2018年2月4日

更新日: 2026年9月16日

血液透析は、体に溜まった老廃物や水分を人工的な装置を使って取り除く治療です。在宅血液透析をしている方を除けば、ほとんどの方が透析室という「集団で治療を受ける環境」で週3回通院しています。
「透析患者は健康な人に比べて免疫力が弱い」と言われます。
そのため感染症にかかりやすくなります。かぜ・インフルエンザ・ノロウイルス・肝炎ウイルスなど、さまざまな感染症のリスクがありますが、とりわけ季節性のある「インフルエンザ」は透析患者にとって無視できない問題です。
透析室という閉鎖空間で集団治療をしているからこそ、ほかの透析患者や医療スタッフへの集団感染につながるリスクもあります。「自分が実は感染源になってしまっていた」ということも、あり得ない話ではありません。
インフルエンザは毎年秋から冬にかけて活発化します。一般的に12月ごろから感染者が増え始め、1月〜3月が本格的な流行期となります。
ここ数年の状況を振り返ると、2024/25シーズンのインフルエンザ推計受診者数は約1,037万人となり、感染症法に基づく現行の報告体制が始まった1999年以降で最大規模の流行となりました(日本感染症学会・2025年)。流行は例年より早く、医療機関が逼迫する状況も生じています。透析患者にとってはとりわけ油断できない環境です。
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる呼吸器感染症です。
原因となるのはインフルエンザウイルスで、「A型」「B型」「C型」の3つに分けられます。国内で流行するのは主にA型とB型で、人から人へ感染します。A型は鳥や豚にも感染する多様性の高いウイルスです。
「新型インフルエンザ」というのは、鳥や豚に感染していたA型ウイルスが変異して人から人へ感染するようになったものです。多くの人が免疫を持っていないため、短期間で大規模な流行を引き起こすことがあります。2009年の新型インフルエンザ(H1N1)が代表例で、私自身もあのときの透析室の異常な光景を今でも覚えています。周囲の透析患者がインフルエンザにかかってベッドが空いていたこと、医療スタッフも感染してシフト調整に苦労していたこと——あの経験があるからこそ、インフルエンザを甘く見てはいけないと今も思っています。
「なぜ日本では1月〜3月に本格的にインフルエンザが流行するのか」——これには冬の「空気の乾燥」が深く関わっています。
「空気の乾燥+ウイルスの浮遊しやすさ+免疫力の低下」という三つが重なるのが冬のインフルエンザ流行の構造です。
冬場は口や鼻の粘膜が乾燥してウイルスへの防御力が落ちます。ウイルス自体も乾燥した空気のなかで長く浮遊しやすくなります。さらに気温が低いと体の免疫機能も低下します。
インフルエンザの症状は、ふつうのかぜと比べて全身症状が強く出るのが特徴です。1〜3日の潜伏期間を経て、38℃以上の高熱・頭痛・筋肉痛・関節痛が突然始まり、咳・鼻水・のどの痛みが約1週間続きます。めまいや嘔吐・下痢がみられることもあります。
| 型 | 流行シーズン | 主な症状の特徴 | 主な治療薬 |
|---|---|---|---|
| A型 | 12月〜3月(期間が長め) | 強い倦怠感・全身の筋肉痛・関節痛・激しい咳・38〜40℃の急な発熱 | タミフル・リレンザ・イナビル・ゾフルーザなど |
| B型 | 2〜3月(A型流行後)。近年は毎年流行 | 基本的にA型と同様。高熱が出ないことも。下痢・吐き気など消化器症状が出やすい | タミフル・リレンザ・イナビル・ゾフルーザなど |
| C型 | 特定の流行シーズンなし | かぜと同様の軽い症状(微熱・鼻水・鼻づまり)。一度感染すると抗体ができる | 対症療法が中心 |
なお、2025/26シーズンからインフルエンザワクチンは「4価」から「3価」に変更されています。これは2020年以降、B型(山形系統)が世界的にほとんど検出されなくなったため、WHOの推奨に従い山形系統を除いた3価構成となったものです。患者側として特別な対応は必要ありませんが、毎年ワクチン構成が見直されていることは知っておきたいポイントです。
インフルエンザの感染経路は「飛まつ感染」と「接触感染」の2つです。
飛まつ感染——咳・くしゃみの飛沫(しぶき)に含まれるウイルスを吸い込むことで感染します。透析室のような閉鎖空間では、このリスクが特に高くなります。
接触感染——ウイルスが付着した手で鼻・口を触ることで感染します。エレベーターのボタン・電車の吊り革・ドアノブ・PCキーボードなど、不特定多数の人が触る場所はすべてリスクになります。
接触感染の流れはこのようになります。
①感染者が咳やくしゃみを手でおさえる
↓
②その手で周囲のものに触れ、ウイルスが付着する
↓
③別の人がその物に触れ、手にウイルスが移る
↓
④その手で鼻・口を触ることで粘膜から感染する
近年の研究では、飛まつ感染より接触感染のほうがインフルエンザの主要な感染ルートである可能性が指摘されています。だからこそ、手洗い・手指消毒が最も基本的な予防策になるのです。

