透析導入者が直面する不均衡症候群の症状・原因・予防を解説

2018年4月21日

透析導入者が直面する不均衡症候群の症状・原因・予防を解説
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更新日: 2026年7月20日

透析導入者の不均衡症候群とは

 

今回は特に透析導入時に多いとされる「不均衡症候群」について取り上げていきます。

私が透析を始めたのは20代後半でしたが、導入に際して看護師さんから不均衡症候群についての説明を受けていました。

 

末期の腎不全で尿毒症がひどくなり、すぐにでも始まるだろう血液透析に対して——不安感、緊張感、透析に対するいろいろな疑問。そういったものが自分の中に積み重なっていました。

腎不全に至るまでの腎臓病の治療では、食事療法が基本中の基本でした。そこへ「運動も控えるように」という指示が重なり、運動もできないことがさらなるストレスになっていました。

 

当時は「腎臓に負担をかけないためにも運動は避けるべき」が当たり前でした。しかし現在では、派手な運動こそ避けるべきですが「適切な運動はむしろ行ったほうが良い」という方向に考え方が変わっています。条件は大きく緩和されています。

 

腎不全末期から透析導入へ。そして血液透析導入と同時に、今度は不均衡症候群に……。

 

「正直、若くても老いても関係ない!具合が悪いものは悪い!」

 

不均衡症候群になってはじめてわかる、この症状。言葉の表現が見当たらないのですが——透析導入者にとって「不均衡症候群」とは、はじめての合併症であり、血液透析の登竜門のような通過儀礼なのかな、と私なりに感じました。

 

不均衡症候群は透析導入者にとって最初に経験する合併症——血液透析の登竜門
・頭痛・吐き気・血圧低下・脱力感・筋けいれんなど、多彩な症状が出る
・原因は「血液脳関門」により脳内の老廃物除去が遅れ、浸透圧の不均衡から脳に水分が流れ込むこと
いつ消えるかは個人差があり、医師にも予測できない——透析に慣れると自然に消えていく
・予防の基本は食事療法(塩分・水分制限)+医療側による緩やかな透析条件の設定

 

不均衡症候群は透析導入者に多い——その仕組みを知ろう

血液透析に特有の合併症でもある不均衡症候群は、特に透析導入者(透析を始めたばかりで、まだ体が慣れていない方)に起こりやすいことはよく知られています。

なぜ起こりやすいのでしょうか? 仕組みから順を追って見ていきましょう。

 

透析前の体の中は「尿毒症に近い状態」

透析前の体内は、腎臓が機能しておらず尿毒素(老廃物)が大量に溜まっています。この状態は尿毒症に近い状態です。

血液透析が始まると、まず血液の中にある老廃物が「急速に」除去されてきれいになっていきます。その後、細胞の中にある老廃物が血液中に出てきて、さらに浄化されていくという経過をたどります。

 

なぜ脳が浮腫んでしまうのか——浸透圧の不均衡

脳内はむくんだ状態に

 

血液中の老廃物は透析によって速やかに除去されますが、脳には「血液脳関門(けつえきのうかんもん)」という特別な防壁があります。この防壁のせいで、脳内に溜まった老廃物は血液中の老廃物ほど素早く除去されません。

その結果、血液中の老廃物濃度は一気に下がるのに、脳内の老廃物濃度は高いまま残る——という「濃度差(浸透圧の不均衡)」が生まれます

 

 透析が始まると…
血液中老廃物が速やかに除去される → 濃度が急激に低下
脳内血液脳関門のため除去が遅れる → 老廃物濃度が高いまま残る
結果脳内の濃度が高い → 濃度を薄めようとして水分が脳内へ流れ込む
→ 脳が浮腫(むくみ)、脳内圧力が上昇する

 

濃度の低い側から高い側へ水分が移動する力——これを「浸透圧」と呼びます。この浸透圧の不均衡が不均衡症候群の主な原因と考えられています。

分かりやすく例えると「青菜に塩をふると、野菜から水分が引き出されてしおれる」のと逆の現象が脳で起きるイメージです。脳内の老廃物濃度が高いために、周囲の水分が引き寄せられて脳が浮腫んでしまうのです。

 

「不均衡症候群」とは脳の中で生じる副作用——透析中や透析後に頭痛や吐き気が起きるのは、老廃物が急速に取り除かれることで脳圧が上がり、脳が浮腫んでしまうからです。

 

参照:「血液透析(HD)の手順・流れは確認しておいた方がよいわけ

 

不均衡症候群の症状——どんなことが起きるのか

では「不均衡症候群」にはどのような症状があるのでしょうか?

