ここでは透析による合併症について、取り上げています。
透析療法には「血液透析」と「腹膜透析」がありますが、どちらにしても特有の合併症はあります。
腹膜透析であれば、腹膜炎やカテーテル出口部・皮下トンネル感染症、被嚢性腹膜硬化症などが挙げられます。
もっとも日本では9割方が血液透析を選択しているのが現状なので、ここでは血液透析をしている場合の合併症についてのみ、触れていきます。
透析療法は長期的に行うものであって、腎移植を行って本来の腎臓を取り戻して生活ができるのであれば良いのですが、普及率は低いです。
さまざまな課題や問題点があるために、透析は続けていかなければなりません。透析者ならきっと誰でも移植への希望というのはあるのですが・・・。
はじめて血液透析をはじめる人、つまり透析導入者にとっての最初の合併症は、急性合併症(短期的合併症)があります。
この急性合併症でよく知られているのが、不均衡症候群(ふきんこうしょうこうぐん)と呼ばれるものです。
参照:「透析導入者は「不均衡症候群」を乗り越えなければならない。」
不均衡症候群を例に出しましたが、なぜこのようなことが起きるのでしょうか?
「血液透析することで、体内にどのような影響を与えているのか?」という視点で見ていきたいと思います。
透析による合併症、どのようなものか想像できますか?
透析を導入した私は「不均衡症候群」という言葉は一応聞いていて、その説明は受けました。
しかし、それがどのようなものであるかについては、やはり経験!?体験してみないと分からないですし、なってみないと分からないというのが、当時のことを振り返ってそう思うのです。
「この先もありそうな辛さなんだなあ~・・・」
私の場合、透析中はなるべく起きているようにしています。
本読んでいてもラジオ聞いていても、そう簡単に身動きができるわけではないので、しばしば血圧低下がみられます。頭に酸素がいかず、ぼっ~としているような感覚です。
ふだんから、頭痛や脱力感、頻脈などといった症状にならないように気をつけています。
「血液透析をしているあいだ、体にどのような影響を与えているのか?」
血液透析は、本来の生体の腎臓が24時間365日行っているものを、3~5時間/日で、しかも中1日ないし中2日の間隔(スケージュール)のなかで行っているものです。
透析者はこの中1日、中2日に体内で溜まった尿毒素や水分などを取り除かなければなりません。
そうしなければ、尿毒症に似た症状が出てきてしまうからです。
生体の腎臓と血液透析を、時間的な処理面・効率面から「中長距離的なマラソン」「短距離走」で例えてみます。
生体の腎臓⇒「中・長距離的なマラソン」
血液透析⇒「短距離走」
腎臓は24時間365日休みなく働き続けますが(一応休息もしています)、時間をかけてゆっくりと機能しているので、中・距離マラソンしているようなものです。
一方の血液透析は、隔日の3~5時間のなかで、ダイアライザーという透析器を使って短時間に効率よく行わなければなりません。「短距離走」をしている感じです。
ということで、
血液透析を行うということは、体の中では「比較的短時間」のうちに「様々な変化」が起きているわけです。
透析する前の体内は、腎臓は機能しておらず無尿のため、食事や運動などによっても尿毒素や水分が溜まっていきます。
血中濃度が高かったり(逆に低かったり)、体内のカリウムやカルシウムなどといったイオン(つまり電解質)やpH(=ペーハー。酸・アルカリのこと)といったもののバランスが総崩れしているのです。
参照:「透析治療では何をするの?腎臓は本当にすごい司令塔だった!」
透析者の体内における「様々な変化」とは、尿毒症に近いような状態から「短時間」で「ほぼ健康な人」に近い状態に戻していくわけです。
「ほぼ健康な人」。
透析治療とはいっても、腎臓を回復させるものでもないですし、腎機能を完全に補うものではないので、誤解のないように・・・。
その具体的な「様々な変化」とは何なのか?
