2018年1月26日

更新日: 2026年9月18日

「腎臓のはたらきは?」と聞かれたら、多くの方は「おしっこをつくるところ」と答えるのではないでしょうか。
わたし自身、透析を始めるまでそう思っていました。でも、透析生活を20年超送るなかで、つくづく感じることがあります。
腎臓は、単に尿をつくるだけの臓器じゃない。体全体を管理する、まさに”司令塔”だった、と。
では、透析とは何か?ひとことでいえばこうです。
透析は医療行為であり、診療報酬上は「処置」に区分されます。
まずは、腎臓がいかにすごい司令塔かを知るために、その7つの働きを整理しておきましょう。

腎臓は握りこぶしほどの大きさで、左右に2つあります。それなのに、1日に約200Lもの血液を処理するという圧倒的な働きをしています。以下の7つを見てください。「尿をつくるだけ」ではないことが、すぐにわかります。
腎臓は1日に約200Lもの血液を濾過し、老廃物を1.5Lほどの尿としてからだの外に出しています。これが機能しなくなると、毒素(尿毒素)が体内に蓄積していきます。透析が「週3回・4時間以上かけて老廃物を取り除く」治療である理由は、まさにここにあります。
成人の体は約60%が水分でできています。腎臓は尿量を増減させることで、体内の水分量をつねに一定に保っています。暑い日に尿が少なくなるのは、腎臓が水分を保持しようとしているから。逆に、腎機能が落ちると尿量が減り、水分が体内に溜まってむくみ(浮腫)が生じます。透析患者が水分制限を求められるのは、この機能を補うためです。
体内の水分にはナトリウム(Na)・カリウム(K)・リン(P)・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)といった電解質が含まれています。腎臓はその濃度を一定に保ち、筋肉の収縮や血圧の調整などが正常に機能するよう管理しています。
腎機能が低下すると特にカリウムとリンが蓄積しやすくなります。高カリウム血症は心臓に重大な影響を与え、命に関わる不整脈を引き起こすことがあります。透析患者がカリウムの多い食品(生野菜・バナナ・芋類など)に気をつけなければならないのは、このためです。
血液は弱アルカリ性(pH7.4前後)に保たれています。これを管理するのも腎臓の仕事です。酸性に傾くと不整脈・昏睡、アルカリ性に傾くと痙攣・意識障害が起こります。腎機能が落ちると血液が酸性に傾く「代謝性アシドーシス」が起こりやすくなり、これが吐き気・倦怠感・息切れの一因になります。
腎臓はレニンやカリクレインという物質を分泌し、血圧を正常範囲に保つ仕組みを担っています。レニンは血圧を上昇させ、カリクレインはその逆の作用をします。腎機能が低下すると血圧調節がうまくいかなくなり、透析患者に高血圧が多いのはこのためです。
エリスロポエチンという造血ホルモンを分泌し、骨髄に赤血球をつくるよう促します。腎機能が落ちるとエリスロポエチンが出なくなり、「腎性貧血」が起こります。だるさ・息切れ・集中力低下の主な原因の一つで、透析患者の多くはエリスロポエチン製剤の注射でこれを補っています。
食事やサプリで摂取したビタミンDは、そのままでは体に使えません。腎臓(と肝臓)で活性化されてはじめて、カルシウムの吸収を助け、骨を丈夫にします。腎機能が低下すると骨がもろくなる「腎性骨異栄養症」のリスクが高まるのはこのためです。透析患者が骨折しやすいのも、この機能の低下と深く関係しています。

