「慢性腎臓病(CKD)は新たな国民病であって、人工透析予備軍だ」
と、「人工透析予備軍とは?気づかずに進行する慢性腎臓病に注意!」のなかで説明しました。
慢性腎臓病(CKD)ですが、実は単一の病名ではありません。
「腎臓が慢性的な経過を辿って徐々に総称されていく病気の総称」であり、症候群の名称です。
治療中に「慢性腎臓病」とか「CKD」と言われたり説明受けても、最終的には診断名が付くことになります。
「糖尿病性腎症」「慢性糸球体腎炎」「Iga腎症」といったように、具体的な名で、その腎機能の低下に至った疾患名がつけられます(その点はご注意ください)。
透析へ至る原因疾患とは何?
ここで質問です。
Q:腎不全を経て毎年何万人の人が新たに透析に入っていくか、お分かりですか?
(選択肢:約1.5万人、約3万人、約4.7万人)
A:「約3万人/年間」です。
では、透析に至る原因疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。
透析に至る原因疾患には、 |
となっていおり、すべて「慢性」によるものです。
出典:日本透析医学会『わが国の慢性透析療法の現況』-「導入患者 原疾患割合の推移」
慢性腎臓病(CKD)~腎不全~透析療法への図式が変わった!?
腎不全も末期となり、治療法としては透析療法(主として血液透析と腹膜透析)または腎臓移植のどちらかを選択することになります。
人工透析とか単に透析というと、9割方は「血液透析」を選択しています。
図式というか医師の見解なり認識ですが、少しずつ変わってきました。
これまでは「腎臓病→腎不全→透析療法ないし腎臓移植」という治療の流れでした。
しかし今日では、
「慢性腎臓病(CKD)→(≒心筋梗塞や脳卒中)→腎不全→透析療法ないし腎臓移植」
という治療の流れになっています。
何が変わっって来たのかと言うと、特にこの図式の途中にある、
「慢性腎臓病(CKD)→(≒心筋梗塞や脳卒中)」というところで注目されている点です。
集約すると2点です。
まず1点目ですが、「慢性腎臓病(CKD)という概念や捉え方」についてです。
確かに昔から腎臓病というものは存在していましたが、昨今何かと不規則、不健全な生活習慣や食生活が原因で、腎臓病の人が増えてきています(今でも増加傾向あります)。
そのため学会や医師などが「腎臓の機能について知ってもらう」「慢性腎臓病(CKD)について理解してもらう」「慢性腎臓病を進行させない」「透析にならないようにする」など、慢性腎臓病(CKD)についての啓発や普及活動を行ってきました。
2点目は「慢性腎臓病(CKD)→(≒心筋梗塞や脳卒中)」の、心筋梗塞や脳卒中という部分です。
私が腎臓病で治療していたのが西暦2000年前後で、年齢的には20代前半でした。
当時の腎臓病の治療というと、今でこそ原因疾患は2位ですが、慢性腎炎(=慢性糸球体腎炎)が治療の中心でした。
透析に至る原因疾患の順位で、「糖尿病性腎症」が台頭し1位になったのが1998年から。
それから今日までずっと「糖尿病性腎症」は1位のままで、しかも増加し続けたままなのです。
原因疾患3位の「腎硬化症」も高齢化の進展もあり微増。
いずれにしても「糖尿病」や「高血圧」などに十分に関係性があるものばかりです。
医学的な研究成果や発表もあって、慢性腎臓病(CKD)の治療の段階から「糖尿病」や「高血圧」はもちろんのこと、それらから生ずる心筋梗塞や脳卒中をも一緒に治療し、予防を行うようになってきたわけです。
やはり不健全な生活習慣、不規則・偏りがちな食生活などには、原因というものがあり、それだけ慢性腎臓病(CKD)として様々な問題を生み出してしまうのです。
「高血圧」の場合を見てみましょう。
腎臓には常に多量の血液が流れ込んでおり、血液や血管の状態に影響を受けやすい臓器です。
高血圧の状態が続けば、腎臓にある糸球体(しきゅうたい)と血管を傷めることになるので、ダメージが進んでいくわけです。
それから腎臓には「血圧の調節」の機能も持っていますが、血圧を調整するレニンやカリクレインといったホルモンの分泌調節、コントロールを行うことで血圧は正常に保ってくれます。
しかし、高血圧が続けばでそのコントロールが効かなくなってしまい、血圧が上がってしまうのです。
そして「腎機能低下→血圧の上昇→腎機能のさらなる低下」というふうになって悪循環を繰り返していきます。この悪循環こそが、次第に動脈硬化の進行へつながっていきます。
そこに「糖尿病」や「脂質異常症」もあれば、これもまた動脈硬化を促進してしまいます。
