今回取り上げるのは「透析者の熱中症予防・リスク回避」についてです。
梅雨から夏場になると、連日「熱中症」関連のニュースが流れるようになります。
「重症化して病院へ搬送で運ばれた」「こまめに水分補給を」といったように・・・。
そして、嫌でも熱中症に関する注意喚起や事故のニュースが入ってきます。外出しているときではなく、家にいても熱中症にかかっている人がいます。
健康な人や高齢者、小児に対する熱中症予防・リスク回避については、
下記の環境省のWebで確認することができます。
「体温調節機能が低下している高齢者や、体温調節機能がまだ十分に発達してい. ない小児・幼児は、成人よりも熱中症のリスクが高く、更に注意が必要です。」
熱中症環境保健マニュアル2020(環境省熱中症予防情報サイト)
一方で、透析者の熱中症予防・リスク回避のほうですが、透析を行っている病院のWeb、書籍などを含めて言及しているところは意外にも少ないのが実情です。
「透析室内の冷房をかけておけばよい」などというような病院さえあります。大丈夫なのでしょうか?気候があきらかにおかしくなっているのですよ!
それだけ透析者の「熱中症」に対する理解が不十分であり、誤解が多いように思います。
透析者の熱中症予防・リスク回避の仕方は、健康な人や慢性腎臓病(CKD)、透析導入前の末期腎不全のようなときとは、若干違ってきます。
例えば、もっともわかりやすい予防や回避方法は「スポーツ飲料の摂り方」がそうです。
健康な人ですと、水分とミネラル補給のためにスポーツ飲料で補おうということにはなりますが、透析者の場合は水分の飲み過ぎることはもちろんのこと、体内に水分・ミネラルも溜まっていくことから避けたいところです。
熱中症とはどのようなものか(重症度・症状)。透析前後、透析中でも熱中症は起こりうる!といった内容などを、以下で説明していきます。
・透析者には透析者なりの熱中症予防・対策がある。
・透析者は特に食事・水分補給に制限あるので管理を!(スポーツ飲料▲、硬水▲・・・)
・透析前後、透析中でも熱中症は起こりうる!注意は必要。
・ドライウエイト(基礎体重)のコントロールも大事!
■熱中症とは
一日に汗がどのくらい出るか分かりますか?
身体は汗をかいたり皮膚から熱を逃がしたりすることで、身体の温度を下げています。
透析者でも汗のかき方には個人差があり、汗かきの人もいれば、分かる程度にしか汗をかかない人もいます。
ふだん意識はしませんが、鼻・口呼吸や不感蒸泄のように、汗腺から感じる事のないような蒸発というのもあります。
とはいえ、透析者は身体内に溜まった毒素のために、汗腺が萎縮し詰まっていて汗が出にくいです。そのため身体内には熱がこもりがちで、熱中症にかかりやすいのです。
《熱中症とは》
熱中症はどんなときになりやすいのでしょうか?
かかりやすい季節:梅雨明け後~夏場
かかりやすい時間帯:午前中では10時頃~午後13~14 時頃
であり、以下のようなときです。
・前日より急に温度が上がった日
・温度はあまり高くないが、湿度がとても高い日
→ 炎天下、高温多湿。汗によって身体内の熱を逃がすことができなくなります。
・涼しい部屋や車内などから、急に外へ出た時(温度差が5度以上)
→ 急に外に出たことで、身体が暑さに慣れないために起こります。
・炎天下や高温多湿で長時間にわたる屋外への外出や運動
・室温の高い屋内での生活・睡眠不足や二日酔い
→室内は日が当たらないから大丈夫、無意識に水分補給をしていない(少ない)、 外出や運動しないので汗はかかない・・・。室内であっても高温多湿であれば、熱中症にかかりやすくなります。
・下痢や風邪による発熱の症状があるとき
《熱中症の重症度と症状》
【Ⅰ度(軽度)】
筋肉痛、筋肉の硬直(こむらがえり)、
血圧低下、生あくび、めまい、立ちくらみ、大量の発汗、失神などがみられ、顔面蒼白。脈も速く弱くなる。
⇒応急処置が必要。
【Ⅱ度(中等度)】
脱水による症状で、頭痛や気分不快、吐気、嘔吐(おうと)、倦怠感(けんたいかん)、脱力感を感じる。集中力や判断力の低下。39度未満の発熱もみられる。
⇒Ⅱ度(中等度)以上は応急処置+施設での受診要
【Ⅲ度(重度)】
血液凝固障害、肝・腎障害、意識障害、けいれん発作。39度以上の発熱がみられる。。
⇒応急処置+施設での受診要
透析者は、透析後や体調の変化によって血圧低下、めまい、立ちくらみなどがふつうに起こり得ますが、熱中症でも【Ⅰ度(軽度)】でも同じように感じることがあるでしょう。
透析があるか否かに関わらず(透析の時間まで我慢するとかではなく、)早めに受診をしましょう。
透析者の熱中症予防・対策とは?
