2018年4月21日

更新日: 2026年10月13日
今回は特に透析導入時に多いとされる「不均衡症候群」について取り上げていきます。
私が透析を始めたのは20代後半でしたが、導入に際して看護師さんから不均衡症候群についての説明を受けていました。
末期の腎不全で尿毒症がひどくなり、すぐにでも始まるだろう血液透析に対して——不安感、緊張感、透析に対するいろいろな疑問。そういったものが自分の中に積み重なっていました。腎不全に至るまでの腎臓病の治療では、食事療法が基本中の基本でした。そこへ「運動も控えるように」という指示が重なり、運動もできないことがさらなるストレスになっていました。
当時は「腎臓に負担をかけないためにも運動は避けるべき」が当たり前でした。しかし現在では、派手な運動こそ避けるべきですが「適切な運動はむしろ行ったほうが良い」という方向に考え方が変わっています。条件は大きく緩和されています。
腎不全末期から透析導入へ。そして血液透析導入と同時に、今度は不均衡症候群に……。
「正直、若くても老いても関係ない!具合が悪いものは悪い!」
不均衡症候群になってはじめてわかる、この症状。言葉の表現が見当たらないのですが——透析導入者にとって「不均衡症候群」とは、はじめての合併症であり、血液透析の登竜門のような通過儀礼なのかな、と私なりに感じました。
血液透析に特有の合併症でもある不均衡症候群は、特に透析導入者(透析を始めたばかりで、まだ体が慣れていない方)に起こりやすいことはよく知られています。なぜ起こりやすいのでしょうか。仕組みから順を追って見ていきましょう。
透析前の体内は、腎臓が機能しておらず老廃物(医学的には「尿毒素」と呼ばれます)が大量に溜まっています。この状態は「尿毒症に近い状態」です。
血液透析が始まると、まず血液の中にある老廃物が「急速に」除去されてきれいになっていきます。その後、細胞の中にある老廃物が血液中に出てきて、さらに浄化されていくという経過をたどります。ここまでは「透析がしっかり働いている証拠」として、良いことのように聞こえます。でも、ここで問題が起きるのです。

血液中の老廃物は透析によって速やかに除去されますが、脳には「血液脳関門(けつえきのうかんもん)」という特別な防壁があります。この防壁は、細菌やウイルスなどの有害なものが脳に侵入しないよう守ってくれる大切な仕組みです。ところがこの防壁のせいで、脳内に溜まった老廃物は血液中の老廃物ほど素早く除去されません。
その結果、血液中の老廃物濃度は一気に下がるのに、脳内の老廃物濃度は高いまま残る——という「濃度差(浸透圧の不均衡)」が生まれます。
| 透析が始まると… | |
|---|---|
| 血液中 | 老廃物が速やかに除去される → 濃度が急激に低下 |
| 脳内 | 血液脳関門のため除去が遅れる → 老廃物濃度が高いまま残る |
| 結果 | 脳内の濃度が高い → 濃度を薄めようとして水分が脳内へ流れ込む → 脳が浮腫(むくみ)、脳内の圧力が上昇する |
濃度の低い側から高い側へ水分が移動する力——これを「浸透圧」と呼びます。この浸透圧の不均衡が不均衡症候群の主な原因と考えられています。
分かりやすく例えると「青菜に塩をふると、野菜から水分が引き出されてしおれる」のと逆の現象が脳で起きるイメージです。脳内の老廃物濃度が高いために、周囲の水分が引き寄せられて脳が浮腫んでしまうのです。
「不均衡症候群」とは脳の中で生じる副作用——透析中や透析後に頭痛や吐き気が起きるのは、老廃物が急速に取り除かれることで脳圧が上がり、脳が浮腫んでしまうからです。
参照:「血液透析(HD)の手順・流れは確認しておいた方がよいわけ」
透析を始めてから2〜3時間が経過すると、頭痛・吐き気・脱力感といった症状が出てきます。反応が早い方だと30分〜1時間で症状が出ることもあります。また透析が終わった後も12時間以内に同じような症状が現れる場合があります。症状の出方や程度は個人差がありますが、代表的なものを整理します。
| 症状 | 詳細・起きる理由 | すぐできる対処 |
|---|---|---|
| 頭痛 | 脳圧が上昇することで起こる。透析開始2〜3時間後が多い | 医師・看護師に知らせる。痛み止めや脳圧を下げる点滴で対処 |
