ここでお話しするのは「血液透析の効率をあげるためにはどうすればいいのか?」という内容になります。
・透析者のシャントの状態、管理のしかたが悪ければ透析効率は落ちる!
・透析者ができることは「シャントの自己管理」や「食事療法」、あとは「透析時間の確保」など、
できることをする。
血液透析の効率をあげるためには?
ふだんの生活や仕事のなかでの場面を思い出してみてください。
・旅行に出かけるとき「効率よく出掛けるための手段等(ルートや時間、費用・・・)」を考えます。
・新しいガソリン車を購入する際には「ガソリンの燃費」を、EV車(電気自動車)なら「充電時間」や「充電走行距離」を気にしながら、購入判断の目安にします。
・仕事の際には「いかには早くしかも正確に終わらせるか」を、組み立ててながら考えていきます。
・販売業や飲食業をはじめ、繁忙な時間、繁閑な時間にあわせてスタッフの配置を考えます。
何気に時間や距離、燃費、コスト、人等々・・・何かしら「効率」というものを考えています。
血液透析においても「いかに透析の効率をあげるか(高めるか)?」という考え方があります。
これを「透析効率」と呼んでいます。
「透析効率」という用語自体、はじめて聞いたか用語かもしれないですね。
「シャント」とか「ドライウエイト」のように、ふだんから聞くような用語では無いですし、馴染みは薄いです・・・。
むしろ、透析者にとって気になるのは「早く透析終わらないかなあ~」っていう、「時間」のほうではありませんか!?(少なくともこれが本音でしょう)。
透析をしていると医師・看護師さんからこんなことを言われます。
「来週からダイアライザー(血液透析器)を変えますね」
「今日は血流量を280に上げますよ!」・・・って、いうふうにです。
このように何気なくしていた説明・お話しの中身というのは、実は「透析効率」と関連していたわけです。
もっと詳しいことは後述していきますが、まずは「透析効率」という用語は、軽く頭の片隅に入れて置きたいですね。
「透析効率」は、「透析による体内浄化の量(=透析で補った腎臓の働きである)」と「透析量」に繋がっていることを確認しておきたいのです。
つまり透析量(Kt)は、
「透析量(Kt)」=「透析効率(K)」×「時間(t)」という積で求められます。
こういうことです。掛け算になっていますから、
「透析効率も高く、時間も長くすれば、透析量の増加が見込まれる」ことを意味します。
透析効率を決めるものとは
ここからダイアライザー(血液透析器)のことも触れていきます。
そもそも血液透析をするとはどういうこと?なのでしょうか。
血液透析はではダイアライザーを用います。
ダイアライザーは人工的に補う治療法で、生体の腎臓とほぼ同じ機能を持ちますが、到底それらの機能には及びません。
人工ながらダイアライザーは、その重要な働きである「老廃物の除去」や「余剰水分の除去」、「電解質のバランス補正」などを同時に行っているのです。
そして、血液透析で「透析効率」をあげるためには、ダイアライザー(血液透析器)でただ血液を通過させれば良いといったそう単純なものではなく、いろいろな要素によって効率の良し悪しが決まってきます。
「ダイアライザー(=血液透析器)の性能と腹面積」「透析液流量」「血液流量」「濾過流量」などがそうです。
何となく難しい用語が並んでますよね。
イメージとしては、浄水器、浄水ポット、浄水ボトル水、コーヒー・お茶こしなどを見てもらうと、何となく分かってきますよ。
以下、1.~3.を順に追ってみていきますね。
1.ダイアライザー(血液透析器)の性能と腹面積 2.透析膜の外側を流れる透析液の量(=透析液流量) 3.透析膜の内側を流れる血液の量(=血液流量) |
1.ダイアライザー(血液透析器)の性能と腹面積
繰り返しになりますが、ダイアライザーは血液透析器とも呼び、人工的な腎臓にあたります。
ダイアライザー(血液透析器)の仕組み・構造はこうです。
