透析療法にかかる医療費のしくみは、複雑でわかりにくいものです。
自分の医療費が「どのような制度を利用すれば負担が軽減されるのか」を知るだけでは、実は事足りません。
ご存知の通り、透析の医療費はとても高いものです。それだけ世間の目も厳しいものがあります。
「医療制度のしくみ、そしてその全体像を理解すること」は透析が長期的な治療であり、必ずしも今の医療制度を維持できるものではないといった「変化」や「危機感」を感じ取ることも、大事なことと思うのです。
「なぜ月40万円弱もの透析の医療費が、1~2万円で済むのか?」を理解していますか?
「そのなぜ?」から大事ですね、確認していきましょう。
・他国と比較しても最高レベルの透析技術。ゆえに・・・、
・透析にかかる医療費は高い!
・大枠として、以下の制度を知り活用しよう
1.特定疾病の特例(高額長期疾病)2.自立支援医療(更生医療)3.障害者医療費助成制度
・透析事情は厳しい。医療制度の改正や関連する情報にアンテナをはろう!
透析の医療費は高い!「時間的」「経済的」な問題とは何なのか?
まず日本における透析事情ですが、透析者のうち97%は「血液透析」を選択し、治療のために透析のできる病院に通うのが一般的となっています。
病院で血液透析を行った場合の「時間的」「経済的」な問題にどのようなものがあるか?を考えてみます。
集約すれば「治療時間に拘束されて時間が長い」。
しいては「透析に月40万円弱もの医療費がかかっている」。
この2点になるかと思います。
もちろんほかにも、透析をするうえでの食事療法やシャントの管理、慢性合併症・・・等々、日々行わなければならないことはあって、いろいろな問題はあります。
「治療時間に拘束され、時間が長い!」
透析者側からすれば「治療時間に拘束されたくないし、時間も短いほうが良い」。少なくともそう思います。
しかし、生体の腎臓に比べてみたら透析では約10%での機能しか行っているに過ぎず、はっきり言って透析だけでは時間が足りないのです。
参照:「透析時間の決め方。4時間透析「最低ライン」に過ぎません!」
と同時に腎臓病から透析へ。
ある種の病気や障がいに対する受け止め方にもつながり、その人の生き方でもあります。
「4~5時間という治療時間をどう過ごすのか?どう使っていくのか?」
これも透析者の考え方や捉え方よって違いますし、行動次第によっては解決できる部分もあります。
(これは別の機会に、20代、30代、40代と働き盛りの年代のなかで透析を行ってきた私の経験を交えてお話しをしたいですし、何かヒントになれればと思います。)
「透析に月40万円もの医療費がかかる!」
透析は1人あたり月に40万円弱ほどかかる非常に高額なものです。しかも生涯にわたって、長期的に治療を続けていかなければなりません。
これを年間換算すると40万円×12≒480万円/年となり、ざっくばらん400~500万円は支払っていることになります(10年換算でみれば、4000~5000万)。
かなりの大きな金額ですし、負担が大きすぎます。まず払いきれません!
