2018年3月29日

更新日: 2026年7月15日

透析という言葉を聞いただけで、不安になる方も多いのではないでしょうか。私自身、透析生活が始まった当初は「これからどうなるんだろう」と夜も眠れないほど心配していました。
特に「どんな数値で透析が必要になるのか?」という疑問は、多くの腎臓病患者さんが抱える悩みです。今回は透析導入の目安となる数値や、透析が必要になる原因について、20年超の透析経験から得た知識と共に、できるだけ難しい言葉を使わずにお伝えします。この記事を読めば、透析生活への不安が少し軽くなるかもしれませんよ。
まず知っておきたいのが、透析を始めるかどうかを決めるときの「腎臓の数値」です。お医者さんは、いくつかの検査結果を組み合わせて総合的に判断します。ここでは代表的な3つの数値を紹介します。
| 数値の名前 | 健康な状態 | 透析を検討する目安 |
|---|---|---|
| eGFR(腎臓のろ過機能) | 90以上 | 15未満 |
| クレアチニン(血液中の老廃物) | 男性1.0前後/女性0.7前後 | 男性8以上/女性6以上 |
| BUN(尿素窒素) | 20以下 | 50〜100以上 |
腎臓の状態を知るうえで最も大事な数値が「eGFR」です。これは腎臓がどれくらい血液をきれいにできているかを表す数値で、健康な人では90以上あります。この数値が低いほど、腎臓の働きが弱っていることを意味します。
一般的に、eGFRが15未満になると、透析を検討する段階だと言われています。ただし、この数値だけで機械的に決められるわけではなく、実際の体調や他の検査結果も含めて、お医者さんが総合的に判断します。
私の場合は、eGFRが12まで下がった時点で、むくみや息切れといった症状も出始めたため、透析導入の話が具体的になりました。数値の変化を見ながら、少しずつ心の準備ができたのは幸いでした。
血液の中の「クレアチニン」という数値も、腎臓の状態を知る大事な手がかりです。クレアチニンは筋肉が働いたときに出る老廃物で、健康な腎臓ならおしっこと一緒に排出されます。しかし腎臓の働きが弱ると、血液の中にどんどん溜まっていきます。
男性の場合は8mg/dL以上、女性の場合は6mg/dL以上になると、透析を検討する目安とされています。ただし、筋肉の量によって基準が変わるため、一概には言えない部分もあります。がっちりした体格の人はやや高めに出やすい、というイメージを持っておくとよいでしょう。
私の透析導入時は、クレアチニン値が9.2mg/dLまで上がっていました。この数値を見た主治医から「そろそろ透析の準備をしましょう」と言われたことを今でも鮮明に覚えています。
BUNは、体の中でタンパク質が分解されたときにできる老廃物の量を示す数値です。腎臓の働きが弱ると、この数値も上がっていきます。
一般的に、BUNが50〜100mg/dLを超えてくると、体のだるさや吐き気などの症状が出やすくなり、透析を検討する目安となります。この幅には個人差があるため、あくまで一つの参考として捉えてください。
私の場合、BUNが92mg/dLまで上がった頃から、食欲不振や吐き気といった症状が出始め、日常生活に支障が出るようになりました。この体験から、数値の変化と体調の変化は密接に関連していることを実感しています。
腎臓の数値だけでなく、実際の体調や症状も、透析を始めるかどうかの大事な判断材料になります。
「尿毒症」とは、腎臓の働きが弱って体の中に老廃物が溜まることで起こる、さまざまな症状のことです。以下のような症状が出てきたら、透析を検討するサインかもしれません。
私が透析導入前に最も辛かったのは、常に感じる「疲労感」でした。当時は転職活動をしなければならない状況にあり、ハローワークや面接先の階段を上るだけで息が切れ、帰ってくればソファに倒れ込むように横になる日々。「なんでこんなに疲れるんだろう」と思っていましたが、これが尿毒症の症状だったのです。
腎臓の働きが弱ると、体の中の水分やミネラル(電解質)のバランスを保つことが難しくなります。特に以下のような状態は危険信号です。
