2018年3月14日

更新日: 2026年9月22日

透析の医療費のしくみは、複雑でわかりにくいものです。「どの制度を使えば負担が軽くなるか」を知るだけでは、実は不十分です。
ご存知の通り、透析の医療費はとても高いものです。世間の目が厳しいのも事実です。
「医療制度のしくみ、そしてその全体像を理解すること」
これは、透析が生涯にわたる治療であり、今の制度がいつまでも続くとは限らないという「変化」と「危機感」を感じ取るうえでも、とても大切なことです。
「なぜ月40万円近い透析の医療費が、1〜2万円で済むのか?」この”なぜ?”から、一緒に確認していきましょう。
・世界最高水準の透析技術を誇る日本 ゆえに医療費は高い!
・透析の医療費は高い!月約40万円、年間約480万円にのぼる
・以下の3制度を理解し、フル活用しよう
1. 特定疾病の特例(高額長期疾病)/2. 自立支援医療(更生医療)/3. 障害者医療費助成制度
・透析をとりまく環境は厳しい。制度改正の動向にアンテナを張っておこう!
まず、日本における透析事情からお伝えします。現在、透析を受けている方のうち大多数が「血液透析」を選択し、病院に通って治療するのが一般的です(日本透析医学会の統計によれば、2024年末時点での維持透析患者数は約33万7,000人)。
病院で血液透析を行う場合、大きく2つの問題があります。

| 問題の種類 | 内容 | 患者への影響 |
|---|---|---|
| 時間的な問題 | 1回4〜5時間×週3回の通院拘束 | 週に12〜15時間を治療に費やす |
| 経済的な問題 | 月約40万円という高額な医療費 | 制度活用で月1〜2万円に軽減可能 |
透析患者の立場からすれば「時間はできるだけ短く、拘束されたくない」というのが本音です。しかし、透析が代わりに担える腎臓の機能は本物の腎臓のわずか約10%。はっきり言って、時間が足りないのが現実なのです。
参照:「透析時間の決め方。4時間透析「最低ライン」に過ぎません!」
腎臓病から透析へ。それはある種、病気や障がいとの向き合い方にもつながります。その人の生き方そのものでもあります。「4〜5時間という治療時間をどう使うか?」は、考え方や行動次第で大きく変わります。
(これは別の機会に、20代・30代・40代と働き盛りの年代で20年超透析を行っている私自身の経験も交えてお話ししたいと思います。何かのヒントになれば幸いです。)

血液透析は1人あたり月約40万円という非常に高額な医療です。しかも、生涯にわたって治療を続けなければなりません。年間に換算すると…
| 期間 | 医療費の目安 | 内訳のポイント |
|---|---|---|
| 1か月 | 約40万円 | 週3回×4週=月12回前後の透析処置費・薬剤費・検査費など |
| 1年間 | 約480万円 | 月額×12か月(合併症治療費は別途) |
| 10年間 | 約4,800万円 | 長期にわたる高額負担。だからこそ制度活用が不可欠 |
この高額の理由を少し掘り下げましょう。透析医療費の高さには、次のような構造的な背景があります。

| 理由 | 説明 |
|---|---|
| 高度な医療機器・設備 | 人工腎臓(ダイアライザー)・透析装置・透析液など高額な消耗品を毎回使用 |
| 頻度と継続性 | 週3回という高頻度で生涯続ける。治療1回ごとに医師・看護師・臨床工学技士が関わる |
| 薬剤費・検査費 | 腎性貧血や骨代謝異常など透析患者特有の合併症に対する薬剤投与、定期的な血液検査が毎月発生 |
| 日本の医療水準の高さ | 世界最高水準の透析技術・管理体制を維持するための人件費・設備費が反映されている |
これだけの費用を自己負担で払い切れる人はいません。そこで、透析患者の経済的な負担を大幅に軽減するための医療保険制度・公費負担制度が確立されています。手続きは必要ですが、実質的な自己負担は月1〜2万円で済みます。

