2018年3月29日

更新日: 2026年10月13日

「透析」という言葉を聞いただけで、心がざわつく方も多いのではないでしょうか。私自身、透析生活が始まった当初は「これからどうなってしまうんだろう」と夜も眠れないほど心配していました。
とくに「どんな数値になったら透析が必要なのか?」というのは、腎臓病を抱える多くの方が抱える切実な疑問です。今回は、透析導入の目安となる数値や、透析が必要になる原因について、20年超透析を行っている現役患者としての経験と知識を交えながら、できるだけわかりやすくお伝えします。この記事を読み終えたとき、少しだけ気持ちが軽くなっていればと思います。
まず押さえておきたいのが、透析を始めるかどうかを判断するときに使われる「腎臓の数値」です。お医者さんはいくつかの検査結果を組み合わせて総合的に判断しますが、ここでは代表的な3つの数値を紹介します。

| 数値の名前 | 健康な状態 | 透析を検討する目安 |
|---|---|---|
| eGFR(腎臓のろ過機能) | 90以上 | 15未満 |
| クレアチニン(血液中の老廃物) | 男性1.0前後/女性0.7前後 | 男性8以上/女性6以上(mg/dL) |
| BUN(尿素窒素) | 20以下 | 50〜100以上(mg/dL) |
腎臓の状態を知るうえで最も重要な数値が「eGFR(推算糸球体濾過量)」です。これは腎臓がどれくらい血液をきれいにできているかを表す指標で、健康な人では90以上あります。数値が低いほど、腎臓の働きが弱っているサインです。
一般的に、eGFRが15未満になると、透析を検討する段階だとされています(日本透析医学会ガイドライン)。ただし、この数値だけで機械的に決まるわけではなく、実際の体調や他の検査結果も含めてお医者さんが総合的に判断します。
私の場合、eGFRが12まで下がった時点でむくみや息切れといった症状も出始め、透析導入の話が具体的になりました。数値の変化を少しずつ見守りながら心の準備ができたことは、今思えば幸いでした。
血液中の「クレアチニン」という数値も、腎臓の状態を知る大切な手がかりです。クレアチニンは筋肉が動いたときに出る老廃物で、健康な腎臓なら尿と一緒に排出されます。しかし腎臓の働きが弱ると、血液の中にじわじわと溜まっていきます。
男性では8mg/dL以上、女性では6mg/dL以上になると、透析を検討する目安とされています。ただし、筋肉量によって基準が変わるため一概には言えません。がっちりした体格の人はやや高めに出やすい、というイメージを持っておくとよいでしょう。
私の透析導入時は、クレアチニン値が9.2mg/dLまで上がっていました。主治医から「そろそろ透析の準備をしましょう」と言われたあの日のことは、今でも鮮明に覚えています。
BUNとは、体の中でタンパク質が分解されたときにできる老廃物の量を示す数値です。腎臓の働きが弱ると、この数値も上がっていきます。
一般的にBUNが50〜100mg/dLを超えてくると、体のだるさや吐き気などの症状が出やすくなり、透析を検討する目安となります。この幅には個人差があるため、あくまでも一つの参考として捉えてください。
私の場合、BUNが92mg/dLまで上がった頃から食欲不振や吐き気が始まり、日常生活に支障が出るようになりました。数値の変化と体調の変化は密接に連動していることを、身をもって実感しています。
腎臓の数値だけでなく、実際の体調や症状も、透析を始めるかどうかの大切な判断材料になります。
「尿毒症」とは、腎臓の働きが弱って体の中に老廃物が溜まることで起こる、さまざまな不調のことです。次のような症状が出てきたら、透析を検討するサインかもしれません。
私が透析導入前に最もつらかったのは、常につきまとう「疲労感」でした。当時は転職活動をしなければならない状況にあり、ハローワークや面接先の階段を上るだけで息が切れ、帰ってくればソファに倒れ込む日々。「なんでこんなに疲れるんだろう」と思っていましたが、これが尿毒症の症状だったのです。

