健康保険法上にある高額療養費について、高額な治療を著しく長期間にわたり継続しなければならない疾病について「特定疾病」が3つ挙げられています。
その3つのなかに「人工透析を受けている慢性腎不全」があり、厚生労働大臣により認定されています。
「特定疾病」なので、通常の高額療養費とはその性質が異なります。
人工透析における医療費は長期的かつ高額なので、
1.特定疾病の特例(高額長期疾病)
2.自立支援医療(更生医療)
3.障害者医療費助成制度
以上3つの制度を上手に利用することで、負担を軽減することができます。
参照:「透析の医療費は高い!仕組みは知っておいたほうが良い理由。」
今回は1番目の、健康保険法上の高額療養費にある「特定疾病の特例(高額長期疾病)」についてみていきます。
・「特定疾病療養受療証交付申請書」に医師の証明を受けて健保組合などの窓口へ提出
・健保組合等から「特定疾病療養受療証」の交付を受ける
・医療費の会計時に、保険証とあわせて「特定疾病療養受療証」を医療機関の窓口に提出
・自己負担分は月額1万円または2万円(負担額は透析者の所得額による)
特定疾病(特定疾病療養受療制度)とは
透析者の医療費は「特定疾病療養受療証」が交付され取得できると、高額療養費の自己負担分が月額1万円または2万円になります。
自己負担分が月額1万円か2万円かというのは、透析者の所得要件によって決められています。
一定の所得以上の透析者(70歳未満で標準報酬月額が53万円以上※)の場合は、自己負担限度額は2万円となります。
※「標準報酬月額」とは、4~6月までの給料の平均をいいます。
「標準報酬月額が53万円以上」とは、概ね年収700~900万程度で基礎控除後の年間所得額が600万円を超えるような上位所得者のことをいいます。
そして、この月額1万円または2万円を超えた部分については、健康保険の保険者から直接医療機関へ支払われます(現物給付)。
透析者は実質月額1万円または2万円を負担、支払うことになります。
ただ、この月額の負担をさらに軽減するために「障害者医療費助成制度」や条件によっては「自立支援医療」も活用すべきです。
特定疾病の特例(高額長期疾病)手続き
〈手続き〉
1.窓口
・「健康保険組合(略称:健保組合、健保)」・・・大企業の会社員
・「全国健康保険協会(略称:協会けんぽ)」・・・中小企業の会社員
⇒健保組合または協会けんぽへ
・「共済組合」・・・公務員、私立学校教職員
⇒共済組合へ
・「国民健康保険」・・・自営業者、学生、被用者保険に該当しない非正規労働者、退職者、無職者など
⇒市区町村国民健康保険組合へ
・「後期高齢者医療広域連合(後期高齢者医療制度。後期高齢者医療広域連合(略称:広域連合))・・・
広域連合の区域内に住所を有する75歳以上の者または広域連合の区域内に住所を有する65歳~74歳の者であって、政令で定める程度の障害の状態にあると認定された者。
⇒後期高齢者医療広域連合へ
2.必要なもの(主に必要とされるもの)
・健康保険証
・印鑑
・本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証・パスポートのコピーなど)
・特定疾病療養受療証交付申請書(※)
※窓口か各保険組合のWebで申請書類をプリントアウト可。
※特定疾病療養受療証交付申請書に「医師の意見欄」があります。
これに代えて「医師の証明書」や以前加入していた健康保険の「特定疾病療養受療証」のコピーを提出ができる場合があります。
【注意】特定疾病療養受療証交付の申請にあたり、身体障害者手帳を持っていなくても申請はできます。
(なお、身体障害者手帳が必要なのは、3.障害者医療費助成制度の「障害者医療費助成」手続きの際に添付書類として手帳が求められます。)
3.手続きの仕方
①窓口で「特定疾病療養受療証交付申請書」をもらう。
②申請書を病院等に提出して、医師の証明を受ける。
③②の証明を受けた申請書を窓口へ提出※する。
④「特定疾病療養受療証」が交付を受ける。
※「特定疾病療養受療証」は申請月の初日から適用されます。よって、「申請した月の1日」に遡って資格を取得することができます。
【注意】申請月の前月以前の分については、遡って適用されることはないので注意が必要です!
