血液透析は体に溜まった老廃物や水分を人工的な装置を用いて除去する治療法です。
在宅血液透析でもない限り、「透析室で集団治療を行う」という環境下において行われるのが一般的です。
「透析者は健康な人に比べて免疫力が弱い」といわれます。
そのため感染症にかかりやすくなります。
感染症には、かぜ、インフルエンザ、ノロウイルス、疥癬、結核、肝炎ウイルスなどがあります。
「透析室で集団治療」するからこそ、ほかの透析者や医療スタッフさんにまで感染させてしまう、つまり集団感染にかかる(自分が実は感染源になってしまう)可能性は否定できないわけです。
ここでは季節性のものよく話題があがる、感染力の強い「インフルエンザ」について取り上げていきます。
L免疫力低下のサインは風邪やインフルエンザ、扁桃腺炎、便秘、下痢などに及ぶ
・透析者がインフルエンザにかかると重症化しやすい
・インフルエンザ対策は「健康な人と基本的には同じ」でよい
・予防接種は推奨!しかし接種しても万全ではない。集団治療になるので周りにも一層の配慮を
透析者は免疫力が弱い!インフルエンザ対策は?
日本におけるインフルエンザウイルスは、秋から冬にかけて活発化しやすくなります。
12月頃からウイルスに感染する人が増え始め、1月~3月にかけて本格的に流行します。
2017-2018シーズンにおけるインフルエンザでは、例年のインフルエンザとは相応が異なっていました。本来ならば「A型」が主流なのですが、「B型」の流行が例年よりも早く、結果「A型」と「B型」の混合流行しているために「インフル患者数は過去最多」だったのです。
インフルエンザとは
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる呼吸器感染症のことを言います。
その原因となる病源体となるのがインフルエンザウイルスで、それには型があり「A型」・「B型」・「C型」の3つに分けられます。
国内で流行しているのはA型が多いのですが、人と人の間で流行するのはA型・B型です。
A型は鳥や豚にも感染します(144種と多様)。
それに「新型」と呼ばれるのもがあります。この新型インフルエンザはもともとあった鳥や豚で感染するA型ウイルスが、人から人へ感染するように変異したものと言われています(鳥インフルエンザなら鳥に対して感染性を示すA型インフルエンザウイルスの人への感染症をいう)。
言葉の通り「新型」のためにほとんどの人はその免疫を持っていません。
「新型」ということはかつて未だ経験したことがないわけで、その治療方法そのものも分かっているわけではありません。
鳥インフルエンザや豚インフルエンザ感染源が確認・特定されや否や、その間にもまたたく間に流行し人への感染することは十分にありえます。
家畜伝染病予防法に基づき感染拡大を避けるために、感染元となった養鶏場や養豚場では豚や鳥の大量処分、消毒用石灰の設置、移動制限区域の設定、卵や鶏、豚などの移動の禁止などがとられます。
「新型」について対応についてはそれらが、「今」できる唯一の感染症対策となります。
ちなみに「Aソ連型」や「スペインかぜ」は、かつては新型インフルエンザでした。現在では多くの人々が免疫を獲得したために、季節性のインフルエンザとされています。
直近のインフルエンザの主流は、AH1pdm09(2009年に流行したインフルエンザ)、AH3亜型(いわゆる香港型)がありますが、交代して流行しています。
秋~冬にインフルエンザが流行るのはなぜ?