腎臓の働きが弱ると、体の中の水分やミネラル(電解質)のバランスを保つことが難しくなります。特に以下のような状態は危険信号です。
私の場合、透析導入直前にカリウム値が6.2mEq/Lまで上がり、医師から「このままでは心臓に負担がかかり危険な状態です」と強く警告されました。食事制限だけでは対応できなくなったその瞬間、透析の必要性を強く実感しました。
腎臓は体の中の酸性・アルカリ性のバランスを整える役割も担っています。難しい言葉では「代謝性アシドーシス」と呼ばれ、腎臓の働きが弱ることで血液が酸性に傾いてしまう状態のことです。呼吸困難や疲労感、力が入りにくいといった症状が出ることがあります。
血液検査でpHが7.35未満、HCO3(重炭酸イオン)が15mEq/L未満の場合は、透析を検討する目安となります。
透析が必要になる背景には、さまざまな腎臓病があります。ここでは主な原因と、可能な予防法を整理してみましょう。
| 原因となる病気 | 特徴 | 予防のポイント |
|---|---|---|
| 糖尿病性腎症 | 透析導入原因の第1位(新規導入患者の約38〜39%・2023年末データ) | HbA1cを7.0%未満に保つ、微量アルブミン尿の早期発見 |
| 腎硬化症 | 高血圧が長期間続くことで発症。2019年以降は第2位に浮上し増加中 | 家庭血圧130/80mmHg未満、減塩・運動 |
| 慢性糸球体腎炎 | かつての第1位。現在は第3位に後退(2023年末データ) | 定期的な尿検査、尿タンパク陽性時の早期受診 |
| 多発性嚢胞腎 | 遺伝性、腎臓に嚢胞ができる | 家族歴がある人は若いうちから定期検診 |
日本で透析導入原因の第1位が、糖尿病性腎症です(日本透析医学会2023年末データ)。糖尿病によって血管が傷つき、腎臓のろ過機能が徐々に弱っていきます。新規透析導入患者に占める割合は近年やや減少傾向にあるとはいえ、依然として約38〜39%と高い水準を占めています。
予防のためには、血糖値のコントロールが最も重要です。HbA1c(ヘモグロビンA1c)を7.0%未満に保つことが推奨されており、定期的な尿検査で微量アルブミン尿を早期に発見することも大切です。
私自身は先天的な理由で透析となりましたが、糖尿病と診断された当初から血糖コントロールを徹底し、20年以上たった今も腎機能を維持している知人がいます。一方で、管理を怠った結果として透析になってしまうケースも少なくありません。
高血圧が長期間続くことで腎臓の血管が傷つき、腎機能が低下していく病気です。高齢化の進行とともに増加傾向が続き、2019年以降は透析導入原因の第2位に浮上しています(日本透析医学会統計)。
予防には血圧管理が最も重要です。一般的には家庭血圧で130/80mmHg未満を目指すことが推奨されています(個々の状態によって目標値は異なるため、必ず主治医に確認してください)。減塩や適度な運動も効果的です。
かつては透析導入原因の第1位でしたが、現在は第3位となっています(2023年末データ)。腎臓の「ろ過装置」である糸球体に炎症が起こり、機能が弱っていく病気です。
早期発見のためには定期的な健康診断での尿検査が重要です。尿潜血や尿タンパクが陽性だった場合は、腎臓専門医の診察を早めに受けてください。私自身、大学の健康診断で尿タンパク陽性が続いたことで治療に入りました。健康診断で引っかかった方は、放置せず早めの対応を強くおすすめします。
遺伝性の病気で、腎臓に多数の嚢胞(水袋)ができて腎機能が低下していきます。家族歴がある場合は、若いうちから定期検診を受けることが大切です。現在はトルバプタンという進行を遅らせる薬剤も使用可能になっており、早期診断・早期治療が重要です。
透析導入が近づいてきたら、心と体の準備をしておくことが大切です。私の経験から、特に重要だと感じたポイントをお伝えします。
透析を行うためには、血液を体の外に通す「入り口」となる血管の処置が必要です。主に以下の3種類があります。
内シャント手術は透析開始の2〜4週間前に行うことが多いため、eGFRが20を下回ってきたら、医師と相談しておくとよいでしょう。
私も内シャント手術を受けましたが、術後に「シャント音」と呼ばれる血管の振動音が聞こえるようになりました。最初は少し違和感がありましたが、これが命をつなぐ大切な血管だと思えば、愛おしく感じるようになりました。
透析には大きく「血液透析」と「腹膜透析」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、自分の生活スタイルに合った方法を選ぶことが大切です。