私の場合、透析導入直前はカリウム値が6.2mEq/Lまで上がり、医師から「このままでは心臓に負担がかかり危険」と強く警告されました。それまで続けてきた食事制限だけでは対応できなくなった時点で、透析の必要性を強く実感しました。
腎臓は、体の中の酸性・アルカリ性のバランスを整える役割も担っています。難しい言葉で言うと「代謝性アシドーシス」という状態ですが、これは腎臓の働きが弱ることで血液が酸性に傾いてしまう状態のことです。呼吸困難や疲労感、力が入りにくいといった症状が出ることがあります。
血液検査でpHが7.35未満、HCO3(重炭酸イオン)が15mEq/L未満の場合は、透析を検討する目安となります。
透析が必要になる背景には、さまざまな腎臓病があります。ここでは主な原因と、可能な予防法について見ていきましょう。
| 原因となる病気 | 特徴 | 予防のポイント |
|---|---|---|
| 糖尿病性腎症 | 透析導入原因の第1位 | HbA1cを7.0%未満に保つ、微量アルブミン尿の早期発見 |
| 慢性糸球体腎炎 | かつての第1位、現在は第2位 | 定期的な尿検査、尿タンパク陽性時の早期受診 |
| 腎硬化症 | 高血圧が長期間続くことで発症 | 家庭血圧135/85mmHg未満、減塩・運動 |
| 多発性嚢胞腎 | 遺伝性、腎臓に嚢胞ができる | 家族歴がある人は若いうちから定期検診 |
日本で透析導入の原因の第1位となっているのが、糖尿病性腎症です。糖尿病によって血管が傷つき、腎臓のろ過機能が徐々に弱っていきます。
予防のためには、血糖値のコントロールが最も重要です。HbA1c(ヘモグロビンA1c)を7.0%未満に保つことが推奨されています。また、定期的な尿検査で微量アルブミン尿を早期に発見することも大切です。
私は先天的な理由により透析となってしまいましたが、私の知人は糖尿病と診断された当初から血糖コントロールを徹底し、20年以上経った今でも腎機能を維持しています。とは言え、血糖コントロールを怠った結果、透析になってしまうケースも少なくありません。
かつては透析導入原因の第1位でしたが、現在は第2位となっています。腎臓の「ろ過装置」である糸球体に炎症が起こり、機能が弱っていく病気です。
早期発見のためには、定期的な健康診断で尿検査を受けることが重要です。尿潜血や尿タンパクが陽性の場合は、腎臓専門医の診察を受けてください。
私自身、大学の健康診断で尿タンパク(+)が通年引っかかったことで治療に入りました。会社等の健康診断で尿タンパクが出ている人は、早めに治療を行うことをお勧めします。そのことで、透析導入を遅らせることもできるからです。
高血圧が長期間続くことで腎臓の血管が傷つき、腎機能が低下していく病気です。高齢化に伴い増加傾向にあります。
予防には血圧管理が最も重要で、家庭血圧で135/85mmHg未満を目指すことが推奨されています。減塩や適度な運動も効果的です。
遺伝性の病気で、腎臓に多数の嚢胞(水袋)ができて腎機能が低下していきます。家族歴がある場合は、若いうちから定期検診を受けることが大切です。
現在は、トルバプタンという進行を遅らせる薬剤も使用可能になっています。早期診断・早期治療が重要です。
透析導入が近づいてきたら、心と体の準備をしておくことが大切です。私の経験から、特に重要だと感じたポイントをお伝えします。
透析を行うためには、血液を体の外に通すための「入り口」となる血管の処置が必要です。主に以下の3種類があります。
内シャント手術は透析開始の2〜4週間前に行うことが多いため、eGFRが20を下回ってきたら、医師と相談しておくとよいでしょう。
私は内シャント手術を受けましたが、術後に「シャント音」と呼ばれる血管の振動音が聞こえるようになり、最初は少し違和感がありました。でも、これが命をつなぐ大切な血管だと思えば、愛おしく感じるようになりました。
透析には大きく分けて「血液透析」と「腹膜透析」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、自分の生活スタイルに合った方法を選ぶことが大切です。
