2018年2月11日

更新日: 2026年10月2日

会社員として働いていれば、給与や賞与から健康保険料・社会保険料が自動的に差し引かれていますよね。総務・経理の方が計算して処理してくれているから、私たちは意識しにくいのですが——年間で換算してみると「けっこうな負担額になっているな」と、改めて驚くことがあると思います。
その保険料が国に集められ、「老齢年金」「遺族年金」「障害年金」などとして私たちに還元される仕組みになっています。
ここでは、透析患者にとって特に大切な「障害年金」について取り上げます。
20年超透析を行っている私自身も、透析を始めた直後に初めて障害年金の請求を経験しました。「本当にもらえるのかな」という不安と、「もらえなかったらどうしよう」という焦り——今振り返ってもドキドキする経験でした。
これから透析を検討している方、透析を始めたばかりの方、あるいはご家族の方も、ぜひ基本的な年金制度の仕組みをここで押さえておいてください。
・公的年金に加入する理由は、3つの社会的なリスク「老齢」「死亡」「障害」に対する備えのため
・障害年金は透析患者の生活リスクをカバーし、金銭的に補填するもの
・「障害」にかかる公的年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」がある
・年金は「請求」しなければ一切支給されない!前提として、納付3要件も満たすことが必須
日本の年金制度は、管理・運営する主体によって大きく3つに分かれています。「公的年金」「企業年金(年金払い退職給付)」「個人年金」の3つです。よく「3階建て年金」と表現されますが、まさに3階建ての建物をイメージするとわかりやすいでしょう。

| 階層 | 年金の種類 | 加入対象 |
|---|---|---|
| 1階部分 | 基礎年金制度(国民年金) | 20歳以上の全国民共通 |
| 2階部分 | 被用者年金制度(厚生年金) | 会社員・公務員・私学教職員など |
| 3階部分 | 企業年金・個人年金 | 任意加入(企業・個人の判断) |
1階部分は「基礎年金制度(国民年金)」で、自営業者、学生、無職の方、会社員、公務員、私学教職員など、20歳以上のすべての国民が加入する共通の制度です。
2階部分は「被用者年金制度(厚生年金)」で、厚生年金保険の適用事業所に勤める会社員、公務員、私学教職員が加入します。2階部分に加入する方は、1階部分の国民年金にも同時に加入していることになります。
なお、平成27年(2015年)10月の「被用者年金制度の一元化」により、それまで別制度だった公務員や私学教職員の共済年金も厚生年金に統合されました。
この1〜2階の公的年金は、国が法律に基づいて管理・運営しています。
企業年金は企業が福利厚生として独自に設ける制度で、加入は義務ではなく「任意」です。「確定給付年金」「確定拠出年金(DC・401K)」「中小企業退職金共済制度」「厚生年金基金」などがあります。公務員・私学教職員には「年金払い退職給付」があります。
個人年金は金融機関が開発・販売する私的な保険商品です。「確定年金」「終身年金」「夫婦年金」などの種類があり、老後の生活費補填を目的に加入する方が多いですね。
私たちが公的年金に加入する目的は、人生で誰もが直面しうる3つのリスクへの備えです。

| リスク | 内容 | 対応する年金 |
|---|---|---|
| 老齢 | 仕事を引退し、収入が減少する | 老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金) |
| 死亡 | 家族が生計の柱を失う | 遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金) |
| 障害 | 病気やケガで就労や生活に制限が生じる | 障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金) |
「老齢」——私たちは必ず歳を重ねます。仕事を引退し、収入が減っていく中で長生きすることは、それだけ生活のリスクも高まります。そのために老齢年金があります。
「死亡」——生まれた以上、誰もが避けられないことです。残された家族が生計を支えていた人を失ったとき、その生活を守るために遺族年金があります。
「障害」——いつ、どこで、どんな病気やケガをするかは誰にもわかりません。透析のように長期にわたる治療が必要になった場合も、この「障害」のリスクに含まれます。そのために障害年金があります。

「障害」というと、生まれつき手足が不自由な方や、事故で障害を負った方を思い浮かべることが多いかもしれません。しかし、障害年金の対象範囲はずっと広く、「さまざまな病気によって生じた機能の低下・制限」も含まれます。
具体的には、「うつ病」「統合失調症」などの精神疾患、がんや糖尿病などの代謝疾患、そして透析療法(血液透析・腹膜透析)のような内部疾患もその対象です。
糖尿病が引き起こす疾患のうち「糖尿病腎症」「糖尿病網膜症」「糖尿病神経障害」は糖尿病の三大合併症として知られており、透析の原因疾患第1位も「糖尿病腎症」です(日本透析医学会調査)。
ここで、驚く数字があります。
厚生労働省の「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」によると、日本の障害者総数(推計値)は約1,164万人(人口の約9.3%)にのぼります(2024年5月公表)。
一方、最新の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、障害年金の受給者数は障害基礎年金が約222万人、障害厚生年金が約55万人(2025年12月発表)です。
1,000万人以上が何らかの障害を持ちながら、実際に障害年金を受け取っているのはそのうちの一部にとどまっています。なぜでしょうか?