そこで透析者の経済的な負担を軽減するために、国の医療保険制度が確立されています。
手続きは必要ですが、実質的な透析者の負担は1~2万円で済みます。
以下「65歳未満の透析者を対象とした医療費」の全体像についてみていきます。
65歳未満の透析者を対象とした医療費について<<全体像>>
冒頭で触れましたが、透析にかかる医療費の仕組みは複雑で、わかりにくいです。
「なぜ月40万円もかかる医療費が1~2万円で済むのか?」
全体像・流れとしては、以下の3つ制度を利用することによって、自己負担は軽減されていきます。
とりわけ国の制度である健康保険法の、1.特定疾病の特例(高額長期疾病)を利用することで、1~2万円で済むことになります。
~全体像・流れ~(1⇒3の順に利用の優先順位が異なる)
1.特定疾病の特例(高額長期疾病)
2.自立支援医療(更生医療)
3.障害者医療費助成制度
1.特定疾病の特例(高額長期疾病)
→根拠規定は健康保険法によります。
これは通常の高額療養費ではなく、人工腎臓を実施している慢性腎不全(と他の2つの病期・治療法があるが・・・)に限定して、特定疾病の特例(高額長期疾病)として設けられているものです。
「特定疾病療養受領証」を取得することで、透析者の医療費は(健康保険制度上の)高額療養費の自己負担分が1か月「1万円ないし2万円」となります。
よって、まず透析者の医療費の自己負担分以外(差し引き38万~49万くらいの部分)は、最終的には公費で国が負担することになります。
なお、医療費の自己負担分が「月1万円か2万円であるか」については、透析者の所得によります。
2.自立支援医療(更生医療)
→根拠規定は障害者総合支援法(旧:障害者自立支援法)によります。
「自立支援医療受給者証」「自己負担上限額管理表」を取得することで、原則として自己負担額は「医療費の1割に相当する額」となります。
所得区分に応じて自己負担限度額が設けられています。
なお、入院時の食費や生活に関わる費用(標準負担額相当)については、原則自己負担となります。
自立支援医療(更生医療)の対象者は、
・「18歳以上で身体障害者手帳を所持する人(等級問わず)」
・「高額治療継続者※」
※旧法である障害者自立支援法でいうところの「重度かつ継続」の範囲をいい、健康保険制度上の高額療養費で多数該当(=過去1年間に高額療養費の支払いを4回以上受けている人)。ここには透析者のほか、腹膜透析や腎移植術にかかわる医療が含まれます。」
そして、上記2点のほかに所得制限※※もあります。
※※「世帯」の市町村民税額(所得割)が235,000円以上の場合は、自立支援医療(更生医療)は対象外とされます(注:但し平成30年3月31日までの経過措置で対象)。
※※これは経過措置であるので、確認が必要です。
3.障害者医療費助成制度
1.特定疾病の特例(高額長期疾病)や2.自立支援医療(更生医療)などの自己負担分を、各自治体(都道府県・市町村)が心身に重度の障害がある方に対して行う医療費を助成する制度です。
「心身障害者医療費助成制度」とか「重度心身障害者医療費助成制度」等と呼ばれますが、その制度の名称や対象となる障害、程度、年齢制限、所得制限などは、各自治体(都道府県・市町村)によってまちまちです。
障害者医療費助成制度の対象者は、
「身体障害者手帳を取得している障害者」です。
「身体障害者手帳を取得している」ことが大前提ですから、あらかじめ手帳取得のためには申請しておくことが必要です。
そして腎臓機能障害認定基準に該当していなければなりませんが、各自治体でも独自基準を設けている場合があります。
身体障害者手帳には軽いものから4級、3級、1級があります(2級は無し)。
現に透析を受けていない場合でも、腎機能の障害の程度によっては申請後に取得できる場合もありますので、各自治体に確認してみるとよいでしょう。
参照:「透析前後でも身体障害者手帳は申請できます。窓口で確認を!」
障害者医療費助成制度(東京都の場合)
東京都における障害者医療費助成制度を例にあげてみます。
指定難病と透析を公費助成する「難病医療費助成制度」があり(透析者の自己負担分が1万円の場合)、
1.の「特定疾病療養受療証」に、都から支給される「マル都医療券」を医療機関に提示することで、透析者の自己負担分1万円は東京都が負担してくれます。
余談にはなりますが、地方在住の透析者にとってはじめて東京都へ旅行透析(臨時透析)して会計時に驚くのが「マル長」「マル障」「マル都」という聞き慣れない用語(略語)です。
分かりますか?