| 血液透析 | 腹膜透析 | |
|---|---|---|
| 場所 | 医療機関 | 自宅 |
| 頻度 | 週3回、1回4時間程度 | 毎日(夜間の機械使用も可) |
| 身体への負担 | 効率よく老廃物を除去 | 緩やかで負担が少ない傾向 |
| 生活への影響 | 通院の負担はあるが自宅では自由 | 外出しやすいが毎日の処置が必要 |
私は仕事との両立を考えて血液透析を選びました。血液透析・腹膜透析の選択でどちらが良い悪いではなく、自分の生活スタイルや将来設計に合った方法を選ぶことが大切です。
透析導入は身体面だけでなく、心の面でも大きな変化をもたらします。「一生続く治療」と考えると不安になるかもしれませんが、前向きな心構えが大切です。
私が透析導入前に主治医から言われた言葉が今でも心に残っています。「透析は終わりではなく、新しい生活の始まりです。多くの方が透析をしながら充実した人生を送っています」。この言葉に救われた思いがしました。
また、同じ透析患者さんの体験談を聞くことも心の準備になります。患者会や情報交換の場に参加してみるのもよいでしょう。
透析生活が始まると、いくつかの生活面での変化や制限が生じます。しかし、適切に対応すれば、充実した日常生活を送ることは十分可能です。
透析患者にとって食事管理は重要ですが、全てを我慢する必要はありません。以下のポイントを押さえた食事管理が基本です。
| 制限項目 | 目安 | 注意する食品 |
|---|---|---|
| 塩分 | 1日6g未満 | 加工食品、調味料 |
| カリウム | 個人差あり | 生野菜、果物、芋類 |
| リン | 個人差あり | 乳製品、加工食品 |
| 水分 | 尿量に応じて調整 | 飲料全般 |
私が特に工夫しているのは、外食時のメニュー選びですね。和食店では「薄味でお願いします」と伝えたり、ラーメンなら「スープは少なめに」とオーダーしたりします。
また、透析日と非透析日で食事内容を少し変えるのも一つの方法です。透析日は少しリラックスして、非透析日はより気をつける、というメリハリをつけています。メリハリは必要ですね。
多くの透析患者さんが仕事を続けています。私自身、会社員として働きながら20年超透析を続けてきました。
職場への理解を求める:透析のために週3回、定時に退社する必要があることを上司や同僚に理解してもらうことが大切です。私の場合、面接・採用時に状況を説明し、「その分、出社時間を早めて退勤しますので」と説明を行いました。
透析時間の工夫:夜間透析や朝一番の時間帯を利用するなど、仕事への影響が少ない時間帯を選ぶのも一つの方法です。私は長年、夕方からの夜間透析を選び、その分朝は早く出社するようにしていました。
体調管理の徹底:透析患者は疲れやすいため、無理をしないことが大切です。十分な睡眠と休息を確保し、体調を整えることが長く働き続けるコツです。
透析治療が必要でも、旅行や外出を楽しむことは十分可能です。
出張透析・旅行透析の活用:国内には多くの透析施設があり、出張・旅行先での透析が可能です。事前に主治医に相談し、受け入れ先の手配をしましょう。私はほぼ毎年、旅行透析を楽しんでいます。計画は少し大変ですが、その分思い出も深まります。
災害時の備え:私は東日本大震災を経験しています。外出時や旅行中に災害が起きた場合に備え、透析患者手帳や薬の情報を常に携帯しておくことが大切です。また、避難所での透析患者への対応について、事前に地域の情報を確認しておくとよいです。
自立支援医療(更生医療):18歳以上の腎臓機能障害者が透析治療を受ける場合、医療費の自己負担が軽減されます。所得に応じて月額上限額が設定されます。
私の場合、特定疾病療養費制度を活用することで、月々の医療費負担は軽減されています。ただし、これらの制度を利用するには申請手続きが必要なので、医療ソーシャルワーカーに相談するとスムーズです。
障害年金:透析患者は一般的に障害等級2級に認定されることが多く、障害基礎年金や障害厚生年金を受給できる可能性があります。初診日から1年6ヶ月経過後に申請可能です。