| 血液透析 | 腹膜透析 | |
|---|---|---|
| 場所 | 医療機関 | 自宅 |
| 頻度 | 週3回、1回4時間程度 | 毎日(夜間の機械使用も可) |
| 身体への負担 | 効率よく老廃物を除去 | 緩やかで負担が少ない傾向 |
| 生活への影響 | 通院の負担はあるが自宅では自由 | 外出しやすいが毎日の処置が必要 |
私は日中の仕事との両立を考えて「血液透析」を選びました。どちらが優れているというわけではなく、自分の生活スタイルや将来の設計に合った方法を選ぶことが大切です。
透析導入は、身体面だけでなく心の面でも大きな変化をもたらします。「一生続く治療」と考えると不安になるかもしれませんが、前向きな心構えが後の生活を大きく左右します。
私が透析導入前に主治医から言われた言葉が今でも心に残っています。「透析は終わりではなく、新しい生活の始まりです。多くの方が透析をしながら充実した人生を送っています」。この言葉に、どれだけ救われたかわかりません。
また、同じ透析患者さんの体験談を聞くことも心の準備になります。患者会や情報交換の場に参加してみるのもよいでしょう。
透析生活が始まると、いくつかの生活面での変化や制限が生じます。しかし適切に対応すれば、充実した日常生活を送ることは十分可能です。
透析患者にとって食事管理は重要ですが、すべてを我慢する必要はありません。以下のポイントを押さえた食事管理が基本です。

| 制限項目 | 目安 | 注意する食品 |
|---|---|---|
| 塩分 | 1日6g未満 | 加工食品、調味料 |
| カリウム | 個人差あり | 生野菜、果物、芋類 |
| リン | 個人差あり | 乳製品、加工食品 |
| 水分 | 尿量に応じて調整 | 飲料全般 |
私が特に工夫しているのは、外食時のメニュー選びです。和食店では「薄味でお願いします」と伝えたり、ラーメンなら「スープは少なめに」とオーダーしたりします。透析日と非透析日で食事内容を少し変えるのも一つの方法で、メリハリをつけながら楽しんでいます。
多くの透析患者さんが仕事を続けています。私自身も会社員として働きながら20年超透析を行っています。
職場への理解を求める:透析のために週3回、定時に退社する必要があることを上司や同僚に理解してもらうことが大切です。私の場合、面接・採用時に状況を説明し、「月・水・金曜日は、退社時間は17時でお願いいたします」とお伝えしました。
透析時間の工夫:夜間透析は病院・クリニックの運営方針によっても異なりますが、会社員の方が多い気がします。午前や午後については、自営業やパート・アルバイトといったように、ある程度時間に融通が利くような方が選んでいるようです。いずれにしても仕事への影響が少ない時間帯を選ぶことが有効です。私は当初から夕方からの「夜間透析」を選んで今日まで至っています。。
体調管理の徹底:透析患者は疲れやすいため、無理をしないことが大切です。十分な睡眠と休息を確保することが、長く働き続けるコツです。

透析治療が必要でも、旅行や外出を楽しむことは十分可能です。
出張透析・旅行透析の活用:国内には多くの透析施設があり、出張・旅行先での透析が可能です。事前に主治医に相談し、受け入れ先の手配をしましょう。私はほぼ毎年、旅行透析を楽しんでいます。計画は少し大変ですが、その分思い出も深まります。
災害時の備え:私は東日本大震災を経験しています。外出時や旅行中に災害が起きた場合に備え、透析患者手帳や薬の情報を常に携帯しておくことが大切です。また、避難所での透析患者への対応について、事前に地域の情報を確認しておくとよいです。
特定疾病療養費制度:人工透析を受けている腎不全患者さんは「特定疾病」に指定されており、医療費の自己負担額が月額1万円程度(所得により2万円)に抑えられます。
自立支援医療(更生医療):18歳以上の腎臓機能障害者が透析治療を受ける場合、医療費の自己負担が軽減されます。所得に応じて月額上限額が設定されます。
これらの制度を利用するには申請手続きが必要なので、医療ソーシャルワーカーに相談するとスムーズです。