透析を始めてから2〜3時間が経過すると、頭痛・吐き気・脱力感といった症状が出てきます。反応が早い方だと30分〜1時間で症状が出ることもあります。また透析が終わった後も12時間以内に同じような症状が現れる場合があります。

症状の出方や程度は個人差がありますが、代表的なものを整理します。

 

症状詳細・原因すぐできる対処
頭痛脳圧が上昇することで起こる。透析開始2〜3時間後が多い医師・看護師に知らせる。鎮痛薬や脳圧を下げる点滴で対処
血圧の低下除水と電解質の急激な変化により循環血液量が減少。あくび・眠気・顔面蒼白・吐き気・冷や汗・目のかすみ・最悪の場合は意識低下も枕を外して頭を低くする。吐き気があれば顔を横に向ける
吐き気・嘔吐脳圧上昇・血圧低下が複合して起こることが多い無理に抑えず、顔を横向きに。制吐薬の処置を依頼
脱力感・倦怠感全身への血液循環の変化による疲労感無理に動かず安静に。看護師に伝える
筋けいれん(こむら返り)除水が急激な場合や電解質バランスが崩れた時に起こりやすい。足や腕にこわばり・痛み・突っ張り感マッサージや温めで対処。除水の調整を依頼
痙攣・視力障害重症例では起こることもすぐに医師・看護師へ。抗けいれん薬で対処

 

症状が出そうだと感じたら、我慢せず、すぐに医師や看護師に知らせてください。ひとりで抱えていても症状は改善しません。透析は治療中なので、処置してもらいながら治療を続けることになります。

 

なお不均衡症候群は「透析導入者に多い」とは言われますが、ある程度慣れた透析患者でも血圧低下や頭痛・吐き気になることはあります。特に体調が優れないとき、前日から水分・塩分を取りすぎたとき、除水量が多くなるときなどは注意が必要です。20年超透析を行っている私自身も、透析中の血圧低下は今でも気をつけていることの一つです。

 

不均衡症候群の予防——自分でできることと医療側が行うこと

自分でできる予防——食事療法が基本中の基本

「不均衡症候群を予防するために何かできることはあるか?」と言えば、結局のところ食事療法(食事・水分制限を守ること)を続けることに尽きます

 

透析していても「食事療法は基本中の基本」です!

 

なぜ食事療法が予防につながるのか、それぞれの症状との関係を整理します。

 

症状食事療法との関係
血圧低下の予防塩分・水分の摂りすぎ → 体重増 → 多量の除水が必要 → 血圧低下を招く。塩分・水分を控えて体重増を抑えることが、血圧低下の予防につながる
筋けいれんの予防除水量が多くなるほど筋けいれんが起きやすい。食事・水分制限を守ることで除水量を抑え、電解質バランスの急変を防ぐ
全般的な合併症予防体内に多量の老廃物や余分な水分を溜めないことが、透析中の急激な変化を緩和する

 

食事療法を続けないとどうなるか——「体重増で除水量が増えて、心臓や血管への負担が増える」という悪循環に入り、それがどこかで血圧低下や筋けいれんとして自分に跳ね返ってきます。腎臓病のころより、いっそうの水分制限やリン・カルシウムの調整が加わって自己管理は大変になりますが、それでも食事療法を続けることの大切さは変わりません。

 

医療側が行う予防——「緩やかな透析条件」で体を慣れさせる

透析患者自身だけでは予防できないこともあります。医療側(医師・看護師・臨床工学技士)が行う対処・予防の方法を参考までに紹介します。

 