| 血圧の低下 | 水分の除去と体液バランスの急激な変化により血液の量が減少。あくび・眠気・顔面蒼白・吐き気・冷や汗・目のかすみ・最悪の場合は意識低下も | 枕を外して頭を低くする。吐き気があれば顔を横に向ける |
| 吐き気・嘔吐 | 脳圧上昇・血圧低下が複合して起こることが多い | 無理に抑えず、顔を横向きに。吐き気止めの処置を依頼 |
| 脱力感・倦怠感 | 全身への血液循環の変化による疲労感 | 無理に動かず安静に。看護師に伝える |
| 筋けいれん(こむら返り) | 除水が急激な場合や体液のバランスが崩れたときに起こりやすい。足や腕にこわばり・痛み・突っ張り感 | マッサージや温めで対処。除水の調整を依頼 |
| けいれん・視力障害 | 重症例では起こることも | すぐに医師・看護師へ。けいれんを抑える薬で対処 |
症状が出そうだと感じたら、我慢せず、すぐに医師や看護師に知らせてください。ひとりで抱えていても症状は改善しません。透析は治療中なので、処置してもらいながら治療を続けることになります。
なお不均衡症候群は「透析導入者に多い」とは言われますが、ある程度慣れた透析患者でも血圧低下や頭痛・吐き気になることはあります。特に体調が優れないとき、前日から水分・塩分を取りすぎたとき、除水量が多くなるときなどは注意が必要です。20年超透析を行っている私自身も、透析中の血圧低下は今でも気をつけていることの一つです。
不均衡症候群の症状は、透析中だけでなく透析が終わった後12時間以内にも現れることがあります。透析室を出てから、帰宅途中の電車の中、仕事場に戻った直後、自宅で夕食を食べた後——そういった場面で突然頭痛や吐き気が来ることがあるのです。「透析が終わったから大丈夫」と油断しやすいこの時間帯に、こんなリスクがあることを頭に入れておいてください。
| 場面 | 起きやすいリスク | 対策・心がけ |
|---|---|---|
| 透析直後・帰宅途中 | 透析終了直後は頭痛・血圧低下・吐き気が最も起きやすいタイミング。電車やバスの中で突然気分が悪くなることも | 透析終了後はすぐに立ち上がらず、数分間座った状態で様子を見る。帰宅時は座れる交通機関を選ぶ |
| 仕事に戻った直後 | デスクワーク中に急に頭が重くなったり、集中できなくなることがある。立ち仕事の場合は転倒リスクも | 透析日の仕事復帰は可能な限り午後からにする。上司・同僚に「透析後は体調が不安定になることがある」と伝えておく |
| 帰宅後・夕食時 | 透析終了から数時間後に頭痛・吐き気が出ることがある(透析後12時間以内) | 夕食は消化の良いものを少量ずつ。横になる際はシャント側の腕を下にして寝ないよう注意 |
| 入浴時 | 湯船から立ち上がるときに血圧が急降下して立ちくらみが起きやすい | 透析当日の入浴はシャワーにとどめるか、湯船に長く浸からない。浴室に手すりを設置する |
| 就寝・起床時 | 朝の起き上がりで血圧が下がる「起立性低血圧」が重なることも | 起床時はいきなり立ち上がらず、まず上半身を起こしてから数秒待つ習慣をつける |
特に透析導入直後は「透析が終わったあとが一番しんどい」という方が多いです。これは決して気持ちの問題ではなく、体が透析という大きな変化にまだ慣れていないからです。自分を責めず、周囲にも正直に伝えて、無理のない生活リズムをつくっていくことが大切です。
不均衡症候群は誰にでも起こりうるものですが、年代や性別によってその出方や周囲の状況が大きく違います。自分に当てはまるものを確認してみてください。
| 年代 | 特有の状況・リスク | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 20〜30代 | 仕事・子育てを抱えながら透析を始める方が多く、透析後に無理をしやすい。「若いから大丈夫」と症状を我慢しがち。透析歴が最も長くなりえる世代でもあり、導入期の体への影響が長い年月に及ぶ | 透析導入直後はとにかく「無理しないこと」が最優先。職場や家族への事前の説明が不均衡症候群を乗り越える鍵になる |