ほぼ健康な人に近い状態に戻していくなかで、1.循環血液量(※)や体液の低下、2.尿毒素類の血中濃度の低下、3.電解質の変動・異常やpH(ペーハー)異常・修正、4.熱の喪失や負荷、5生体システムの異常などが、体内のなかで起こっているわけです。
※循環血液量・・・私たちの体の中では、酸素や栄養素を体の隅々へと運んでいる一方で、老廃物をも排出しています。「絶え間なく体内を循環している血液の量」を意味しています。
たとえば体重が70Kgの人の場合、70÷13≒5.38kgが循環血液量に相当します。
先述1~5のうちもっとも大きな影響があるのは、「1.循環血液量や体液の低下」によるものです。
透析では濾過(ろか)を行いながら同時に「除水」も行っているので、循環血液量の減少が起こり、血圧の低下をも招いてしまいます。それが血圧や脈拍などの変化としてあらわれるのです。
血液透析の急性合併症(短期的合併症)
血液透析導入時にみられる急性合併症(短期的合併症)によく挙げられるのは、
1.不均衡症候群(ふきんこうしょうこうぐん)
2.血圧の低下
3こむら返り(筋肉のけいれん)
4.発熱(透析中から透析後)
などがあります。
もっとも急性合併症でよく知られ起こりやすいのが「不均衡症候群」です。
先ほどの「様々な変化」でいうところの「1.循環血液量や体液の低下」や「3.電解質の変動・異常やpH(ペーハー)異常・修正」といったものが、不均衡症候群の症状となってあらわれてくるのです。
血液透析導入時は、まだ体が透析することに慣れていません。
透析では、急激に体内の血液にある老廃物を濾過(ろか)すると同時に、水分・塩分も除去されてきれいになっていきます。
しかし体内の血液と比べて、脳の中の老廃物は逆に除去されにくく、体内の血液と脳との間には、濃度に大きな差が生じてしまいます(=不均衡な状態という)。
そのため、脳の老廃物のほうが濃度は高いので、老廃物の濃度を薄めようとして、水分が脳のなかへ流れ込んでしまいます。
脳は水分を吸収し浮腫んでいくので、脳の内圧(ないあつ)が上昇してしまいます。
しかも生体の腎臓が24時間かけて行う働きを、3~5時間という比較的短時間のなかで透析を行うために、急激に体液の性質や量が変化してしまって、脳や体が追いつかなくなってしまうのです。
不均衡症候群の主な症状ですが、透析を開始して2~3時間経つと頭痛や吐き気、血圧の低下、筋肉の痙攣(けいれん)、脱力感、発熱などが起こってきます。
不均衡症候群の程度も、かかる期間も個人差はあります。透析に慣れていけば徐々に減っていきます。
血液透析の慢性合併症
不均衡症候群が急性合併症(短期的合併症)のものと知られているのなら、同じ血液透析でも慢性合併症(長期的合併症)というのもあり、医療的には後者のほうに重きがあります。
なぜなら、血液透析は長期的に行うものであり、それに伴って合併症は生じやすくなってくるからです。
不均衡症候群が透析者によってその出方や程度等は異なる(個人差がある)のと同じように、慢性合併症のほうも、「いつの時点で」「どのような症状が出るのか」は、透析者によって異なります。
「二次性副甲状腺機能障害」「高血圧」「貧血」 「感染症」「アミロイド骨関節症」「高カリウム血症」などがあります。
例えば、P(リン)やCa(カルシウム)の管理面からいえば、二次性副甲状腺機能障害などがそれにあたります。
P(リン)の管理は非常に難しいといいますか、大変なのです。
ですが私の場合は、この二次性副甲状腺機能障害になってしまいました。
当時の原因は、市販の菓子パンの摂りすぎでは!?というのが疑われました。
会社出勤時に簡単に済ませるためでもあったのですが・・・。包装袋の裏、よく見てみてくださいね。
症状としては、P(リン)は副甲状腺ホルモンを増加させ異常を来し、またP(リン)とは相関関係にあるCa(カルシウム)とともに骨以外の場所での付着(=骨の石灰化すること)、骨の異常(=骨密度が弱くなること)が見られたりします。
参照:「透析でリン値の高い状態。副甲状腺機能亢進症、血管石灰化に」
他方、塩分や水分の管理もあります。
透析者は尿量の減少しまいには無尿になりますが、塩分の摂りすぎると必然的に水分が欲しくなり、体重増となるので心臓に負担かけてしまいます。
またドライウエイト(DW)まで除水できないと、体内に過剰な水分を残してしまうことになるので、これもまた心臓への負担増となってしまいます。
結果「心不全」になりやすくなります。
また長期にわたって高血圧になれば心臓肥大が生じてしまい、心臓へ負担を増やしてしまいます。
高血圧は「動脈硬化症」に関わりがあり、「脳血管障害(脳卒中(脳出血・脳梗塞)」になりやすくなります。
ほとんどは、食事が関連していることに気づくでしょう。
以上、P(リン)やCa(カルシウム)、塩分・水分制限など、食事療養を適切に行わなかった場合を見てみました。
ここに挙げたのは一例であって、ほかにも慢性合併症になりやすくなる原因はいろいろあります。
◆まとめにかえて(仕事疲れ+不均衡症候群)
はじめて血液透析をした頃の話しです。
看護師さんから不均衡症候群をはじめとする「急性合併症」について、詳しく説明を受けることができました。
透析に対する不安、透析をせざる負えなくなったことへの落ちこみも、それなりにあったでしょう。
そして「透析中に頭や体がどのような状態になるのか?」を、前もって説明を受けるのと受けないのとでは、事前の情報というか構えというか、全然違うのだろうなあというのが、今思えばと感じるところはあります。
不均衡症候群の症状というのは、本当に独特なものです。
それを経験し、しばらくの間辛い時期を過ごすのは医師でも看護師さんでもなく、治療を受けている「自分」なのですから。
「不均衡症候群」を経験されたあなたは、
・どのように感じましたか?