| 障害年金を申請できていない主な理由 | |
|---|---|
| ① | 「障害年金という制度を知らなかった!」 |
| ② | 「自分の障害では該当しないのでは?」 |
| ③ | 「仕事を辞めないと受給できないと思っていた」 |
| ④ | 「会社や主治医から勧められなかったので、申請できないと思っていた」 |
| ⑤ | 「年金の手続き方法がわからなかった!」 |
老齢年金と比べて障害年金はまだまだ知られていない——それがもったいない現状です。
そしてもう1点、非常に大切なことがあります。
3階建てでいう1〜2階部分の公的年金のうち、「障害」に関するものは次の2つです。
| 種類 | 対応する制度 | 対象者(初診日時点) |
|---|---|---|
| 障害基礎年金 | 1階:基礎年金制度(国民年金) | 自営業者・学生・無職など国民年金加入者 |
| 障害厚生年金 | 2階:被用者年金制度(厚生年金) | 会社員・公務員・私学教職員など |
会社員(厚生年金加入者)の場合は、「障害基礎年金+障害厚生年金」の両方が支給されます。つまり2階建てで受け取れる分、受給額が大きくなります。初診日にどの年金制度に加入していたかで、受給できる年金の種類と金額が決まります。これはとても重要なポイントです。
透析を始めると、どんな変化が生活に訪れるのでしょうか。
血液透析・腹膜透析ともに長期的な治療が必要であり、生活や仕事に何らかの制限・制約が生じます。とりわけ病院に通う血液透析は、週3回・1回4〜5時間という治療時間の制約が顕著です。
腎臓病から末期腎不全へと進んで透析を導入する前後の時期には、入院や在宅での療養が必要になることもあり、一時的に働けなくなることも少なくありません。また透析を続けながら生活していくうちに、シャントの不具合による手術や、長期透析による合併症など、体調が不安定になる場面も出てきます。
会社員の透析患者Aさんが夜間透析のために毎日1時間早退している場合を考えてみます。
| 期間 | 早退日数 | 時給1,200円として |
|---|---|---|
| 1か月 | 12日(週3日×4週) | ▲14,400円 |
| 1年間 | 144日 | ▲約172,800円(約1か月分の給料に相当) |
「ノーワーク・ノーペイ(働かなければ給料は出ない)」という原則がありますから、早退した時間分はそのまま給料から差し引かれます。年間17万円以上——家賃6万円なら約3か月分——の損失は、家計にじわじわと影響してきます。
このような透析患者の生活リスクをカバーし、金銭的に補填してくれるのが「障害年金」なのです。
透析を受けている方は原則として障害等級2級に認定されるため、以下の金額が目安になります。
| 年金の種類 | 2025年度(令和7年度)月額 | 2026年度(令和8年度)月額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 障害基礎年金 2級 | 約69,308円 | 約70,608円 | 国民年金加入者など |
| 障害厚生年金 2級 (基礎年金を含む) | 約10万〜15万円台が目安 | 会社員など。報酬比例部分が上乗せ | |
※年金額は毎年度改定されます。最新の金額は日本年金機構公式サイトでご確認ください。
透析に関わる障害年金(国民年金法・厚生年金保険法)には、一般的な障害と異なる特徴的な取り扱いがあります。特に「初診日」と「障害認定日」の考え方がそれです。
| ポイント | 透析の場合の取り扱い |
|---|---|
| 初診日 | 腎疾患の原因となった病気で初めて医師に診てもらった日。 ※健康診断の日≠初診日。カルテの廃棄等による証明困難も多いため、早めに確認を。 |
| 障害認定日 (透析の特例) | 通常は初診日から1年6か月後。しかし透析の場合は「透析開始から3か月を経過した日」が認定日となる(初診日から1年6か月以内に限る)。 → 通常より早く申請できる可能性があるため、透析開始後は速やかに確認しよう! |
| 障害等級 | 透析を受けている方は原則2級(症状・合併症の程度によっては1級に認定されることもある) |
詳しくは:「透析で障害年金が収入を補填。受給には3要件が欠かせない!」をご参照ください。
「申請したい気持ちはあるが、何から始めればよいかわからない」——そう感じている透析患者の方は多いと思います。ここでは請求の大まかな流れを整理します。
| ステップ | 内容 | 確認・注意点 |
|---|---|---|
| Step 1 相談・確認 | 市区町村役場または最寄りの年金事務所に相談する | 「自分は申請できるか」「どの窓口に行けばよいか」を確認。事前予約が必要な場合あり |