「なぜ月40万円かかる透析の医療費が1〜2万円で済むのか?」
その答えは、以下の3つの制度を組み合わせて使うことにあります。利用する優先順位は①→②→③の順です。
| 優先順位 | 制度名 | 根拠法 | 自己負担の目安 |
|---|---|---|---|
| ① | 特定疾病の特例(高額長期疾病) | 健康保険法 | 月1万円(上位所得者は2万円) |
| ② | 自立支援医療(更生医療) | 障害者総合支援法 | 医療費の1割(所得区分による上限あり) |
| ③ | 障害者医療費助成制度 | 各自治体 | 自治体によって異なる(ゼロになる場合も) |
それぞれの制度を、もう少し詳しく見ていきましょう。
根拠規定は健康保険法です。
これは通常の高額療養費とは別に、人工腎臓を実施している慢性腎不全に対して特別に設けられた制度です。「特定疾病療養受療証」を取得することで、透析の医療費の自己負担上限が1か月あたり1万円(一定以上の所得がある方は2万円)になります。
月40万円の医療費のうち、まず健康保険から約7割(28万円)が給付され、残りの3割(12万円)が患者負担の対象となりますが、この特例によって実際の窓口負担は1万円に抑えられます。差し引いた残り約11万円分は、保険者(健康保険組合・協会けんぽ・国民健康保険など)が高額療養費として給付します。この制度が「月40万円が1〜2万円になる」最大の柱です。
手続きの詳細(申請窓口・必要書類・手順)については、こちらの専門記事をご覧ください。
根拠規定は障害者総合支援法(旧:障害者自立支援法)です。
「自立支援医療受給者証」「自己負担上限額管理票」を取得することで、自己負担額が原則「医療費の1割」に抑えられます。所得区分に応じた月額上限額も設けられています(入院時の食費などは原則自己負担)。
対象となる方は次のとおりです。
| 対象の条件 | 補足 |
|---|---|
| 18歳以上で身体障害者手帳を持っている方(等級問わず) | 腎臓機能障害の透析患者はほとんどが1級に認定されます |
| 「高額治療継続者(重度かつ継続)」に該当する方 | 透析・腹膜透析・腎移植にかかわる医療が含まれます |
なお、所得制限があり、世帯の市町村民税額(所得割)が235,000円以上の場合は原則として対象外となります。ただし、透析のような高額治療を継続している「重度かつ継続」に該当する方については、令和9年(2027年)3月31日まで経過措置として引き続き対象となります(大阪市・横浜市など各自治体窓口で確認済み。令和9年4月以降の取り扱いは未定)。今後も制度動向に注目しておきましょう。
※詳細はお住まいの自治体窓口でご確認ください。
①・②の自己負担分をさらに各自治体(都道府県・市町村)が助成する制度です。
「心身障害者医療費助成制度」「重度心身障害者医療費助成制度」など、名称はさまざまで、対象となる障害の種類・程度・年齢制限・所得制限も自治体によって異なります。全腎協(全国腎臓病協議会)の調査(2025年1月現在)によれば、各都道府県・市区町村の制度内容は毎年更新されており、お住まいの地域によって助成内容が大きく異なります。
この制度を利用するには、「身体障害者手帳」を事前に取得していることが大前提です。腎臓機能障害の等級は1級・3級・4級の3区分(2級は設定なし)。透析を受けている方はほとんどの場合、1級に認定されます。透析前でも腎機能の状態によっては申請・取得できるケースがあります。各自治体窓口にご相談ください。
参照:「透析前後でも身体障害者手帳は申請できます。窓口で確認を!」
東京都を例に挙げると、透析を公費で助成する「難病医療費助成制度(マル都医療券)」があります。①で自己負担1万円となっている方が「マル都医療券」を医療機関に提示すると、その1万円分を東京都が肩代わりしてくれます。つまり自己負担がゼロになる場合もあります。
余談ですが、地方在住の方が初めて東京で旅行透析(臨時透析)をした際、会計で出てくる聞き慣れない用語に戸惑うことがあります。
「マル長」「マル障」「マル都」わかりますか?
私も透析導入まもない頃、初めて東京に行ったとき(観光もしやすくて最高でした!)、会計でこの言葉が出てきて「何か大事な書類を忘れたのかな〜」と身構えてしまったのを今でも覚えています(笑)。