・どのような症状になりましたか?
私が思うに、どこか「血液透析の登竜門」のような、通過洗礼のような気がしました。
感覚としては体が「変な感じがする」「いつもの自分ではないような気がする」・・・。
その例えが難しいのですよね、いろんなことが起きていますので!
そして、透析時間の経過とともに、どんどん気分や体調が芳しくなくなっていくがわかるのです。
気持ちが悪いのです!
看護師さんに声かけたところで「処置」は行ってくれますが、引き続き透析の終わりの時間まで「治療継続」。
時間がとても長く感じます。
ベッドから身動きができず。TVを観ても何だか体のほうが不愉快な感じで、せっかくの番組が面白くても笑えないですし、本読んでいてもなんだかんだで集中できなくなってしまうのです。
「早くこの4時間(という透析の時間)、終わってくれないかなあ」と。そう何回でも、透析のたびに、叫びたい気持ちで時間を過ごしました。
今だから言えますが「頭(脳)も体も本当に正直!正直なんだなあ~」と、そう思います。
透析するにしても時間は必要、「慣れ」が必要なのだということです。
私がやっとの思いで、不均衡症候群から抜け出したのには2か月超はかかったと思います。
早く脱してくれないかなあと思いながら透析はしていましたが、何せ仕事終わったあとの透析なので、疲労感も手伝って不均衡症候群が続きましたね(透析者により個人差はあります)。
参照:「透析導入者は「不均衡症候群」を乗り越えなければならない。」
今の私は、透析者なかでもそろそろベテラン入り!?に入ってきた透析歴になってきました。
私的には、透析中の血圧低下が、最近では痒み(かゆみ)が強くなってきたかなという感があり、心配の種ですね。
幸いにも合併症で手術・入院したこともありましたが、それでも体調不良で休んだり、早退するということはなく、仕事に支障もないよう「ほぼ健康に近い状態(=ベストコンディション)」に近づけています。
参照:「透析者の仕事上の相談ごと。上司・同僚への説明・理解から!」
どうしても慢性合併症は避けられないとは言われます。
私の透析歴も年齢を重ねるとともに長くなってきました。「慢性合併症の症状が出てこないか」「なるべく発症をさせないように」にも、神経を使う時期にも差し掛かってきました。
食べ過ぎ、飲みすぎで心臓をバクバクしてまで除水量が増やすとか、翌日になっても透析で疲れていて仕事にならないとか・・・なんて、苦労したくないですね。
合併症の予防・対策には「食事療法を主」として、薬物療法や運動療法を継続していかなければなりません。
早い段階から合併症の予防・対策を行うことで、合併症の発症や悪化は比較的抑えることはできるといいます。
誰にでも必ず起こるということではないので、むやみに心配しないで、自分の定期検査のデータを見比べたり、食事療法を続けていけばいいのです。
なお透析導入時点で、既にほかの合併症を持っている場合は、さらに悪くならないように注意していきましょう。
最後に、急性合併症や慢性合併症について透析者ができることとは!
急性合併症や慢性合併症にどのようなものがあるのかを正しく理解し、なるべくそれら合併症が起きにくくするように努めなければならないようにする、のが道筋だと言えるでしょう。