1.食事・水分補給
【食事】
・冷たくて口当たりの良い食べ物が欲しくなりますが、ひいては冷たいもので胃腸が弱まり、食欲低下につながります。
・塩分もふだん3回の食事を食べていれば、塩分不足になることはありません。むしろ食事抜きは避けるべきです。
・夏場はスイカやメロンなどが出回ります。これらは水分やカリウムなどの多い果物です。1日の摂取量に注意は必要です。
食べてはいけないわけではありませんので、少量ながらも旬の果物を楽しみましょう。
【水分補給】
・透析者にとって過度の水分補給は厳禁です。基本的には一気に大量の水分を飲むのではなく、こまめに水分補給を行っていきます。
冷たいものを大量に飲めば、体重増になり食欲低下という悪循環に陥るので注意が必要です。
⇒1日500mlを1~2本分程度で。
⇒ペットボトルの水は「軟水」を選びましょう。
⇒氷を舐めるのも良いでしょう。
参照:「透析者のペットボトル水は【軟水】選んで!硬水は避けよう。」
<屋内で過ごしている場合>
・一度で飲むようなことはせず、麦茶や玄米茶などで!(玉露はK(カリウム)多いので避ける)
<屋外で過ごしている場合>
・多量の発汗があるなど、汗をかいているのなら身体内からNa(ナトリウム)が出ているので、スポーツ飲料を飲んでも良いです。
但し、スポーツ飲料は、塩分・水分の過剰摂取になりがちなうえ、糖分やミネラルも豊富なので、摂取量を決める(コップ量を小さくするなどの工夫をして)などして飲んだほうが良いです。
⇒スポーツ飲料を避けたほうがよい所以は(スポーツ飲料1L超~も飲むなどはしないにせよ、)ふだん3回の食事にプラスして飲むと、Na(ナトリウム)などのようなミネラル過多になるため、命に関わり大変危険だからです。
基本的には下痢や嘔吐、多量の発汗が無ければスポーツ飲料は飲む必要はありません。ふだんの食事のほか、透析中には「透析液」で不足分を補っているからです。
ちなみにスポーツ飲料では、アクエリアスが良いようです(ナトリウム34mg、カリウム8mg)。←ナトリウム値が低い!
【仕事】
・食事・水分補給にも注意しましょう。
・やはり過度の水分補給は厳禁で、こまめに水分補給を行っていきます。
・喉が乾いたら、軟水のペットボトル水や軟水で作った氷を舐めると良いです。
・クールビズ推奨
・炎天下や高温多湿での長時間労働等は避けましょう、通勤も同様です。
2.生活のなかで
【服装】
皮膚からの熱の出入りには、服装が関係しています。
襟元をゆるめ、締めつけないよう身体温調節を行いましょう。
⇒風通しがよく汗を吸収し、速乾性のある服が良いです。
下着などは朝や綿だけではなく、ポリエステル素材でできた「吸水性」「乾きやすさ」のあるものも出ています。
⇒ゆったりとした服が良いです。首に直射日光が当たってしまうと身体温は逆に上がってしまいます。
⇒屋外では日光を吸収する黒や紺色は避けましょう。
白や水色などの淡色系が良いです。
【室内で】
家にいても、じっとしていても、室内の温度や湿度が高くクーラーや扇風機をつけずに過ごせば体温は高くなります。
電気代が無駄!ということではなく、エアコン(冷房・ドライ・除湿)、扇風機(気流)を上手に使いましょう。
⇒室温は24~28℃で、湿度は60%以下に設定してください。
⇒室内にいるときは温度計や湿度計、熱中症計をこまめに見ながら適切に、エアコンや扇風機などを使いましょう。
⇒クーラーと扇風機の併用が良いです、扇風機で冷たい空気を循環させましょう。
⇒窓はすだれやカーテンで直射日光を遮ましょう。
・冷たいおしぼりで身身体を拭く、アイスノンや冷たいタオルを脇にはさむのも効果的です。
・霧吹きで水分をかけるのも効果があります。
・扇風機を顔に風を当て、首巻きひんやりグッズで首の後ろを冷やすと気持ちが良いですよ(笑)。これだけでも、水分・塩分を摂ったのと同じ効果が得られます!
【屋外で、外出時】
透析のために施設へ、屋外へ外出するときがあります。
・屋外で
⇒日差しのある場所は避けましょう。
⇒直射日光のある場所は避け、移動時は日陰を歩くようにしましょう。
⇒こまめに休憩をとりましょう。
⇒日傘や帽子を着用しましょう。
・車内で
⇒車はあらかじめ換気しておき、エアコンをつけて最適な温度にしたうえで運転しましょう(運転時の血圧変化に気をつけてください)。
⇒電車・バス⇔屋外との温度差に注意してください(涼しい車内から、急に外へ出た時に温度差が5℃以上あるため、暑さに慣れていないので) 。
3.日常の健康管理
【運動】
熱中症予防・リスク回避には、運動することが有効です。
運動が必要なのは、上手な発汗ができる身体作りができるためです。
何せ透析者は運動不足がちであり、そのためにうまく発汗ができない傾向にあります。汗腺が萎縮し汗が出にくいために、熱が身体内にこもりがちだからです。
⇒日頃からウォーキングや散歩のような「有酸素運動」をしておくことで、一緒に汗をかいて暑さに慣れておきましょう。
運動も「非常に楽」~「楽」と感じるくらいで無理せず、楽しくすることがコツです。
⇒梅雨や夏の期間は、日中に運動しても身体温は異常に高くなるので、避けましょう!