4.その他
①対象疾患を「人工透析をしている慢性腎不全」としているので、血液透析や腹膜透析が該当します
(腎移植者に適用はありません)。
②転職や自営業者になった場合のようは、健康保険(保険者)が変わります。
特定疾病療養受療証も同様に、新たに変わった健康保険(保険者)の窓口での手続きが必要です。
大企業の会社員(健康保険組合)⇒⇒⇒自営業者(国民健康保険)
③現在の自己負担限度額(1万円または2万円)は平成18年10月1日の省令改正により変更されました。
今後も検討、見直しが行われますので、その動向には注意してきましょう。
会計時は「特定疾病療養受療証」と「保険証」の提出を
特定疾病療養受療証交付申請のための手続きを見てきました。
ここでは「1ヶ月間」透析にかかった際の医療費の支払いについてみていきます。
〈手続き〉
窓口:病院の会計窓口
医療費の会計時には「特定疾病療養受療証※」に「保険証」も併せて提出します。
※特定疾病(特定疾病療養受療制度)は「人工透析をしている慢性腎不全」とあるので、血液透析のような人工透析の治療に対してのみ有効です。
⇒例えば、人工透析の治療とは関係の無い歯科治療といったものには使えません。
⇒ふだんは、かかりつけの透析病院で自己負担限度額(1万円または2万円)を負担することになります。
⇒旅行透析や臨時透析といったように、旅行・出張先の透析病院で透析を受けた場合は、そこの病院でもいったんは自己負担限度額分を負担します(⇒複数の病院で治療を受けたら病院ごとに負担)。
参照:
「旅行・出張先で臨時透析。病院を探す方法・段取り教えます!」
「旅行透析。東京は観光・病院に交通も充実!でも地方だったら」
【事例】
・35歳の血液透析をしている会社員Yさん(標準報酬月額は53万円未満で上位所得者ではない)。
・かかりつけのA透析病院のほか、出張先でも臨時透析を行った。
⇒このとき、同一の月に複数の病院等で「特定疾病療養受療証」を提示した場合の自己負担額はいくらか?
①5月分(5月1日~31日の1ヶ月)のかかりつけA透析病院の自己負担分1万円
<総医療費 35万円、自己負担額1万円>
②5月14日・16日:出張先のB透析病院で特定疾病に係る外来診療
<総医療費 7万円/2日分治療 自己負担額1万円>
③5月16日:出張先のB透析病院で処方された薬※をC薬局で購入
<総医療費 3万円、自己負担額9千円(←健康保険上3割負担なので)>
※この薬は、透析つまり特定疾病に関する治療であるので、特定疾病に係る高額療養費の支給の対象です。
④(①A透析病院の1万円(かかりつけの通院)+②B透析病院の1万円(出張先の外来)+③C薬局の9千円(処方薬)※の併せて2万9千を支払った。
※①から③までの各病院、薬局で支払った自己負担額を合算した額※※について、保険者へ高額療養費の申請を行うことにより、高額療養費の支給を受けることができます。
※※制度上「病院別」「外来」「入院」と合算の仕方が異なります。
場合によっては、合算して1か月の自己負担分が1万円または2万円を超える場合があります(今回は支払った額が2万9千円)。
支払った額2万9千-自己負担限度額の1万円=支給額1万9千円。
よって、支給額の1万9千円を保険者から受けることができます。
今回の会社員で透析をしているYさんの事例では、複数の病院と薬局で治療と処方を受けました。
保険者から支給額を受けることで、実質の自己負担限度額は1万円です。
自己負担は確かに1万円で済みました。
それでも自己負担限度額は高額ですので、あらかじめ「身体障害者手帳」を取得したうえで「障害者医療費助成」の手続きを行うことで、更なる負担限度額の軽減を図ることができます。
◇まとめにかえて
①「特定疾病療養受療証」の交付に申請手続きが必要!
⇒申請月の初日から適用され、加入している健康保険の保険者から交付されます。
②「特定疾病療養受療証」は人工透析の治療に対してのみ有効!
⇒自己負担限度額は1病院あたり月額1万円(上位所得者は2万円)
(複数の病院で治療を受けたら病院ごとに負担)。
⇒月額1万円または2万円を更に軽減させるためには、あらかじめ「身体障害者手帳」を取得したうえで「障害者医療費助成」の手続きが必要。
③入院時の食事療養や生活療養標準負担額は自己負担となる
参照:透析者の医療費(65歳未満)の概要については、
「透析の医療費は高い!仕組みは知っておいたほうが良い理由。」
【お断り】
当カテゴリーは「透析者の医療費(65歳未満)」であり、65歳未満の現役会社員や自営業者などの透析者を対象とした医療費について取り上げています。
特定疾病の特例には3つ認定されいますが、そのうち人工透析については以下のように、
・「診療月の標準報酬月額が53万円以上である70歳未満の被保険者(またはその被扶養者)」
・「70歳未満で世帯員の保険税課税標準額の合計が600万円超」
とされ、年齢要件や所得の規定がされています(ほかの特定疾病は年齢・所得規定無し)。
よって当カテゴリーのように「65歳未満の透析者」に限定するものではありません。
条文上は65歳以上70歳未満の透析者をも含んでいますので、その点はあらかじめご承知おきください。