透析患者がインフルエンザに対して特に注意が必要な理由を、具体的に整理しておきます。
透析患者は健康な人と比べて免疫機能が低下しています。これは慢性腎不全・貧血・栄養不足・尿毒素の蓄積などの影響によるもので、インフルエンザにかかりやすく、かかった場合も重症化しやすいのです。
免疫力低下のサインとしては、かぜを繰り返す・扁桃腺炎を起こしやすい・便秘や下痢が続く……といったものがあります。「最近なんとなく調子が悪い」と感じる時期は、特に感染症への警戒が必要です。
週3回の透析通院には、電車・バス・病院の待合室を経由します。インフルエンザに感染している患者が受診のために待合室で待っていることもあります。持病で別の病院にも通院している方は、その経路でのリスクもあります。
在宅血液透析をしていない限り、透析は大部屋(透析室)で行うのが通常です。
透析室という閉鎖空間で多くの患者が同時に治療を受けるため、インフルエンザが持ち込まれた場合の集団感染リスクは非常に高くなります。
自分が感染源になってしまうリスクも、同様に意識してほしいのです。
駅・電車・バス・ショッピングモールなど人が集まる場所は、インフルエンザウイルスと接触する機会が多くなります。外出のたびに感染リスクがあることを意識しておきましょう。

| 要因 | 内容 |
|---|---|
| 免疫力の低下 | 慢性腎不全・貧血・尿毒素蓄積などにより、ウイルスへの抵抗力が弱い |
| 週3回の通院 | 通院経路(電車・バス・待合室)でのウイルス接触機会が多い |
| 透析室での集団治療 | 大部屋環境での集団感染リスクが高い。感染源になる可能性もある |
| 体力・疲労の消耗 | 仕事・家事・透析が重なり、慢性的な疲労状態になりやすい |
| 複数の合併症 | 糖尿病・高血圧・心疾患などを合併していると、さらに重症化しやすい |