障害年金:透析患者は一般的に障害等級2級に認定されることが多く、障害基礎年金や障害厚生年金を受給できる可能性があります。初診日から1年6ヶ月経過後に申請可能です。
特別障害者手当:重度の障害があり、日常生活で常時特別の介護を必要とする20歳以上の在宅者が対象です。
私は会社員として働きながらも障害年金を受給しています。申請時には主治医の詳細な「診断書」が必要でしたが、医療ソーシャルワーカーのサポートもあり、スムーズに手続きができました。
障害者控除:確定申告時に障害者控除(所得税・住民税)を受けられます。
各種割引制度:身体障害者手帳を取得すると、公共交通機関の運賃割引、携帯電話料金の割引、NHK受信料の減免など、さまざまな割引制度が利用できます。遠方に通院する場合、高速道路料金の割引なども大きな助けになります。
最後に、20年超透析を行っている現役患者としての経験と、多くの透析仲間から聞いた体験談をもとに、前向きに透析生活を送るためのヒントをお伝えします。
透析導入当初は「なぜ自分が」という思いに苦しむ方も多いですが、時間とともに「透析は自分の生活の一部」として受け入れられるようになります。
私の場合、透析を「週3回の特別な時間」と捉えるようにしています。20年超通院していくなかで、20代後半~30代は資格勉強に明け暮れました。今では好きな本を読んだり、映画を観たり、仕事のアイデアを考えたりと、自分だけの時間として活用しています。
透析生活を長く続けるコツは、小さな目標を持ち続けることです。旅行計画を立てたり、趣味に打ち込んだり、家族との時間を大切にしたりと、生活に彩りを加える工夫が大切です。
私は透析導入後、「とにかく出かけてみようよ!」という小さな目標を立てました。電車・新幹線・バス・飛行機、交通手段は問わず、近くに透析施設のある温泉地を調べて旅行してみる。次の旅行を楽しみにすることが、日々の透析生活を前向きに過ごすエネルギーになっています。
透析患者にとって、正しい知識と情報を持つことは大きな力になります。医療スタッフの指導を守りながら、自分自身の体調の変化に敏感になり、適切に対応することが大切です。
私は毎月の検査データをしっかり受け取り(自分のデータですから!)、変化を可視化するようにしています。ただ、20年超透析を行っているなかで最近感じるのは、気温・湿度の影響もあって数値の変動が以前よりわかりにくくなっている点です。血圧が高めで続くなど、微妙なズレが出てきています。データから食事や生活習慣の改善点を読み取り、信頼できる情報源から最新の治療情報も学ぶようにしています。
透析導入の目安となる数値や原因について詳しく見てきましたが、最も伝えたいのは「透析は終わりではなく、新しい生活の始まりである」ということです。
確かに透析にはさまざまな制約がありますが、適切な治療と自己管理、そして前向きな心持ちがあれば、充実した日々を送ることは十分可能です。私自身、20年超透析を行いながら、仕事・プライベート(家族との時間、好きな趣味や旅行)を楽しんでいます。
透析導入が近づいている方、すでに透析を始められた方、そのご家族の方々に伝えたいのは、「一人で抱え込まないでください」ということです。医療スタッフ、家族、同じ透析患者の仲間など、周囲のサポートを積極的に活用しましょう。
そして、ご自身の体と心も大切にしてほしい、ということです。適切な治療と自己管理、そして前向きな気持ちが、これからの透析生活を支える大きな力になります。
新しい生活のスタートに不安はつきものですが、一歩一歩進んでいけば、必ず道は開けます。透析という治療があるからこそ、これからも大切な人たちと時間を共有し、人生を歩み続けることができるのです。