その結果として、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こしやすくなるのです。
人工透析に至ったときの慢性的疾患を見る
先述で「慢性腎臓病(CKD)→(≒心筋梗塞や脳卒中)→腎不全→透析療法ないし腎臓移植」という流れになっている、という説明をしました。
ここでは「腎不全~透析療法(ここでは統計に基づき透析)に至ったときの、慢性的な疾患とはどのようなものか?」を、より具体的にみていきます。
1位:糖尿病性腎症→2位:慢性腎炎→3位:腎硬化症でした。
1.糖尿病性腎症
透析原因の1位は「糖尿病性腎症」であり、糖尿病の合併症一つです。
近年特に問題視されているのが糖尿病の増加であり、「糖尿病が強く疑われる人」が820万人、「糖尿病の可能性が否定できない人」でも1050万人はいるとされ、あわせると1870万人にもなります。
「糖尿病の増加=糖尿病性腎症の増加」というふうに増えているのが、今の現状です。
この「糖尿病性腎症」ですが、糖尿病が長く続くと血液を濾過(ろか)して尿を作る腎臓の糸球体(しきゅうたい)が傷んでしまい、たんぱく尿が出てきてしまいます。
悪化すると腎臓の血流が悪化するので、尿を作る機能も著しく低下してしまうのです。
そしてそれだけではなく、糖尿病初期の段階から心筋梗塞や脳卒中も引き起こしやすくなります。そのため、糖尿病性腎症だけではなく、心筋梗塞や脳卒中という面でも注意しなければなりません。
きちんと検査して治療を行わない限りは、静かに進行していきます。しまいには慢性腎不全になりえます。
2.慢性腎炎(=慢性糸球体腎炎)
透析原因の2位に占めるのが腎炎です。
腎炎とは「糸球体が炎症を起こした病気」「糸球体が障害される病期」のことを言います。
正確には「糸球体腎炎」のことであり、急性と慢性とが存在します。
急性のほうは比較的治りやすいものの、慢性である「慢性糸球体腎炎」のほうは治りにくく、徐々に悪化するのが特徴です。
慢性糸球体腎炎の中でもっとも多いのが「Iga腎症(アイジーエーじんしょう)」であり全体の4割を占めます。
Iga腎症の特徴は、原因は不明ですが「免疫の異常であり、糸球体の一部が増殖して起こる」ということ、よくみられる症状が「たんぱく尿と血尿であること」。それから腎機能の低下が見られても積極的な治療が必要な人とそうでない人とで半数ずついるという点です。
慢性糸球体腎炎はほかにも「膜性腎症」「ネフローゼ症候群」などがあります。
3.腎硬化症(じんこうかしょう)
透析原因の3位に占めるのが腎硬化症です。
少しずつですが、高齢化進展に伴い増加傾向にあります。
「塩分をとりすぎると高血圧になりやすくなる」というのは、よく言われます。
食塩をたくさん摂れば血圧は上がり、逆に食塩を制限すれば血圧は下がります。
腎硬化症は、高血圧により腎臓の糸球体や細い血管に動脈硬化が起きることで血流が少なくなり、腎臓が萎縮して硬くなっていきます。
腎硬化症には良性と悪性のものとがあり、進行が緩やかな良性のものは進行を抑えられますが、悪性のものは急速に進行するために緊急処置が必要です。
今すぐにでも生活習慣の改善が必要だ!
透析療法(透析)に至る原因となる慢性疾患について具体的に見てきました。
ただ、自分も含めて家族や親類に慢性腎臓病の人がいるように遺伝によるものや、突然変異によるものもあります。
また年齢を重ねていけば自然と腎臓機能が低下することによるものもあります。
なので、生活や食事などから来るものだけとは限りません。
さて、現在慢性腎臓病(CKD)の人も、透析療法を行っている人も、治療のためには「生活習慣の改善」は必要不可欠です。
以下に挙げたのは、慢性腎臓病(CKD)になりやすい人でもあり、現にその治療を行っている人かもしれません。
将来腎不全に陥って透析療法や腎臓移植を行う可能性も否定できません。
もちろん透析者であっても同じように確認し、その生活習慣の改善に努めて欲しいと思います。
1.糖尿病の人
糖尿病には「1型糖尿病」と「2型糖尿病」とがあり、9割方は「2型」が占めます。
糖尿病になると高血糖のために血管の障害が進みます。糸球体そのものは濾過する機能が障害を持つので腎機能は低下します。これが糖尿腎症です。
→「食べすぎ」「運動不足」「ストレス」になっていませんか?
→「2型糖尿病」は働き盛りな40歳を過ぎてから発症することもあります。
→糖尿腎症持ちの透析者であっても、インシュリン注射が必要です。
2.高血圧の人
高血圧になると腎臓に大きな負担がかかり、腎機能が低下してしまいます。慢性腎臓病だけではなく、心筋梗塞や脳卒中の重大な危険因子です。
→減塩に取り組んでいますか?
