。

活動はもうすぐ半世紀を迎えようとしているところです。時代は1971年(昭和46年)から。

 

軽く、透析の時代背景についておさらいをしておきます。

人体に初めて行われた血液透析は、1924年に遡ります。ほぼ1世紀に近いくらいの歴史はあります。当初から今のような「人工透析」があったわけではありません。

日本における透析療法のうち、ほぼ9割の人が血液透析を選んでいます。

透析者のそのほとんどが「内シャント」を作っているのではないでしょうか?
「内シャント」は、1966年(昭和41年)にBresciaらによって考えだされ、人工透析の基本ができあがりました。

 

当時の日本では、腎臓病を患っている人が30~50万人と言われており、1971年(昭和46年)前後のデータですが透析者は、1,000人ほどいたといいます。

1961年(昭和36年)。日本ではじめて国民皆保険(こくみんかいほけん)制度が始まって以来、透析も医療保険の適用は受けることはできました。

 

しかしながら、何せ外国製の輸入されてきた透析装置、まわりの透析用品もまた高額でした。そして医療機器である「人工腎臓※」も絶対的に不足していました。

※人工腎臓・・・ダイアライザとも呼ばれ、腎臓の代わりとなって血液をろ過してくれる医療機器

 

そのため、医療費はおろか「自己負担額」が高くても払える人、お金を持っている人だけが透析を受けることができる、そのような時代だったのです。

このような透析の時代背景のなかで、1971年(昭和46年)に全腎協から国会へ、はじめての国会請願が行われました。

 

はじめて国会請願である第1次の請願事項を見てみると、今の透析者が「ふつう」に受けていたり、見ていたり、思っていることは、当時の国会に請願されていたことが理解できるかと思います。

請願表(第1次の請願事項)を見てみると

当時(1971年(昭和46年)の第1次請願)と現状を踏まえて、みていきます。

 

1.人工透析の治療費を全額国庫負担に

 

先述したとおり、透析は国民皆保険制度のもと医療保険の適用を受けられるも、あまりにも医療費が、そして自己負担額が高額がために支払うことができず、透析することを諦めて亡くなられた人もいました。

現在の健康保険の長期高額疾病(特定疾病)において、透析治療の自己負担は1か月1万円(一定以上の所得のある人は2万円)となっています。

 

参照:「透析の医療費は高い!しくみは知っておいたほうが良い理由。

参照:「透析【特定疾病(特例)】手続きは必須!月額1万か2万円に。

2.人工透析患者に身体障害者手帳の交付を

この請願を受けて、1971年(昭和46年)に身体障害者福祉法の対象となり、1972年(昭和47年)10月から更正医療で担うこととなり、透析者の医療費負担額が大きく軽減されました。

更正医療とは、(健康保険の長期高額疾病(特定疾病)とは別に)血液透析や腹膜透析を受けた場合の自己負担分を国制度で助成するもので、”福祉的”なものです。

透析者がこの助成を受ける場合は、「身体障害者手帳の交付」を受けて、かつ通院のために透析治療を受ける医療機関が指定自立支援医療機関の指定を受けていること)が必要です。

原則として1割負担となります(現在、経過措置で一定の軽減措置がとられています)。

 

参照:「透析前後でも身体障害者手帳は申請できます。窓口で確認して!

3.人工腎臓の増設、普及を

先述したとおり、透析が高額な医療費がかかることに加えて、当時は「人工腎臓」が絶対的に不足していました。

そのため、悪く言えば「自己負担額」が高くても払える人や富裕層だけが透析ができるという状況にあったわけです。

「人工腎臓」を受けるべくして、金払いが良い人を優先に透析を行っていたり、透析者の間で今日の透析を受ける人をくじ引きで決めたり、自分の財産になるもの(金銭のほかにも、土地や建物、家具・商品など経済的価値がある物)を透析のためにお金に換えてまで、命をつないだという逸話があったくらいです。