⇒透析による身体調の変化もあるので、無理しての運動も避けましょう。運動中であっても我慢してはいけません!
参照:「透析者の運動制限を変えるコツは無理しない、楽しむの2点!」
【睡眠】
透析の疲れに加え、寝苦しさから来る睡眠不足、二日酔いなどに注意しましょう。
⇒エアコンや扇風機も上手に使いましょう。
【血圧管理】
汗をかくと血圧は低下します。
透析者にとって血圧管理は、とても大事なことです。
血圧測定・記録は欠かせずに行いましょう。
【薬の管理】
透析者によってまだ尿が出ている人であれば「利尿薬」が出されるでしょう。
また透析者に多いのが高血圧(血圧が高めの人)、「降圧薬」のほうも熱中症のリスクは高まります。
⇒薬の飲み方を変えることで、熱中症のリスクを軽減できる可能性はあります。薬の種類や量の変更について、医師と相談しましょう。
【健康管理】
下痢や風邪による発熱の症状があるとき
⇒透析者は感染症にかかりやすいので、注意が必要です。
透析前後、透析中でも熱中症は起こりうる!
【透析前後、透析中】
透析前後、透析中であっても熱中症になる可能性は十分に起こりえます。
炎天下、施設まで通院しているときや到着時。透析室内での温度や湿度、透析機器の熱排熱などでも熱中症になるような要素が、偶然にして重なってしまうことがあるからです。
透析者で、以下の様な人は注意が必要です。
厚着の人(冬用のパジャマ、ルームジャージのまま)/普段から運動をしていない人/暑さに弱い人/疾患がある人/現に身体調を崩している人/ドライウエイトが40kg以下の人/などです。
透析前後、透析中の熱中症対策としては、
①透析前に(透析室の)気温・湿度などを確認しておきましょう。 ②夏用の服装(パジャマやルームジャージ)で調節しましょう。 ③透析中でも(必要あれば、)水分補給は心がけてください。 ④調子が悪くなったら、医師・看護師さんへ声かけてください。 |
【熱中症になったら】
透析者は、健康な人や慢性腎臓病(CKD)の時のような、熱中症予防・リスク回避の仕方とは、若干違うことは冒頭で述べた通りです。
健康な人と同じように「塩分と水分をしっかりと摂取を!」というわけにはいきません。無尿か少量のため、身体に余分な水分が溜まっていますから!
悪しくも熱中症になったら、
①暑い所からクーラーの効いた室内や涼しい場所に避難してください。
⇒熱中症の重症度・症状【Ⅰ度(軽度)】~【Ⅲ度(重度)】にあわせて |
◆まとめにかえて
いかがだったでしょうか?
健康な人や乳幼児・高齢者などの熱中症予防・リスク回避と似ているところもありましたが。
ですが「水分補給」はまったく違いますし、実は透析前後や透析中でも熱中症は起こりうる!など、透析者特有の熱中症もあることが、お解りになったかと思います。
日々ドライウエイト(基礎体重)※を設定していますよね!?
※ドライウエイト(基礎体重)とは「身体内に余分な水分がない状態の体重」のことを言います。
つまり、透析者にとって身体のなかにある水分は過剰でもないし、脱水もしていない状態。ちょうどよく適度な状態に保たれているときの体重なわけです。
夏場と冬場とでは、明らかに水分摂取量は違ってきます。
どうしても暑さや塩分摂りすぎから、必然的に水分超過になることもありますし、逆に冬場の乾燥から同じように超過になってしまうこともあります。
いずれにしても、
夏場と冬場での水分摂取量の目安を知ることは大事です。
「(食事量も含めて、)どれだけ食べて、飲んで体重が増えたのか?」をこまめに計ることで、ドライウエイト(基礎体重)からの増減を知ることができます。
極端な事例ですが、
無尿の透析者の場合が1日に1L飲めば、単純に身体重は1kgは増えていることになります。
当然に飲みすぎは、浮腫(むくみ)や血管内脱水、血圧の不安定が出てきます。
そして透析中の除水量は多いので心臓や身体、血管にも負担がかかってきます。除水しきれないので次回の透析までに残してしまうこともあります。
逆に透析後のドライウエイト(基礎体重)よりも低いと、身体内の水分が少ない状態になるので「脱水」になりやすいです。そのためシャントの狭窄や閉塞、脳梗塞なども原因にもなります。
結局のところ、ドライウエイト(基礎体重)の3~5%以内に抑えられるように、食事と水分摂取量の自己コントーロールが必要なのです。
どうか熱中症になりませんように、十分にご注意ください!