ダイアライザーは筒のケースになっていて、「透析膜※」という半透膜でできた1万本も束ねてある細い糸(=中空糸)が入っています。その中空糸の内側を「血液」が、外側を「透析液」が向かい合うようにして流れています。
「透析膜※」には無数の小さな穴が開いていて、汚れている血液中の老廃物や、余分な水分、電解質(カリウムやカルシウム、リンなど)が透析膜を通り抜けて、透析液へ移動していきます。その後浄化された血液として、また体内へ戻っていくのです。
※透析は「濾過(ろか)」と「拡散(かくさん)」という現象を利用して行っています。
・「濾過(ろか)は、水溶液中の物質(=溶質という)に圧力をかけて透析膜へ無理に通り抜けさせる除去する方法です。 ・「拡散」は水溶液中の物質が濃いほうから薄いほうへ移動し、均一な濃度になる性質を利用して除去する方法です。 |
ちなみに「拡散」をイメージでいうと、煮物の味付けや漬物をつけるときがその典型例です。
煮物であれば、食塩や醤油などの調味料が、食材に溶け出していきます(食塩、醤油などの成分濃度は食材中の濃度より高いので、調味液が食材内部へ移動して浸透し、自然と味が馴染んでいきます。)
1.ダイアライザー(血液透析器)の性能と腹面積
以上を踏まえて「1.ダイアライザー(血液透析器)の性能と腹面積」について見てみます。
医療機器製造メーカーの出しているダイアライザーという製品上、性能にまず違いがあります。
ダイアライザーの性能は高いほうがよいのですが(求める性能が高ければ、当然値段も高い)、
医師が「どのような物質(=溶質)を除去したいのか」「除去にどこを重点が置くか」によって、使用するダイアライザーが異なってきます(=溶質除去からみた性能)。
また水分をどれくらい通しやすいかでも違いがあります(水分透過性能)。
一方、ダイアライザーの膜面積(=透析膜の大きさ)のほうですが、膜面積の大きい(=透析膜の大きい)ということは、無数の小さな穴が多数あることになるので、物質(=溶質)の除去性能は大きくなります。
腎不全になり尿毒症に苦しんだかと思いますが、尿毒素の話ししますね。
尿毒素は比較的分子量が大きいため、膜面積の大きなダイアライザー使うことが有利になります。
尿素窒素(BUN)やクレアチニン(Cre)などは、分子量が小さいので除去されやすいといえます。
いずれにしてもダイアライザーに関しては、透析者が自由にを選んで血液透析をするということは、まずありません。
医師が血液検査などの結果を踏まえて、適切にダイアライザーを選んで透析者に説明と了承を得たうえで使用していくことが前提となっており、それが一般的となります。
透析液流量(QD)と血液流量(QB)について
「透析液流量(QD)」と「血液流量(QB)」についてみていきます。
先述したダイアライザーの仕組み・構造では、ダイアライザー(血液透析器)の中では、汚れた血液中の老廃物や余分な水分、電解質が透析膜を通り抜けて「透析液」へ移動している、とは説明したとおりです。
この「透析液」ですが、細胞外液に似た液体で、電解質(ナトリウムやカリウム、カルシウムなど)やブトウ糖などが含まれています。
透析液で尿毒素を効率よく除去しつつも、乱れた体液の成分を修正しているのです。
2.透析膜の外側を流れる透析液の量(=透析液流量)
血液透析ではこの透析液を回す速度のことを「透析液流量(QD)」と言います。
日本における透析液流量は、400~500mL/分が一般的とされています(後の血液流量(QB)のほうは200~220mL/分を前提として)。
「透析液流量(QD)」はより多く流すと透析効率こそ良くなります。
しかし500mL/分より多く流して速度を高めても、効率はほとんど変わらなくなると言われています。
3.透析膜の内側を流れる血液の量(=血液流量)
「血液流量(QB)」とは、血液を回す速度のことを言います。
日本における「血液流量(QB)」は、200~220mL/分が一般的とされていて、「透析液流量(QD)」に対して血液流量が少な目です。