| 40〜50代 | 管理職・自営業など仕事の責任が重い時期と重なることが多い。「休めない」「弱みを見せられない」という意識から症状を隠してしまいやすい。体力的にも回復に時間がかかり始める | 不均衡症候群の症状は「体がサインを出している」と受け取ること。無理に透析翌日から全力で仕事に戻るのはリスクが高い。まず医師・看護師に現状を正直に伝えること |
| 60〜70代以上 | 自律神経の衰えで血圧変動が大きくなりやすい。帰宅後や起床時の立ちくらみによる転倒リスクが高く、骨折・頭部打撲が深刻になりやすい。認知機能の低下が重なると「気分が悪い」と言語化できない場合も | 自宅の浴室・廊下・トイレに手すりを設置するなど、転倒予防の環境整備を先に行っておくことを強くすすめます。家族やヘルパーさんに「透析後はしばらく不安定になる」と共有しておく |
| 性別 | 特有のリスク・背景 | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 女性 |
| 透析導入直後の家事・育児の負担は周囲に分担してもらえるよう、事前に家族と相談しておくことが大切。体が小さいからこそ、少しの変化も見逃さないようにしてほしい |
| 男性 |
| 「体の変化を医師・看護師に伝えること」が一番の治療です。我慢することは美徳ではなく、回復を遅らせるだけです |
「不均衡症候群を予防するために何かできることはあるか?」と言えば、結局のところ食事療法(食事・水分制限を守ること)を続けることに尽きます。
透析していても「食事療法は基本中の基本」です!
なぜ食事療法が予防につながるのか、それぞれの症状との関係を整理します。
| 予防したい症状 | 食事療法との関係 |
|---|---|
| 血圧低下の予防 | 塩分・水分の摂りすぎ → 体重増 → 多量の除水が必要 → 血圧低下を招く。塩分・水分を控えて体重増を抑えることが、血圧低下の予防につながる |
| 筋けいれんの予防 | 除水量が多くなるほど筋けいれんが起きやすい。食事・水分制限を守ることで除水量を抑え、体液バランスの急変を防ぐ |
| 全般的な合併症予防 | 体内に多量の老廃物や余分な水分を溜めないことが、透析中の急激な変化を緩和する |
食事療法を続けないとどうなるか——「体重増で除水量が増えて、心臓や血管への負担が増える」という悪循環に入り、それがどこかで血圧低下や筋けいれんとして自分に跳ね返ってきます。腎臓病のころより、いっそうの水分制限やリン・カルシウムの調整が加わって自己管理は大変になりますが、それでも食事療法を続けることの大切さは変わりません。
透析患者自身だけでは予防できないこともあります。医療側(医師・看護師・臨床工学技士)が行う対処・予防の方法を参考までに紹介します。
| 医療的な対処・予防 | 内容 |
|---|---|
| 緩やかな透析条件の設定 | 通常4〜5時間の透析を、導入初期は2〜3時間の短時間透析から始める。症状が出る前に透析を終えることで体を徐々に慣れさせる |
| 透析効率を緩めに設定 | 膜面積の小さい透析器を使用することで、老廃物の除去スピードを抑え、体液の急激な変化を防ぐ |
| 除水量の抑制 | 除水量を最小限に抑え、血管内の水分不足・血圧低下を予防する |
| 薬での対処 | 頭痛には痛み止め・脳圧を下げる点滴、筋けいれんにはけいれんを抑える薬、吐き気には吐き気止めを使用 |
このようにして、不均衡症状が出ないように最初は透析効率(透析時間・透析器の大きさ・血液の流量など)を低く抑えながら、体が慣れるにつれて次第に上げていきます。透析条件は「透析を続けながら最適化されていく」ものと理解しておきましょう。
回診中に医師から「不均衡症候群の症状もしばらくすると慣れますよ」と説明を受けることがあるでしょう。何となく無責任な言い方のように感じるかもしれません。でも実は、そう説明するほかないのが正直なところです。
不均衡症候群の症状がいつまで続くか、いつ消えるかは、個人差があって医師にも予測できません。
ただ、時間が経って透析に慣れてくれば自然と消えていく——「一過性のもの」であるということです。
「いつまで続くの?」という不安は、透析を始めたばかりの方なら誰でも感じます。答えは「人によって違うが、必ず終わりは来る」——これだけは確実に言えます。
「症状が出たときにどうすればいいか」を、透析中と透析後に分けて整理します。頭に入れておくだけで、いざというときの慌て方が全然違います。