医療的な対処・予防内容
緩やかな透析条件の設定通常4〜5時間の透析を、導入初期は2〜3時間の短時間透析から始める。症状が出る前に透析を終えることで体を徐々に慣れさせる
透析効率を緩めに設定小さい膜面積のダイアライザー(透析器)を使用。老廃物の除去速度を抑えることで体液の急激な変化を防ぐ
除水量の抑制除水量を最小限に抑え、血管内の脱水・血圧低下を予防する
薬剤での対処頭痛には鎮痛薬・脳圧を下げる点滴、筋けいれんには抗けいれん薬、吐き気には制吐薬を使用

 

このようにして、不均衡症状が出ないように最初は透析効率(透析時間・ダイアライザーの大きさ・血液流量など)を低く抑えながら、体が慣れるにつれて次第に上げていきます。透析条件は「透析を続けながら最適化されていく」ものと理解しておきましょう。

 

「いつ消えるか分からない」——これが正直な答え

回診中に医師から「不均衡症候群の症状もしばらくすると慣れますよ」と説明を受けることがあるでしょう。何となく無責任な言い方のように感じるかもしれません。

でも実は、そう説明するほかないのが正直なところです。

 

不均衡症候群の症状がいつまで続くか、いつ消えるかは、個人差があって医師にも予測できません。

ただ、時間が経って透析に慣れてくれば自然と消えていく——「一過性のもの」であるということです。

 

◆まとめにかえて——「乗り越えた先」に安定した透析生活がある

不均衡症候群は時間の経過とともに消えていく

不均衡症候群は徐々に消えていくと言いますが、透析導入者本人でないと分からないものがあります。

透析中に症状が出てくると、ベッドに寝たままシャントのカテーテルにもつながれていて、全くもって身動きができません。何とかしたいという気持ちにかられながら、じっとしていられない辛さがあります。

 

それだけではなく——4時間という長い透析時間、周りの透析患者の存在、仕事や家庭のことへの心配。透析への緊張感・不安感・ストレスも重なって、不均衡症候群の症状をいっそう助長させてしまうことがあります。

 

私自身の場合、「時間を有意義に使いたい」という一心で、TVを見たり読書をしようとしたり、何かに集中することで不均衡症候群に陥らないよう意識していました。「病は気から!気を紛らわせれば少しは楽になるかな」と思って。

でもさすがに——透析を始めて2〜3時間が経つと、低血圧や頭痛といった症状が出てきてしまいました。看護師さんを呼んで処置してもらっても、すぐに良くなるものではありません。残り2時間、あと1時間……時計を見るたびに、本当に辛かったです。

 

「TVも読書も集中できないよ……もう、こればかりはどうしようもない。」

 

そうなのです。こればかりは「時間の経過と透析への慣れ」を待つしかありません。今だから言えますが「頭も体も、本当に正直なものだなあ」と思います。

 

透析に慣れていくには時間が必要です。私の場合、不均衡症候群の時期は比較的短かった記憶がありますが、それでも透析が終わった後の仕事の疲労感も手伝って、辛い時期が続きました(個人差があります)。

 

合併症の全体像についてはこちらもご参照ください。
参照:「透析による合併症。予防&対策は【食事療法】がもっとも有効!

 

最後に、不均衡症候群についての重要ポイントをまとめます。

 

1.不均衡症候群は、血液透析によって脳内の浸透圧不均衡が生じ、脳が浮腫むことで起きる。透析導入者に多いが、慣れた透析患者でも起こりうる
2.頭痛・血圧低下・吐き気・筋けいれんなどの症状が透析中〜透析後12時間以内に現れることがある。症状が出たら我慢せず、すぐに医師・看護師へ
3.自分でできる予防の基本は食事療法(塩分・水分制限を守り体重増を抑えること)。除水量を増やさないことが血圧低下・筋けいれん予防につながる
4.医療側は透析条件を緩やかに設定し、体を少しずつ慣れさせながら透析効率を上げていく
5.「いつ消えるか」は個人差があり予測不可。透析に慣れると自然に消えていく一過性のものだと知っておくことで、精神的な余裕が生まれる

 

透析を導入された方は、「不均衡症候群」という最初に経験するであろうこの合併症の時期を、なんとしても乗り越えてほしいと思います。

辛い時期は必ず終わります。そしてその先には、自分なりのペースをつかんだ安定した透析生活が待っています。