| 働き | 内容 | 機能低下で起こること |
|---|---|---|
| ①尿の生成 | 老廃物を尿として体外へ排出 | 尿毒素が蓄積→尿毒症 |
| ②水分量の調節 | 尿量で体内水分を一定に保つ | 浮腫(むくみ)・高血圧 |
| ③電解質バランス | カリウム・リン・Naなどの濃度管理 | 高カリウム血症→不整脈・心停止 |
| ④pH調整 | 血液を弱アルカリ性(pH7.4)に維持 | 代謝性アシドーシス→倦怠感・吐き気 |
| ⑤血圧の調節 | レニン等のホルモンで血圧を管理 | 高血圧→心血管疾患リスク上昇 |
| ⑥造血の促進 | エリスロポエチンで赤血球産生を促す | 腎性貧血→だるさ・息切れ |
| ⑦ビタミンD活性化 | 骨のもととなるビタミンDを活性化 | 腎性骨異栄養症→骨折リスク上昇 |
慢性腎臓病(CKD)はステージ1〜5に分類されます。ステージ4になると、透析・腎移植などの「腎代替療法」の準備を並行して始める必要があります。
ステージ5は「末期腎不全」です。この段階では、
さらにGFRが10%以下になると、食事療法や薬だけでは対処できない「尿毒症」の症状が現れてきます。
尿毒素が血液に乗って全身を回りはじめると、食欲不振・吐き気・疲労感・集中力の低下・むくみ・息切れ・不整脈・皮下出血……といった症状が全身に現れます。放置すれば命に関わります。
だからこそ、腎代替療法が必要になるのです。
| ステージ | GFR(糸球体濾過量) | 状態・対応 |
|---|---|---|
| G1 | 90以上 | 腎機能は正常〜やや低下。生活習慣の改善・経過観察 |
| G2 | 60〜89 | 軽度低下。食事・薬で管理しながら経過観察 |
| G3a/G3b | 30〜59 | 中等度低下。腎臓専門医への受診が推奨される |
| G4 | 15〜29 | 高度低下。腎代替療法(透析・移植)の準備を開始 |
| G5(末期) | 15未満 | 腎代替療法が必要。透析または腎移植の導入時期 |