透析医療や国民皆保険制度も成熟している現在では、到底考えられないですし、ありえません。

ですが、ひと昔前はこのようなことが実際に起きていたわけです。このような話しは、私が透析導入時に透析歴の長い年配の方から話しを聞きました(主流だった酢酸透析の話しもしていましたね)。

つまり、国民皆保険という制度がありながら、高額で透析が受けられないという”矛盾”があったのです。

4.長期療養者の治療費、生活の保障を 5.医療制度、医療体制、社会保障の改善を

 

当時(1971年(昭和46年))の頃の勤労世帯の1か月の平均収入は10万円でした。透析にかかる費用というと、1か月あたり25万円以上でした。

健康保険の「本人以外」の場合でも、最低1か月で7~13万円以上の自己負担となり、とても払えるものではありませんでした。

透析にかかる費用を支払い続けることができる人は、ごく限られていたのです。

その後も国会請願を毎年行っていくとともに、日本は透析医療技術で世界トップレベルまでに昇りつめ、世界有数の人工透析大国になりました。

現在の日本における透析医療は、年間換算すると月40万円×12ヵ月≒480万円/年となります。

高齢問題などで年々医療費の増大し続けています。法律等の改正がありましたが、それでも健康保険の長期高額疾病(特定疾病)において、自己負担額が月1万円ないし2万円で済んでいるわけです。

 

請願事項は時代の鏡を映している

第1次・1971年(昭和46年)後の請願事項について、簡単に振り返ります。

1975年(昭和50年)「身体障害者法 腎機能障害に2、5、6級新設を」「家庭透析、腎臓移植(提供者)の医療保険適用」「透析患者の国鉄運賃割引適用」「路上駐車許可証の全国的発行」・・・。

どれも、医療や福祉、サービス面において「ふつう」にあるものばかりですね。

<透析者の仕事>

 

私が見てとても気になったのが、第2次・1972年(昭和47年)の請願事項のなかにある「働ける全ての腎疾患患者の社会復帰促進」。

ほぼ毎年「仕事」や「就職」「雇用」などについて請願を行ってきているという点です。

 

腎臓病患者も含めて、透析者の仕事、そして社会参加への復帰の意味合いで声を上げてきたのでしょう。

日本の経済史を眺めてみれば、「バブル崩壊」「平成不況」「失われた20年」「聖域なき構造改革」「リーマンショック」「アベノミクス」・・・。

 

私は20代後半で透析導入後、転職するのには長丁場になりましたし、あわせて氷河期世代もあって仕事ありつけるかどうかで、苦労しています。

どうでしょうか。経済が良くなったという実感は薄いです。

私がふだん「今ある仕事ができることに感謝しよう」と思いながらも、「好条件でもない限り自分から辞めることは絶対にしない」「今の会社に食らいつくくらいの気持ちで」というメンタルでいるのは、すでに年齢的には転職が難しいからであり、まずは安心・安全を求めているからです。

会社で仕事ができるだけの、努力は惜しみませんが!

今後とも少子高齢や賃金低下などで日本経済の縮小し続けていくのでしょうか?

 

透析者の仕事や就職、雇用状況というのは、「いつの時代にも厳しいなあ~」ということを、改めて感じさせられた次第です。

<透析者の増加や高齢化問題>

 

それから、社会全体で少子高齢が昭和末期~平成にかけて言われてきました。

そして、透析者の増加や高齢化問題が顕著してきました。そこで「腎臓病の原因究明、CKD対策(※)、糖尿病性腎症予防の研究推進」や「通院困難な透析者の医療・福祉両面での施設・在宅サービスの拡充」という形で、請願事項に盛り込んでいることに気づかされます。

 

※CKDとは、慢性腎臓病のことで、Chronic Kidney Diseaseの略。

 