特別障害者手当:重度の障害があり、日常生活で常時特別の介護を必要とする20歳以上の在宅者が対象です。
私は会社員として働きながらも、障害年金を受給しています。申請時には主治医の詳細な診断書が必要でしたが、医療ソーシャルワーカーのサポートもあり、スムーズに手続きができました。
障害者控除:確定申告時に障害者控除(所得税)や障害者控除(住民税)を受けられます。
各種割引制度:身体障害者手帳を取得すると、公共交通機関の運賃割引、携帯電話料金の割引、NHK受信料の減免など、様々な割引制度が利用できます。
私が特に助かっているのは交通機関の割引です。遠方にて通院する場合、高速道路の交通費負担が軽減されるなど、大きな助けになっています。
最後に、長年透析を続けてきた私自身の経験と、多くの透析仲間から聞いた体験談をもとに、前向きに透析生活を送るためのヒントをお伝えします。
透析導入当初は「なぜ自分が」という思いに苦しむ方も多いですが、時間とともに「生活の一部」として受け入れられるようになります。
私の場合、透析を「週3回の特別な時間」と捉えるようにしています。20年超通院していくなかで、20代、30代は資格勉強に明け暮れました。そして、透析中は好きな本を読んだり、映画を観たり、時には仕事のアイデアを考えたりと、自分だけの時間として活用しています。
また、同じ透析室の仲間との交流も大切な支えになっています。同じ悩みを持つ者同士、何気ない会話から大きな励みをもらうことがあります。
透析生活を長く続けるコツは、小さな目標を持ち続けることです。旅行計画を立てたり、趣味に打ち込んだり、家族との時間を大切にしたりと、生活に彩りを加える工夫が大切です。
私は透析導入後、「とにかく出かけてみようよ!」という小さな目標を立てました。できれば近くに透析施設のある温泉地を調べて、旅行してみる。電車、新幹線、バス、飛行機・・・とにかく交通手段は問わず、です。「旅行好き」という趣味からでしょうが、次の旅行を楽しみにすることが、日々の透析生活を前向きに過ごすエネルギーになっています。
透析患者にとって、正しい知識と情報を持つことは大きな力になります。医療スタッフの指導を守りながらも、自分自身の体調の変化に敏感になり、適切に対応することが大切です。
私は毎月の検査データをもらいます、自分のデータなのですから!自分でも可視化できるようにはしています。ただ、20年超の年数が経って最近思うのは、温暖化のせいでしょうか、気温(湿度)の影響もあって、数値の変動を把握することが、やや難しくなっている点です。つまり体調の変化が微妙にズレてきており、直近では(もともと血圧は低いほうであったのですが、)高血圧が続くなどが見られました。
いずれにせよ、データから食事や生活習慣の改善点が見えてくることがあります。また、透析患者向けの雑誌や書籍、インターネットの信頼できる情報源から、最新の治療情報や生活の工夫などを学ぶようにしています。
透析導入の目安となる数値や原因について詳しく見てきましたが、最も伝えたいのは「透析は終わりではなく、新しい生活の始まりである」ということです。
確かに、透析には様々な制約がありますが、適切な治療と自己管理、そして前向きな心持ちがあれば、充実した日々を送ることは十分可能です。私自身、20年超の透析生活を送りながら、仕事や家族との時間、趣味や旅行を楽しんでいます。
透析導入が近づいている方、すでに透析を始められた方、そのご家族の方々に伝えたいのは、「一人で抱え込まないでください」ということです。医療スタッフ、家族、同じ透析患者の仲間など、周囲のサポートを積極的に活用しましょう。
そして何より、ご自身の体と心を大切にしてください。適切な治療と自己管理、そして前向きな気持ちが、これからの透析生活を支える大きな力になります。
新しい生活のスタートに不安はつきものですが、一歩一歩進んでいけば、必ず道は開けます。透析という治療があるからこそ、これからも大切な人たちと時間を共有し、人生を歩み続けることができるのです。