| 略語 | 正式名称 | 対応する制度 | 窓口 |
|---|---|---|---|
| マル長 | 特定疾病療養受療証 | ①健康保険の特定疾病の特例(高額長期疾病) | 加入している健康保険の保険者 |
| マル障 | 身体障害者手帳 | ②自立支援医療(更生医療)の申請に必要 | 市区町村の障害福祉窓口 |
| マル都 | 人工透析マル都医療券 | ③障害者医療費助成制度(東京都版) | 都内各区市町村窓口 |
東京に出かける際は、この3語だけでも頭の片隅に置いておくと安心です。
参照:
「旅行・出張先で臨時透析。病院を探す方法・段取り教えます!」
「旅行透析。東京は観光・病院に交通も充実!でも地方だったら」
①の特定疾病の特例を受けているということは、何らかの健康保険(組合健保・協会けんぽ・国民健康保険など)に加入しているはずです。保険者によっては「医療費のお知らせ」を発行しており、自分や家族の医療費がどれくらいかかっているか確認することができます。
例えば、透析の外来(月14日分)の場合:
| 内訳 | 金額 |
|---|---|
| 医療費の総額(10割) | 449,000円 |
| 保険者(健保等)が支払った額 | 439,000円 |
| 患者の自己負担額(窓口払い) | 10,000円 |
この「自己負担10,000円」から、さらに②自立支援医療→③障害者医療費助成制度の順で差し引かれて、最終的な自己負担はさらに軽減されていきます。

医療費控除も有効な節税手段です。確定申告の際に「医療費のお知らせ」と「医療費控除の明細書」を組み合わせて申告することで、所得税の還付を受けられる場合があります。明細書は国税庁のウェブサイト(e-Tax)でも作成・提出が可能です。
ただし、各制度の助成を受けた後の実質自己負担額(例:月1万円)が控除の基準となる点に注意してください。補填された部分は医療費控除の対象外です。自己判断が難しい場合は、お近くの税務署や税理士にご相談ください。
3つの制度を順に適用した場合の自己負担の変化を、具体的な数字で見てみましょう。
| 段階 | 適用する制度 | 患者の自己負担(月額・目安) |
|---|---|---|
| 制度なし | なし(3割負担のみ) | 約12万円 |
| ①適用後 | 特定疾病の特例 | 1万円(上位所得者は2万円) |
| ①②適用後 | 特定疾病+自立支援医療 | さらに軽減(所得区分により異なる) |
| ①②③適用後 | 特定疾病+自立支援医療+障害者医療費助成 | 実質ゼロになる自治体もある |
このシミュレーションはあくまでも目安です。所得・年齢・加入保険・お住まいの自治体によって実際の負担額は変わります。透析を始めたばかりの方は、まず①の「特定疾病療養受療証」の申請から動くことが最優先です。
1. 特定疾病の特例(高額長期疾病)
2. 自立支援医療(更生医療)
3. 障害者医療費助成制度
以上、3つの制度を順に見てきました。
透析患者の医療費負担が月1〜2万円で済んでいるのは、健康保険の「特定疾病の特例(高額長期疾病)」という制度が大きな柱となっているからです。患者1人あたり年間400〜500万円近い医療費のうち、患者の自己負担分を除いた大部分は、国民が納めた保険料と公費(国・都道府県の補助)によって賄われています。
透析にかかる医療費は日本全体の国民医療費の約4〜5%前後(推計で年間約1兆6,000億円)を占めています。そのお金の出どころは、私たち国民が納めた保険料や税金です。ここが、世間の目が厳しくなる部分です。
「保険料や税金から出ているという事実」を、どう考えればいいのでしょうか?
透析療法が健康保険の給付対象となってから50年近くが経ちます。この間にも全腎協(全国腎臓病協議会)や各地の患者会の活動によって、制度は維持されてきました。しかし現在、医療保険財政は逼迫しており、地方自治体の財政も厳しい状況です。
診療報酬の見直しや透析患者の自己負担割合の変更も、十分ありえます。加えて、高齢化による医療費の増大、生活習慣病(特に糖尿病)を起因とする慢性腎臓病(CKD)患者の増加。これらは目を離せない問題です。なお、日本透析医学会の最新統計(2024年末)では、維持透析患者数は減少傾向に転じており、腎不全予防・CKD対策の成果が少しずつ現れています。ただし、これが制度の見直しを防ぐ保証にはなりません。
いずれにしても、透析をとりまく事情は今後さらに改善されるとは考えにくく、むしろ「後退傾向」と言われています。
全国の透析患者会(腎友会)では、国会へ請願するなどして、透析の医療体制の維持・向上を訴える活動を続けています。
透析患者やそのご家族は、透析に関わる制度改正や関連情報について、日頃からアンテナを張り巡らせておきましょう。