| Step 2 初診日の確認 | 腎臓の病気で初めて受診した医療機関を特定し、受診状況等証明書(初診証明)を取得する | カルテ保存期間は最低5年。古い受診歴は早めに確認を! |
| Step 3 書類の準備 | 診断書(現在の透析病院の主治医に作成依頼)・病歴・就労状況等申立書・戸籍謄本・住民票などを揃える | 診断書の作成は医師への依頼から数週間かかることも。早めに依頼しよう |
| Step 4 請求書の提出 | 年金事務所または市区町村役場へ、必要書類一式を提出する | 書類の不備は審査を大幅に遅らせる。提出前に窓口で確認を |
| Step 5 審査・決定 | 日本年金機構が審査を行い、3〜4か月程度で「年金証書」または「不支給決定通知書」が届く | 認定されると、障害認定日(透析開始3か月後)にさかのぼって支給される場合がある |
Googleサジェストにもあるように「人工透析 障害年金 65歳以上」「人工透析 障害年金 70歳以上」を検索する方も多くいます。年齢と障害年金の関係を整理しておきましょう。
| 状況 | 障害年金の扱い |
|---|---|
| 65歳未満で透析開始し、すでに受給中 | 65歳以降も障害年金を受け続けることができる(老齢年金との選択・一部併給あり) |
| 65歳以降に初めて透析を開始した場合 | 原則として新規の障害年金請求はできない(65歳到達日の前々日までに障害状態にあることが必要) |
| 65歳以降に障害が悪化した場合(額改定請求) | すでに受給中の場合、等級の見直し(額改定請求)は可能 |
| 老齢年金との関係 | 65歳以降は「老齢基礎年金+障害厚生年金」または「障害基礎年金+老齢厚生年金」などの選択・併給が可能なケースがある(要確認) |
65歳の誕生日の前々日までが、障害年金の新規請求のリミットです。透析を始めたら、年齢に関係なく、できるだけ早く申請を検討してください。
透析療法の選択肢として「血液透析」「腹膜透析」がありますが、現状は約97%の方が血液透析を選択しています。自営業の方も、会社員の方もいますが、後者が多数派でしょう。
自営業といえば、透析をしながら活躍しているタレントや歌手、元力士親方などもいます。
参照:「透析してる有名人・芸能人って気になりますか?~生き方から~」
血液透析をしながら会社員をされている方は、早退や時短勤務によって「ノーワーク・ノーペイの原則」の影響を受け、収入減に悩んでいる方が多いのが実情です。これは本当に大痛手です(←これは本音ですよ!)。
透析しながら働けていること——それ自体は本当に価値があることです。ぜひ、透析しながら働いている自分を労ってあげてほしいと思います。「ありがとうございます!」って(笑)。
さて、私自身の話をすると、透析を導入した直後は不均衡症候群に苦しみ、体調は優れず、雇用保険の給付期間も迫ってくる中で、はじめて障害年金の請求を行いました。
参照:透析導入者は「不均衡症候群」を乗り越えなければならない。
このとき、頭の中にいろんな不安がよぎりました——。
| 「学生免除の期間があったけれど、受給要件を本当に満たしているのか?」 |
| 「小さなクリニックで診てもらっていたけれど、『初診日証明書』は取得できるのか?」(←これはほんとうに死活問題でした。不安でたまらなかった…) |
| 「無事に請求が認められるのか?(これまた不安!)」 |
請求先は「国」ですから、不安だらけ・心配だらけでした。「どうか認められますように!」と、ただただ祈っていたのを今でも覚えています。
障害年金は生活上の金銭的な補填をする大切な役割を担っています。しかし「透析をしながら年金だけで生活を維持する」ことは、正直言って厳しいものがあります。
自営業でも会社員でも——「どんな形でも、何らかの収入を得ることが先決」だと思っています。だから私は、仕事を絶対にやめないという心意気で、日々仕事を続けています。
最後に、障害年金については必ず押さえてほしいポイントがあります。
| 障害年金を受け取るための大前提 | |
|---|---|
| ① 自分で申請(請求)する | 年金は請求しなければ一切支給されない。透析を始めたら、できるだけ早く確認しよう! |
| ② 3要件をすべて満たす | 初診日要件・障害認定日要件・保険料納付要件の3つがすべてそろって初めて申請できる |
| ③ 不明点は年金事務所か社労士に相談 | 複雑な手続きや初診日証明に不安がある場合は、専門家(社会保険労務士)に相談するのが近道 |
「申請しなければもらえない」——これを絶対に忘れないでください。透析を始めたその日から、障害年金の準備を始める意識を持ちましょう。