「なぜ日本では1月~3月にかけて、本格的にインフルエンザが流行するのでしょうか?」
これは冬の「空気の乾燥」が大きく関わっています。
この寒い時期に周期的に流行するインフルエンザを「季節性インフルエンザ」と言います。
冬場は空気が乾燥していて、口や鼻などにある粘膜が乾いてしまい、ウイルスにさらされやすくなります。
ウイルス自体にも水分を含んでいて蒸発しやすい状態になるので、回遊しやすくなります。
さらに気温も低めなので人の持つ免疫機能も低下するためにインフルエンザにかかりやすくなります。
つまり、「空気の乾燥+ウイルス回遊+免疫低下」という図式ができあがってしまうのです。
インフルエンザの症状はざっくばらんにいうと、通常のかぜに比べて全身症状が強く出やすいことが特徴と言えます。
1~3日の潜伏期間を経て、高熱(38℃以上の熱)や頭痛、筋肉痛、関節痛が突然はじまり、咳や鼻水などが1週間ほど続くほか、目眩(めまい)、咽頭痛、おう吐や下痢なども見られます。
インフルエンザの型による特徴
インフルエンザウイルスの型による特徴(症状や経過)の詳細は以下の通りで、微妙にシーズンや症状が異なってきます。
A型インフルエンザ・・・
流行シーズン:12月~3月と期間は長め
症状:強い倦怠感、全身の筋肉痛、関節痛、激しい咳、喉の痛み、頭痛、鼻水など。38~40℃の急な発熱。
治療薬:タミフル、リレンザ、イナビル
B型インフルエンザ・・・
・流行シーズン:A型の流行が終わった直後の2~3月にかけて流行することの多い。
・近年は毎年流行する傾向。
・症状:基本的にはA型と同じ。高熱が出ずに微熱や平熱であることが多い。下痢や吐き気など消化器系の症状がでやすいのも特徴的。
治療薬:リレンザがやや有効。タミフル、イナビルもあり。
C型インフルエンザ・・・
・ほとんどが7歳位までに感染するが、一度体内に抗体ができるとその後は免疫がつく。
・かぜと同じ症状で、微熱や鼻水、鼻づまりがみられる。
・A型、B型のような症状は出ることはなく症状は比較的軽い。
生活のなかにみるインフルエンザの感染経路
インフルエンザの感染経路についてみていきましょう。
経路には2つあって、「飛まつ感染」と「接触感染」とがあります。
飛まつ感染・・・
飛まつ感染は、咳やくしゃみなどの飛沫(しぶき)に含まれるウイルスを吸い込むことによって感染するものです。生理現象から発するものと言えます。
接触感染・・・
接触感染は、ウイルスが付着した手で鼻や口で触れることで感染するものです。
主な感染場所は、例えば、不特定多数の人が触るエレベータのボタンや電車・バスなどの吊り革、自宅や会社などにある電源スイッチ、ドアロブ、PCキーボード…などがあります。
「接触感染」のルートはこうです。
1.感染者が咳やくしゃみ、しぶきで手を押さえる
↓
2.その手で周りの物に触れて、ウイルスが付着
↓
3.別の人がその物に触り、さらにウイルスが手に付着
↓
4.その手で鼻や口を触って、鼻や口にある粘膜から感染
このように1~4を辿って感染していくのですが、最近の調査結果によれば、手や指を介した「接触感染」が実際には多くインフルエンザの感染率が高いのではないか?ということで、話題になりました。
透析者がインフルエンザにかからないために
ここからは透析者がインフルエンザにかからないためにどうしたらよいか説明していきます。
まずは透析者の特徴について知ることが重要です。
透析者の特徴について
<<免疫力の低下など>>
・透析者は健康な人と比べると免疫力は弱いです。なぜなら免疫機能障害を併せ持っているためにインフルエンザにかかりやすく、重症化しやすいのです。
家族や会社の同僚などへ適切な説明を行って理解をしてもらうとともに、自ら感染症や伝染病予防への一層の意識づけ、注意が必要です。
<<健康状態の把握と早期対応>>
・かぜ、インフルエンザをはじめとする感染症や伝染病などは、医師や看護師さんからの健康状態の発見から分かることはあります。しかし、
透析者もその疑いがあるのなら、すぐにでも自分から申告し、指示を受けまたは処置をしてもらう必要があります。
まわりの人に迷惑かけないよう早期対応が大事です。
<<自宅・会社~透析室まで>>
・通院時。自宅や会社から透析室までの経路において、待合室を通過したり、寒い廊下を渡り歩くことがあります。インフルエンザウイルス等を持ったほかの患者さんが受診するために待っています。
ウイルスをもらってしまう可能性もありますので、避けて通りたいところです。また持病があってほかの病院に通院するときも同様です。
<<外出先にて>>
・自宅や会社だけではありません。駅や電車・バス、モールやショッピングセンターなどの人混みの多いところでもウイルスをもらってしまう可能性もありますので、避けて通りたいところですが対策は必要です。
<<集団発生というリスク>>
・血液透析は在宅血液透析を行っていない場合は、大概は病院で行っています。個室や小部屋ですることはほとんどなく、透析室の大部屋でするのが通常です。
そのためインフルエンザの集団発生のリスクが高く、集団発生した場合の影響が大きくなります。
透析者のインフルエンザ予防策
先述してきたとおり、透析者は健康な人と比べると、抵抗力は弱い→かかりやすいということは、何ら変わりありません。