「血液流量(QB)」も「透析液流量(QD)」と同じで、多く流して速度を速めることで透析効率は良くなりますが、一定程度になると透析効率は頭打ちになってしまいます。
「透析液流量(QD)」は透析装置によっていつでも調整することはできます。
しかし「血液流量(QB)」のほうは、結局はヒトの身体、心臓からのものです。
なので、血液を回す速度といっても、透析者の体格や体重、体液量、体調などによって、諸々影響されやすくなります。
一人ひとりが身長も体重などが違っているのなら、透析者一人ひとりの使用しているダイアライザーも違います。
ダイアライザーの性能や透析膜も違ってくるでしょう。
血液流量(QB)の設定も透析日、次回の透析日では毎回違ってきます。
そのため、「この前の透析が終わった後は快調に過ごせた」のに、「なんか今日はスッキリしないなあ~」というふうに感じる日があります(これは健康な人でさえも体調が良し悪しがあるように・・・)。
そのため、一概に「最高の透析効率」というのは、ありえません。
ただ、血液流量(QB)で唯一言えることがあります。
それは、
透析者のシャントの状態、管理のしかたが悪ければ透析効率は落ちる!(悪くなる!)ということです。
より良い血液透析をするため、続けていくためには、当たり前のことなのですが、日々の「シャントの自己管理」が絶対不可欠なわけです。
以上、「2.透析膜の外側を流れる透析液の量(=透析液流量)」「3.透析膜の内側を流れる血液の量(=血液流量)」説明しました。
透析者も医者もそうですが効率を求めます。
がゆえに、しかしそこには限界というものが、存在します。
いずれにしても理屈からすれば、「速度を早めて透析液と血液とを触れる機会が多くなれば、透析効率が高くなる」ということになります。
◆まとめにかえて
透析で補った腎臓の働きのことを「透析量(Kt)」と言い、「透析効率(K)」×「時間(t)」という積で求められ、透析効率も高く時間も長くすれば、透析量の増加につながることをお話ししました。
「透析量(Kt)」=「透析効率(K)」×「時間(t)」
そのなかでも、「透析効率(K)」について具体的に3つ説明しました。
「透析効率(K)」を高めるには、1.ダイアライザーの透析膜の面積を上げる、2.透析液量(QD)を上げる、3.血液流量(QB)を上げること
ダイアライザー(透析器)そのものについては、透析者にとってどれが適切で、透析に効果的なのかなどは医師が決めます。
一方、透析者は?
「透析者としてできることを行いましょう!」
「透析者にとってシャントは命綱」などとよく言われることですが、シャントの自己管理は必須であり、とても大事なことです。
シャントの自己管理ができていないと(「シャントの狭窄」や最悪は「シャント閉塞」が怖い!)、必要な血流量が確保できないことになり、結局は透析効率が落ちてしまうことになってしまいます。
⇒シャントの状態が悪い=透析効率が落ちる=十分に透析がされていない・・・という悪循環に。
参照:
「透析で怖い事。低血圧でシャントが閉塞!狭窄も知ってほしい。」
「透析者の運動制限を変えるコツは無理しない、楽しむの2点!」
念押しになりますが、ふだんからシャントを傷めないために軽い運動にしたり、重い荷物はシャントのある方で持たないなどしてシャントを守ることも必要です。
また食事療法では、血管などに沈着しやすくなるようなリン(P)やカルシウム(Ca)等の摂取量に注意するなどが挙げられます。
透析者ができることは「シャントの自己管理」や「食事療法」、あとは「透析時間の確保」などであったりします。
「透析量(Kt)」=「透析効率(K)」×「時間(t)」
今回は前者の「透析効率(K)」の部分に触れましたので、次は後者の「時間(t)」について「なぜ長時間透析がよいのか」「透析時間を延ばしたほうがよいのか」等を交えて説明していきます。
参照:
「透析時間の決め方。4時間透析「最低ライン」に過ぎません!」
「「透析時間の延長はできますか?」そのひと声からはじまる。」