塩分を摂りすぎると高血圧を発症しやすくなります。
→慢性腎臓病の各ステージ(病期)によっても塩分量は異なります。
ステージ1=10g未満/日、ステージ2=6g未満/日、ステージ3~5=3~6g/未満日。
透析者=6g未満/日。
塩分を摂ると飲水量が多くなるため体に水分が滞留してしまいます。結果、1回の透析では除水しきれません(急速な除水は低血圧やこむら返り、血管を痛めつけることにも)。
3.太りすぎの人
肥満の元凶となっているのは過度な食習慣であり、積み重なったものです。
内臓脂肪がついている状態なので腎臓にも蓄積されていきます。
脂質代謝の異常や動脈硬化が進んで腎機能の低下につながっていきます。
結果、脂質異常症、心臓病、脳卒中、高尿酸血症になっていきます。
4.メタボリックシンドロームの人
最近よく注目されているのが、いわゆる「メタボ※」というものです。
これも腎臓病の危険因子で、先の糖尿病や高血圧、太りすぎと同様に腎臓にダメージを与えます。
運動不足や過度な食習慣によって、おなかまわりに脂肪がつきます。これを「内蔵脂肪型肥満」といいますが、それだけで糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の発症リスクを高めます。軽度な生活習慣病が積み重なれば動脈硬化が加速し、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。
→太りすぎの人、メタボリックシンドロームの人。過度な食習慣や運動不足になっていませんか?
※メタボリックシンドロームの診断基準
以下1.に加えて、2.~4.のうち2項目以上当てはまれば、メタボリックシンドロームです。
1.腹囲(内臓脂肪蓄積)。男性:85cm以上 女性:90cm以上 |
5.高尿酸血症の人
尿酸値が高いと、腎臓に尿酸塩という結晶が沈着して炎症を引き起こし、腎機能低下になります。
これを痛風腎(つうふうじん)といいますが。腎臓結石や尿路結石を併発する場合があります。
また高血圧や太りすぎ、メタボリックシンドロームとも合併していることが多いです。
6.脂質異常症の人
血液に含まれる脂質のバランスが悪い状態を言います。
善玉のHDLコレステロールが少ないか、中性脂肪や悪玉LDLコレステロールが多いのです(←両者のバランスよく存在していることが重要)。
脂質が溜まってできた塊(=プラーク)は血管壁の内側に沈着して、血管壁を厚く硬くしてしまいます。そして動脈硬化を進行させます。
さらには糸球体や血管などに障害を引き起こし、腎機能のほか心筋梗塞や脳梗塞のリスクも高まります。
7.動脈硬化が進んでいる人
動脈硬化が進むと血管が細くなったり、壁ができやすくなるため、当然腎臓へ流れ込んでいく血液量は少なくなります。
そのため「虚血性腎症(きょけつせいじんしょう)」になることがあります。
8.喫煙している人
喫煙は心筋梗塞や脳卒中などの危険因子であるほかに、慢性腎臓病の発症とその進行には重大な危険因子であると言えます。
→喫煙は癌(がん)をはじめ、健康に様々な悪影響をもたらし、多くの有害物質を含むことは周知の事実です。電子式でも同じです。止められるのなら今すぐにでも禁煙を!
10.著しい運動不足の人
特に太りすぎの人、メタボリックシンドロームの人、まったく運動をしない人。
→適度な運動をしましょう。
→慢性腎臓病(CKD)や透析者でも、適度な運動は推奨されます。特に透析者は圧倒的に運動不足です!
11.不規則・不健全な生活習慣や過度なストレス・フラストレーション
仕事やプライベートで不規則、不健全な生活習慣になっていませんか?
仕事やプライベート、治療などでストレス・フラストレーションを溜めていませんか?
→慢性腎臓病(CKD)や透析の治療、不規則・不健全な生活習慣、過度なストレスは厳禁です。とりわけ透析者は通院負担や食事制限、透析時間という拘束などがあるため、ストレス・フラストレーションが溜めがちです。
→腎臓は非常にタフなうえに複雑な構造を持っています。なので片方を取った位でもビクともしません。しかしいったん壊れてしまうと再生されることはありません。そのためにストレスやフラストレーションに弱くなってしまいます。
そのため慢性腎臓病(CKD)で治療中では注意が必要です。さもないと症状が進行してしまいます。
◆まとめにかえて
透析の原因疾患は、
1位:糖尿病性腎症
2位:慢性腎炎
3位:腎硬化症
の順に、すべて「慢性」によるものでした。
近年は糖尿病の増加で糖尿病性腎症を発して慢性腎臓病(CKD)となり、透析療法や腎臓移植へというケースが多いのが現状です。
いずれにしてもこれら慢性疾患は、必ずしも透析療法や腎臓移植が必要になるというものではありません。
「発見が早ければ進行を抑えることも可能である!」ということです。
ですので、決して諦めてはいけません。
・もしあなたが、現にステージ(病期)が1や2といったように、腎機能が正常であるか腎機能障害がさほど進んでいない段階ならば、治療を始めることが何よりも大事です。
そうすれば確実に治る病気もありますし、完全には治らなくても進行は止められる病気はあります。
・もしあなたが、今後透析を導入する可能性があるのなら、「できるだけ透析を食い止める」「透析導入をひき延ばす」努力が必要です。
共通して言えることは、
食事をはじめ生活習慣の改善を行い、その維持をし続けていかなければならないのです。
何事も「自己管理」は大切だということです。
今すぐにでも生活改善を始めてください。