インフルエンザ対策は「健康な人と基本的には同じ」と考えてよく、それ以上の予防策をするに越したことはないです。
<<インフルエンザワクチン接種が重要>>
・健康な人と同様、透析者においてもインフルエンザワクチンの接種することは効果的です。
そのため、インフルエンザが流行する前(流行期前(10~11月頃)に接種しておくことが「推奨」されます。
さらに免疫機能の低下した透析者では、インフルエンザと合併する「細菌性肺炎細菌性肺炎(さいきんせいはいえん)」が予後不良の原因といわれているので、インフルエンザワクチンと一緒に肺炎球菌ワクチンの接種することも有効とされます。
インフルエンザワクチン接種は、皮下接種になります(ワクチン主体は皮下に残り、抗原刺激を与え続けることで「抗体」を産生します)。
皮下接種した周辺では、接種部位・局所の腫脹や疼痛、発赤を発することもあります(なお治療薬はタミフルが主)。
病院によっては、透析中ないし終了後に接種することになります。
透析治療の当日の入浴は控えたほうがよいのですが、インフルエンザワクチン接種についても同様です。
翌日にシャワーやお風呂に入るのほうが好ましいです。どうしてもというのであれば、接種部位を濡らしたりしないようにしてください。
こすったりすると、感染の恐れ、副反応が強く出ることがあります。
<<マスク着用>>
・健康な人と同様で、飛まつ感染からの防止の意味で重要です。
インフルエンザにかかわらず、かぜの症状(かぜを予防するうえでも)が出るのであればマスクはしたほうが良いです。
⇒外出中でも仕事中でも有効で、もし会話や電話などで来すようであれば、マスクを外せばよいです。
<<手指衛生の励行>>
引用:「感染症予防のための正しい手洗い方法」 東京都「東京動画」より
・健康な人と同様で、接触感染からの防止の意味で重要です。
手洗い、うがいをしっかりすること(できたら顔と目も)洗うと効果あり。
⇒外出から帰ったらうがいと手洗い。
⇒外出先で触れた手で顔や口、鼻などを触らないこと。
⇒食事の前にも手を洗うほか、アルコール系の除菌剤で手指消毒するのも有効。
<<咳エチケット>>
・咳やくしゃみをするときは、ハンカチやティッシュ、マスクなどで口や鼻をあてること。
⇒ほかの人に直接飛沫(ひまつ)がかからないように注意。
<<無理な労働、無理な外出…。疲労、ストレスなどに注意>>
・免疫力を弱めるようなことは避けてください(無理な労働、無理な外出、無理なスケジュール…)。
⇒ふだんの仕事や家事などに加えて「透析」も行っています。
それらからくる心身の疲労やストレスを溜めこんだり、睡眠不足に陥ってしまうと、身体に余力が無くなってきます。そのため免疫力も弱くなってきます。
⇒無理をせず休養はしっかりと取りましょう。
<<しっかり透析、しっかり食事>>
・しっかり食事をとって栄養不足にならないように。そしてしっかり透析をしてください(透析は体力を使います!)。
◇まとめにかえて
冬場になると、「会社・病院・病院などでの集団感染」「インフル流行警報が発令!」など連日のようにニュースやワイドショーでとりあげられます。
それだけインフルエンザ情報は、季節性のある関心ごとでもあり、日々変化し続けるものであるのです。
「そのためには何をしなければならないのか?」
インフルエンザの正しい知識を得るとともに、正確な情報を得ることが必要です。
よく誤認識されているのが「インフルエンザワクチンを接種したから、今年の冬は大丈夫!」などと思っている方がいます、透析者も健康な人も。
予防接種は万全ではありません。
予防接種してもインフルエンザにかかる人は、かかってしまいます。
また「A型」にかかって次は「B型」のインフルエンザにかかってしまう(その逆もあり)というケースもありえます。
私は2009年の新型インフルエンザで、病院が異常な光景になったことを記憶しています。
このとき私は、幸いにしてインフルエンザにはかかりませんでしたが、周りの透析者でインフルエンザにかかった人がいて、ベットが空きになっていたのを目にしました。対策として、ほかの病棟で透析を受けていたのですね。
そして医療スタッフ(看護師さん、臨床工学技士さん)でもインフルエンザにかかってしまった結果、勤務シフトの調整や業務引継ぎなどで大変な苦労されていたのを思い出します。
透析者は手洗いやうがいなどをこまめに行うことはもちろんです。
また、ふだんの仕事・家事などに加えて体力を使う「透析」もしています。そのため体力消耗・疲労ぎみであり、そこに免疫力が弱く感染症にもかかりやすいことを考えると、「無理はしない。適度に休養をとって体調を維持すること」こそが、自分にできる感染症予防策だと思います。
やはり、安心はできません。
体力消耗、疲労が重なればインフルエンザなどにかかるかもしれないからです。
最後に、社会的にはインフルエンザワクチンの在庫不足がトピックされ、常に問題視されますね。
病院側でも「何とかして透析者のぶんを確保したい!」とのことで、医薬品会社と交渉していただいています。そのため、私たち透析者は早めの予防接種を受けることができるのですね。
病院側の努力の甲斐に感謝します。
透析者の方はインフルエンザワクチンの予防接種をしましょう。
自分だけではなく、周りの人にも迷惑をかけないためにも。