腎代替療法には「透析療法」と「腎移植」があります。透析療法にはさらに「血液透析(HD)」「血液透析濾過(HDF)」「腹膜透析(PD)」などがあります。
日本透析医学会の最新統計(2024年末)によると、国内の透析患者数は337,414人で、そのうち血液透析(HD)が33.2%、血液透析濾過(HDF)が63.3%で、合わせると約96.5%が血液系の透析です。腹膜透析(PD)は3.2%にとどまります。
また、以前「血液透析が約97%」と言われていた時代と比べて、現在はより高度な浄化能力をもつHDF(血液透析濾過)が主流となってきています。これは2012年の診療報酬改定以降、HDFが急増したためで、2024年末でHDF患者は213,721人に達しています。
ここでは血液透析(HD/HDF)をもとに、「透析が腎臓の代わりに何をしているか」を整理します。
| 腎臓の働き | 透析・薬での対応 | 主な手段 |
|---|---|---|
| ①老廃物の排泄 尿として体外へ | 透析液に老廃物を移して体外に除去する | 透析機械 |
| ②水分量の調節 尿量で調整 | 余分な水分を透析で機械的に除去する。水分・塩分制限も必要 | 透析機械・食事管理 |
| ③電解質バランス 自動で濃度管理 | 透析液でNa・K・Caなどを過不足なく調整。カリウム吸着薬・リン吸着薬を処方することもある | 透析機械・薬・食事管理 |
| ④pH調整 弱アルカリ性を維持 | 透析液でアルカリ分を補い、血液pHを正常化する | 透析機械 |
| ⑤血圧の調節 ホルモンで調整 | 食事(減塩・水分制限)+必要に応じて降圧薬を使用。患者の状態によって薬が使い分けられる | 薬・食事管理 |
| ⑥造血の促進 エリスロポエチン分泌 | エリスロポエチン製剤(ESA)を注射して貧血を是正する。透析液では補えない | 注射薬 |
| ⑦ビタミンDの活性化 腎臓で活性化 | 活性型ビタミンD製剤を内服・注射で補充する。透析液では補えない | 内服・注射薬 |
表からわかるように、①〜④は透析機械がある程度肩代わりできますが、⑤〜⑦はそれだけでは不十分で、薬や食事管理が必ず必要です。透析患者が多くの薬を飲んでいる理由は、腎臓の機能のうち「機械では代替できない部分」を薬で補っているからなのです。
健康な腎臓は24時間365日、休まず働き続けています。ところが血液透析は、週3回・1回4時間以上、週合計12時間の治療が標準です。単純計算でも、腎臓が1週間に働く時間(168時間)のわずか7%程度しかカバーできていません。
この「カバーしきれない93%」の穴を埋めるのが、食事制限・水分制限・服薬管理という日常の自己管理です。
「機械が全部やってくれる」わけではなく、透析はあくまで”補助”。自分自身の管理がセットになって初めて成り立つ治療なのです。
近年、血液透析(HD)から血液透析濾過(HDF)への移行が進んでいます(2024年末で全透析患者の63.3%がHDF)。その理由はHDFの持つ特性にあります。
| 項目 | HD(血液透析) | HDF(血液透析濾過) |
|---|---|---|
| 除去できる物質 | 主に小分子の老廃物 | 小分子に加え中・大分子も除去 |
| 透析液の使用量 | 標準的 | 大量の置換液を使用 |
| 透析中の血圧安定性 | 変動しやすい場合あり | 比較的安定しやすい |
| かゆみ・合併症への効果 | 一定の効果 | かゆみ軽減・生命予後改善の報告あり |
HDFは透析液の大量使用が必要なため、コストや設備面のハードルがありましたが、2012年の診療報酬改定以降、急速に普及しました。「どちらが自分に向いているか」は主治医と相談して決めるべきですが、選択肢があること自体は知っておきたいことです。
日本透析医学会の2024年末統計によると、透析患者の原疾患(透析が必要になった元の病気)の内訳は以下の通りです。
| 順位 | 原疾患 | 割合 |
|---|---|---|
| 第1位 | 糖尿病性腎症 | 39.2% |
| 第2位 | 慢性糸球体腎炎 | 23.0% |
| 第3位 | 腎硬化症 | 14.5% |
第1位の糖尿病性腎症が約4割を占めるというのは、非常に重要な数字です。糖尿病から腎機能が低下して透析に至るケースが最も多いことを意味します。また第3位の腎硬化症(高血圧などによる腎臓の硬化)は近年増加傾向にあり、生活習慣病との関係が透析導入の大きな原因となっていることがわかります。
私自身の導入原因は糖尿病性腎症ではありませんでしたが、こうした統計を見るたびに「腎臓病は生活習慣病との闘いでもある」と改めて感じます。
腎臓の7つの働きを知ると、なぜ透析患者がこれほど多くのことに気をつけなければならないのかが、自然に理解できます。
腎臓は「尿をつくる臓器」ではなく、体全体のバランスを管理するすごい司令塔でした。その司令塔が使えなくなったとき、機械と薬と自己管理を組み合わせて、その代わりを務めなければならない。それが透析生活の本質です。
透析治療を始めたばかりの方、あるいはこれから透析を考えている方へ。最初は不安で当然です。でも、仕組みを知れば知るほど、「何のためにこの管理が必要なのか」が腑に落ちてきます。ぜひこの記事を、透析を理解する第一歩にしてもらえたら嬉しいです。
| テーマ | 要点 |
|---|---|
| 腎臓の役割 | 尿生成だけでなく、水分・電解質・pH・血圧・造血・骨の維持まで担う「体の司令塔」 |
| 透析治療の本質 | 機械+薬+食事管理の組み合わせで腎臓の代わりを務める。週12時間は腎臓の働きの7%程度 |
| 透析の種類 | 2024年末現在、HDF(63.3%)・HD(33.2%)が主流。腹膜透析(PD)は3.2% |
| 透析患者数(最新) | 337,414人(2024年末・日本透析医学会統計)。国民約367人に1人の計算 |
| 最多の原疾患 | 糖尿病性腎症(39.2%)。生活習慣病との関係が深い |
腎臓は「単なる臓器」ではなく、体全体のバランスを管理するすごい司令塔でした。その司令塔が使えなくなったとき、機械と薬と自己管理を組み合わせて、その代わりを務めなければならない。それが透析生活の本質です。
透析を始めたばかりの方、あるいはこれから透析を考えている方へ。最初は不安で当然です。でも、仕組みを知れば知るほど、「何のためにこの管理が必要なのか」が腑に落ちてきます。ぜひこの記事を、透析を理解する第一歩にしてもらえたらと思います。