透析患者は健康な人より抵抗力が弱いわけですから、インフルエンザ対策は「健康な人と基本的に同じ」をベースにしながら、それ以上の意識と行動が必要です。
透析患者にとって、インフルエンザワクチンの接種は最も重要な予防策です。
インフルエンザが流行する前——10〜11月ごろに接種しておくことが推奨されます。ワクチン接種後に効果が出るまで約2週間かかるため、流行ピーク(1〜2月)に間に合わせるためにも早めの接種が大切です。
ただし、ワクチン接種は万全ではありません。接種しても感染する人はいます。A型にかかった後にB型にかかることもあります。「接種したから今年は安心」という過信が最も危険です。
また、免疫機能が低下した透析患者では、インフルエンザに合併する「細菌性肺炎」が予後を悪化させる大きな要因とされています。インフルエンザワクチンと一緒に、肺炎球菌ワクチンの接種も検討することが有効です。かかりつけの透析医に相談してみてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 接種の時期 | 10〜11月ごろ(流行前)に接種するのが理想 |
| 接種の方法 | 皮下注射(注射部位周辺が赤くなったり腫れることがある) |
| 透析当日の入浴 | 接種当日の入浴は控える。翌日のシャワー・入浴が好ましい |
| 接種部位 | こすったり濡らしたりしない(感染・副反応のリスクがある) |
| 2025/26シーズンから | ワクチンが「4価」から「3価」に変更(B山形系統を除外) |
| あわせて推奨 | 肺炎球菌ワクチンの接種も透析患者には有効。担当医に相談を |
病院側が「透析患者のぶんのワクチンを確保したい」と医薬品会社と交渉してくれているクリニックも多くあります。そのおかげで流行前に早めに接種できるのは、ありがたいことです。感謝しながら、きちんと接種しましょう。
飛まつ感染を防ぐうえで、マスクは有効な手段です。インフルエンザに限らず、かぜの予防としても役立ちます。外出中・通勤中・透析室への移動中はマスクを着用するのが基本です。会話や電話のときは一時外しても構いません。
引用:「感染症予防のための正しい手洗い方法」 東京都「東京動画」より
接触感染を防ぐためには、手洗い・手指消毒が最も効果的です。
20年超透析を行っている私自身、手洗いは習慣として染みついています。透析室に入る前と出た後、食事の前——このタイミングをルール化すると自然に続けられます。
咳やくしゃみをするときは、ハンカチ・ティッシュ・マスクで口と鼻をおさえましょう。ほかの人に直接飛沫がかからないよう注意することは、周りへの配慮でもあります。
免疫力を下げるような行動・生活は避けてください。
仕事や家事に加えて透析もしている——これだけで相当な体力を使っています。そこに無理なスケジュール・睡眠不足・過度なストレスが重なると、体に余力がなくなり免疫力はさらに低下します。
無理をせず、しっかり休養を取ることが感染症予防の土台です。
透析をきちんと受け、食事から必要な栄養を取ることは、免疫力の維持に直結します。透析は体力を使います。食事・透析・休養の三つをバランス良く保つことが、インフルエンザへの抵抗力を守ることになるのです。
予防していてもインフルエンザにかかることはあります。その際は、まず速やかに透析クリニックに連絡することが最優先です。
インフルエンザの治療には抗ウイルス薬が使われます。現在使用される主な薬はタミフル(オセルタミビル)・リレンザ(ザナミビル)・イナビル(ラニナミビル)・ゾフルーザ(バロキサビル)・ラピアクタ(ペラミビル)などです。
ここで重要なのが、透析患者はタミフル(オセルタミビル)の用量が健康な人と異なる点です。
健康な人は1回75mg×1日2回×5日間の服用ですが、透析患者は腎臓からの排泄が通常通りでないため、75mg×1回投与(単回)が原則です。症状が残る場合は5日後にもう1回という形になります。必ず透析担当医・歯科医師に処方してもらい、薬剤師にも透析患者であることを必ず伝えてください。
| 薬名(商品名) | 投与方法 | 透析患者の注意点 |
|---|---|---|
| タミフル(オセルタミビル) | 内服(カプセル) | 単回投与(75mg×1回)が基本。通常用量と異なるため要注意 |
| リレンザ(ザナミビル) | 吸入 | 腎排泄が少ないため比較的使いやすいが担当医に確認を |
| イナビル(ラニナミビル) | 吸入(単回) | 担当医の指示に従う |
| ゾフルーザ(バロキサビル) | 内服(単回) | 担当医の指示に従う(耐性株の報告あり。第一選択として routine には推奨しないとの学会見解あり) |
| ラピアクタ(ペラミビル) | 点滴 | 入院・重症例に使用。担当医の判断による |
いずれの薬も発症から48時間以内の投与が最も効果的です。「熱が出た・体がだるい・筋肉痛がひどい」と感じたら、翌日まで様子を見ず早めに受診することが大切です。
インフルエンザと診断された・あるいは強く疑われる場合は、速やかに透析クリニックに連絡してください。
透析室での集団感染を防ぐために、クリニック側でも個室や別のベッドで対応するなど措置を取ります。無断でいつも通り透析に行くことは、ほかの透析患者や医療スタッフへの感染を広げるリスクがあります。
冬になると「インフル流行警報発令」「学校・職場で集団感染」といったニュースが連日流れます。インフルエンザは毎年変化し続けるウイルスです。正しい知識をもとに、正確な情報を得続けることが大切です。
「予防接種したから大丈夫!」という過信が最も危険です。
予防接種をしてもインフルエンザにかかる人はいます。A型に続いてB型にかかるケースもあります。ワクチンで感染リスクや重症化リスクを下げることはできますが、ゼロにはできないのです。
20年超透析を行っている私が繰り返し実感してきたのは、「透析患者は仕事・家事・透析が重なり、慢性的な疲労状態になりやすい。そこに免疫力の低下が加わる」という現実です。そのなかで自分にできる最大の感染予防策は、「無理をしない。適度に休養をとって体調を維持すること」だと思っています。

| 予防策 | ポイント |
|---|---|
| ワクチン接種 | 10〜11月に接種。肺炎球菌ワクチンも検討。ただし万全ではない |
| マスク着用 | 外出・通勤・透析室移動中は着用。飛まつ感染を防ぐ |
| 手洗い・手指消毒 | 帰宅後・食事前・透析前後は必ず。アルコール消毒も有効 |
| 咳エチケット | 咳・くしゃみはマスク・ハンカチ・ティッシュで口鼻をおさえる |
| 疲労・ストレスを避ける | 無理なスケジュール・睡眠不足は免疫力を下げる。休養が最大の予防 |
| しっかり透析・食事 | 透析・食事・休養のバランスが免疫力の土台になる |
| 感染時はすぐ連絡 | 透析クリニックに速やかに連絡。無断受診は集団感染のリスクになる |
透析患者の方はインフルエンザワクチンの予防接種をしましょう。自分だけでなく、周りの方を守るためにも。