私も透析導入してまもないの頃、はじめて出かけたのが東京でした(都内で移動も容易であるし、観光しやすいからです)。
参照:
「旅行・出張先で臨時透析。病院を探す方法・段取り教えます!」
「旅行透析。東京は観光・病院に交通も充実!でも地方だったら」
「マル〇」たかが3語。ほかにもあるかもしれない用語(略語)ですが、初めて聞いたときは正直戸惑いました。
「何か大事な書類でも忘れてしまったのかな~、あ~面倒なことになりそう」。そう会計時に身構えていたのを思い出してしまいます(笑)。
「マル長」・・・特定疾病療養受療証の略(1.健康保険の特定疾病の特例(=高額長期疾病))。
「マル障」・・・身体障害者手帳の略(2.自立支援医療(更生医療)。
「マル都」・・・人工透析のマル都医療券の略。支払い窓口で呼びます(3.障害者医療費助成制度)。
東京へお出かけや出張の際、これらの用語(略語)だけでも頭の片隅に入れておくと良いですね。
医療費のお知らせ、医療費控除なども知っておいて損なし。
1.の特定疾病の特例(高額長期疾病)を受けているということは、どこかしら保険者である健康保険組合※などに入っているはずです。
※会社員など大企業に多いのは「組合健保」、中小企業に多いのが「協会けんぽ」で被用者保険と呼ばれるものです。自営業者や主婦・学生等であれば「国民健康保険」の地域保険と呼ばれるものです。
健康保険組合によっては「医療費のお知らせ」といったように、(家族がいればその家族を含め)自分が保険医療機関等に受診した際に、医療費としてどの位かかっているのか、自己負担額はどれ位なのかを知ることができます。
例えば、2017(平成29)年3月分の透析による医師外来(透析日数14日)にかかった場合、
医療費の総額は449,000円(組合が支払った額439,000円+自己負担額10,000円)といったように確認ができます。
ここで分かる範囲は、あくまで上記の総額や自己負担額だけですが、左記の自己負担額10,000円の中から、自立支援医療(更生医療)⇒障害者医療費助成制度の優先順位でさらに差し引かれて、自己負担が軽減されていくのは想像できるかと思います。
また、2018(平成30)年1月から確定申告(医療費控除)のしくみが変わりました。
健康保険組合から出されている「医療費のお知らせ」と一緒に「医療費控除の明細書(※)」を入手・記載することで、確定申告することができるようになりました。
※「医療費控除の明細書」は税務署のWeb等から入手することができます(なおe-Taxでは行えません)。
◇まとめにかえて
1.特定疾病の特例(高額長期疾病)
2.自立支援医療(更生医療)
3.障害者医療費助成制度
以上3つの制度を順に挙げてみてきました。
透析者の医療費負担が1~2万円で済むのも、健康保険上の「特定疾病の特例(高額長期疾病)」があるからですね。
透析者1人あたり年間400~500万円近くかかっているわけですが、国はこの医療費に「国庫負担」という形で肩代わりしています。そして透析にかかる医療費は全体の5%前後になります。
もとを言えば、私たち国民から徴収された保険料や税金です。←ここですよね、世間の目が厳しく光らせている部分。
「保険料や税金であるという事実」をどう考え、どう捉えていけばいいのでしょうか?
透析療法が健康保険上で保険給付の対象になってから、50年弱が経過しました。
この間にも全腎協(全国腎臓病協議会)や透析患者会の創設・活動があり、制度の現状維持や後退などを繰り返してきました。
ご存じの通り、医療保険財政はひっ迫状態にあります。
国だけではなく地方自治体(都道府県・市町村)の財政も苦しい状況にあります。
そのため透析治療そのものの見直しがあって然りです。
「(医療機関の)診療報酬を下げるべきか」「透析者の負担割合をどうしていくのか」といった感じです。
繰り返しますが透析という治療の特性上、医療費は高くつきます。
そのほかの要因としては、超高齢に伴い医療費が増大し(透析者の超高齢も同時進行)、生活習慣病(主に糖尿病)による慢性腎臓病(CKD)の増加で、透析導入者が増加傾向にある点も目を離すことはできません。ほかにもあるでしょうが・・・。
いずれにしても透析事情は今後ともよくなるとは考えられません、むしろ「後退傾向」と言われています。
そのため透析患者会でつくる「全国の患者会(腎友会)」では、国会へ請願するなどして、透析の医療体制の維持向上を図る活動を行っています。
透析者やその家族の方は、透析に係る制度改正や関連する情報などについて、日ごろから関心を持ち、アンテナを張り巡らせておくようにしておきましょう。