私も透析を導入してから20~40代の年代を渡り歩いてはいますが、老いていずれは仕事を定年!?を迎える時期が来ます。

今は車で通院していますが、もしかしたら車も運転できずに通院困難者になっているかもしれません。

 

健康でいるのが一番です。ですが、透析年数とともに年齢も重ねていきます。足腰が弱ってきたり、耳が遠くなったり、目もしょぼしょぼしてくる。体力も機能が低下してくる・・・。

こればかしはどうしようもないですね。何かしら努力はできるでしょうが、自然の理に沿って生きるしかありませんね。

<医療・福祉スタッフの不足問題>

 

現実味として遭遇していますが、「看護師・ヘルパーといった医療・福祉スタッフの不足解消と増員対策」の請願も入っています。

こちらも、もし私が年齢を重ねたら・・・と思うと、深刻な問題ではあります。「働き方改革」で、医療・福祉業界にどのように切り込みが入っていくのか。良い方向に進んでくれることを切に願います。

 

<医療・福祉スタッフの不足問題>

 

昨今、立て続けに天災が起きています。阪神淡路大震災、東日本大震災、西日本大豪雨、そして令和元年台風19号・・・。

私は東日本大震災で影響を受け、一時期透析難民になりましたし、令和元年台風19号も危うかったですが、ほか地域で被災した透析者が、わが病院で受け入れることとなり、ベットは満床となっていました。

 

このように、災害時の透析医療や避難移動の確保も、請願のなかに含まれているのに気づきます。

 

参照:「【透析者の災害対策とは?】自宅・会社で起きたら!備えは!

まとめにかえて

1971年(昭和46年)の第1次の請願事項を中心に紹介してきました。

透析をすることになって、医療保険のしくみや福祉・税金のことをはじめて知ることが多いものばかりです。

それらは「ふつう」にあるものばかり。

でも、考えて欲しいのです。ここにある「ふつう」にあるものは、これまで先人たちが国会に請願してきて、形になった、努力の結晶でもあるということなのです。

全腎協の国会請願の署名活動のページを見ても分かる通り、国会に請願し、採択されるのは「1割以下」という狭き門なのだそうです。

採択される請願は少なく、例えば第186通常国会に提出された請願の採択率は衆議院で3.5%、参議院で7.3%という低い割合になっています。

全腎協について > 主な活動内容 > 国会請願の署名活動国会請願の署名活動

 

もちろんこの先も、法律や規則、サービスが時代とともにそぐわなければ改悪や廃止されることは、多々してあることです。だから、声を上げるのです。国会へ請願するのです。

 

毎年、請願の依頼を受けて署名をするわけですが、年齢を重ねるとともに兄弟姉妹と疎遠になったり、個人情報保護を理由に「なかなか署名が集まらなくなってきたな~」というのが、率直な思いでもあります。

実は請願表には「署名数」も載っており、ピーク時は2003年(平成15年)の1,101,854名でした。(透析者の数が増加傾向とはいうものの)その後は減少傾向。現在では50万名と半分以下にまで落ち込んでいます。

2003年5月に成立した、個人情報保護法(全面施行は2005年)の影響が大きいですね。

とはいえ、「国会請願」のための署名活動。
今後とも協力していきたいと思います。

参考までに

 

全腎協「国会請願の署名活動 多くの声を国政の場に届けましょう」

下記は、第49次・2019年(平成31年)の請願書で、請願事項は以下の通りです。

請願事項

1.腎疾患の発症と重症化予防に向けた総合的な対策が進むように努めてください。
2.介護が必要な腎臓病患者が介護保険を利用できるように検討してください。
 とりわけ通院困難な透析患者の通院を保障する体制の公的な整備を検討してください。

3.どこで大災害が発生しても人工透析治療を受けることが出来るように努めてください。
4.腎臓病に対する再生医療の研究が進むように努めてください。

引用:「腎疾患総合対策の早期確立を要望する請願書」 一般社団法人全国腎臓病協議会

請願書2

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