| タイミング | 症状 | その場でできる対処 |
|---|---|---|
| 透析中 | 頭痛・吐き気・血圧低下・こむら返り・脱力感 | 我慢せずすぐ医師・看護師へ伝える。枕を外して頭を低く。吐き気があれば顔を横向きに。足がつったらマッサージと温め |
| 透析直後〜帰宅途中 | 立ちくらみ・ふらつき・頭痛 | すぐに座る。無理に歩かない。電車・バスでは席を確保する。気分が悪ければ病院に電話 |
| 帰宅後(透析後12時間以内) | 頭痛・吐き気・ぐったり感 | 横になって休む。シャント側を下にして寝ない。水分は少量ずつ。翌朝も症状が続く場合は病院へ連絡 |
| 仕事中・外出先 | めまい・頭痛・集中できない | まず座る。上司・同僚に伝える。ひどい場合はその日の仕事を早退することを迷わない |
大切なのは「一人で抱えない」ことです。透析室では医師・看護師が必ずいますから、どんな小さな変化も遠慮なく伝えてください。透析室の外では、家族・職場の上司・同僚に事前に状況を共有しておくことで、いざというときの対応が格段に変わります。

不均衡症候群は徐々に消えていくと言いますが、透析導入者本人でないと分からないものがあります。
透析中に症状が出てくると、ベッドに寝たままシャントのカテーテルにもつながれていて、全くもって身動きができません。何とかしたいという気持ちにかられながら、じっとしていられない辛さがあります。
それだけではなく——4時間という長い透析時間、周りの透析患者の存在、仕事や家庭のことへの心配。透析への緊張感・不安感・ストレスも重なって、不均衡症候群の症状をいっそう助長させてしまうことがあります。
私自身の場合、「時間を有意義に使いたい」という一心で、TVを見たり読書をしようとしたり、何かに集中することで不均衡症候群に陥らないよう意識していました。「病は気から!気を紛らわせれば少しは楽になるかな」と思って。でもさすがに——透析を始めて2〜3時間が経つと、低血圧や頭痛といった症状が出てきてしまいました。看護師さんを呼んで処置してもらっても、すぐに良くなるものではありません。残り2時間、あと1時間……時計を見るたびに、本当に辛かったです。
「TVも読書も集中できないよ……もう、こればかりはどうしようもない。」
そうなのです。こればかりは「時間の経過と透析への慣れ」を待つしかありません。今だから言えますが「頭も体も、本当に正直なものだなあ」と思います。
透析に慣れていくには時間が必要です。私の場合、不均衡症候群の時期は比較的短かった記憶がありますが、それでも透析が終わった後の仕事の疲労感も手伝って、辛い時期が続きました(個人差があります)。
合併症の全体像についてはこちらもご参照ください。
参照:「透析による合併症。予防&対策は【食事療法】がもっとも有効!」
最後に、不均衡症候群についての重要ポイントをまとめます。
| 透析導入者の不均衡症候群 まとめ | |
|---|---|
| 1 | 不均衡症候群は、血液透析によって脳内の浸透圧不均衡が生じ、脳が浮腫むことで起きる。透析導入者に多いが、慣れた透析患者でも起こりうる |
| 2 | 頭痛・血圧低下・吐き気・筋けいれんなどの症状が透析中〜透析後12時間以内に現れることがある。症状が出たら我慢せず、すぐに医師・看護師へ |
| 3 | 自分でできる予防の基本は食事療法(塩分・水分制限を守り体重増を抑えること)。除水量を増やさないことが血圧低下・筋けいれん予防につながる |
| 4 | 医療側は透析条件を緩やかに設定し、透析効率を低く抑えながら体を少しずつ慣れさせていく |
| 5 | 「いつ消えるか」は個人差があり予測不可。透析に慣れると自然に消えていく一過性のものだと知っておくことで、精神的な余裕が生まれる |
| 6 | 透析後12時間以内は帰宅後・仕事中・入浴時にも症状が出うる。「透析が終わったら安心」ではなく、その日は無理をしないことが回復の近道 |
透析を導入された方は、「不均衡症候群」という最初に経験するであろうこの合併症の時期を、なんとしても乗り越えてほしいと思います。辛い時期は必ず終わります。そしてその先には、自分なりのペースをつかんだ安定した透析生活が待っています。