
「体調・血圧は大丈夫ですか?」
「薬の飲み忘れていない?ちょっとリンの値が高いね…どんな食べ方をしました?」
そして…「筋肉量を落とさないで(維持するように)してくださいね」「運動もしてくださいね」とも声をかけられたりします。
現代人は運動不足だと言われますが、なおさら透析患者ならば、それ以上に運動不足!その運動不足の傾向にある、と言えます。
透析患者はほんとうに運動不足です…。
こんな経験はありませんか? 風邪などでずっと寝込んでしまったり入院したりなど、ベッドから起きだせないでいると、体がなまったりなぜだか動けだせなくなったりしますよね?
身体というものは本当に不思議なものです。動かさなければ硬くなり、筋力が落ちていってしまうのです。
透析患者は最低4時間透析×週3回で月12回を、年間では156回は病院に通院していることになります。そこで少し考えてほしいのですが…。「透析時間をどう過ごすのか」というのは個人の自由です。
4時間透析×年間156回=624時間…26日に相当
5時間透析×年間156回=780時間…32日に相当
一般的な4時間透析、5時間透析になると26日、32日に相当というふうに、年間換算で見てみれば「約1か月」はベッド上で安静または寝たきり状態になっている、と言っても過言ではないのです。これに、例えば仕事上は机上ワーク、車で通勤しているとすれば…座っている時間も多いですよね。そこに睡眠の時間も重ねたら…。
透析患者の身体問題とその影響

ここでは「透析患者の身体問題とその影響」についてみていきます。数値を見るとかなりショッキングですが、これが透析患者の体の現実です。
(同年代健常者比)
(健常者比)
(健常者比)
(健常者比)
1. 酸素消費量は健康な人の50〜60%
体力の目安としてよく用いられる指標として「最高酸素摂取量」があります。透析患者は同年代の健康な人と比較しても50〜60%にまで落ちていると報告されています。この差は、日常生活の動作ひとつひとつに影響します。
2. O₂輸送効率(FO₂)も健康な人の48%
運動中は運動筋に大量のエネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)が必要ですが、それを長く続けるためには酸素(O₂)が必要です。透析患者にはシャントを作っていますが末梢組織の酸素化に不利です。また腎性貧血や動脈硬化にもなりやすいです。
末梢血管発達が不十分などO₂輸送効率でみても何かと不利です。
そして注目してほしいのが、末梢動脈疾患(PAD)による歩行障害です。透析という特性上、ベッド上で安静(横になる、座っている)時間が長時間に及びます。そのため足や頭、腎臓など血液を送る末梢動脈が狭くなったり、詰まったりして、血液が十分に流れにくくなります。
▼ 末梢動脈疾患(PAD)とは?透析患者に多い理由
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 末梢動脈疾患(PAD)とは | 足などの末梢動脈が動脈硬化などで狭くなり、血流が悪くなる状態 |
| 透析患者に多い理由 | 長時間の安静・動脈硬化のリスク増加・腎性貧血・シャントの影響など |
| 主な症状 | 歩行時に足が痺れる、痛い、冷たい(間歇性跛行) |
| 進行すると | 全身の動脈硬化を伴い、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが上昇 |
全身の動脈硬化を伴うことが多くなり、心筋梗塞や脳卒中などを起こしやすくなります。
特に足に多く末梢動脈疾患(PAD)を起こしやすくなります。末梢動脈疾患(PAD)では、歩行時に足が痺れる、痛い、冷たいといった症状が出てきます。
3. 下肢筋肉は健康な人の40%〜骨格筋量の減少とサルコペニア
ベッド上で安静(横になる、座っている)時間が長時間にわたり、同一姿勢で透析を受けなければならないため、腰痛や姿勢不良、全身状態不良を招きます。
透析患者は、骨格筋量(特に抗重力筋)が減少しており、運動耐容能が著しく低下します。
抗重力筋(こうじゅうりょくきん)…地球の重力に負けないように姿勢を保ち、人が直立するために必要な筋肉。この筋肉が働くことで、立ったり座ったりすることができます。
運動耐容能(うんどうたいようのう)…いわゆる運動の耐久性・許容量のこと。健康な人が「体力」と言うのに対し、透析患者のような場合は「腎疾患があってもできる運動量」という意味になります。
慢性腎臓病(CKD)の治療中から、ある程度の運動は必要とは言われますが、きつい運動や激しい運動は避けるように言われてきました。「腎臓を傷めつけない」「疲労から腎臓を負担させない」という理由があるからです。しかし裏を返せば、CKD治療中の頃からすでに運動耐容能の低下は始まっており、抗重力筋も減少してきている(きたこと)にもなります。
透析において「サルコペニア」という言葉がトピックされますが、まあ聞き慣れないですよね。サルコペニアとは「筋力低下」や「機能低下」のことを言います。
一般高齢者のサルコペニア有病率が6〜12%であるのに対して、透析患者では12.7〜33.7%という報告があります(一般高齢者の2〜3倍以上)。また、約19.9%の透析患者がフレイル(身体的な虚弱状態)を合併しているという報告もあります。つまり透析患者の2〜3人に1人は骨格筋量の低下を抱えているということです。
「加齢+透析治療+運動不足+栄養不足…」のように筋力低下や機能低下に陥る原因が、二重も三重にも重なってしまうわけです。
※加齢に伴って生じるものを「原発性(一次性)サルコペニア」と言い、慢性腎臓病(CKD)や末期腎不全である透析に伴うもの、運動不足、寝たきり、栄養不足や食欲不足等によるものを「二次性サルコペニア」と分類されています。
4. 栄養障害・エネルギー障害、合併症
透析患者は食事療法を行っています。水分や塩分の摂取制限、リン・カルシウム摂取も控えています。
低たんぱく食が基本ですが、栄養指数が低く、透析患者の3〜7割はたんぱく質エネルギー障害に陥っていると言われ、栄養不足になりがちです。
透析治療のなかで、どうしても必要な栄養素が除去され喪失してしまいます(アミノ酸、カルニチン、ビタミン類…など)。長期間の透析により骨や関節に痛みが生じやすくなったり、弱くなって変形しやすくなります(=透析アミロイドーシス)。それによって運動障害にも及ぼします。
5. 日常生活動作(ADL)は健康な人の50%
酸素消費量・O₂輸送効率の低下 → 抗重力筋の減少(≒サルコペニア)→ 運動耐容能が著しく低下 → 栄養障害・エネルギー障害・合併症 → 最終的には日常生活動作(ADL)の低下につながっていきます。
1〜5まで透析患者の身体問題とその影響をみてきました。「酸素消費量は健康な人の50〜60%」「下肢筋肉は健康な人の40%」といったように、ショッキングな数字が並んでいましたね。このことから、透析患者は食事療法や薬物療法と同じように、運動することが必要なのです。
透析患者が運動することで期待できることとは?
「透析患者が運動することで期待できることとは何でしょうか?」以下1〜6を挙げることができます。
▼ 透析患者が運動することで期待できる効果一覧
| カテゴリ | 期待できる効果 |
|---|---|
| 身体機能の改善 | 最大酸素摂取量の増加、心機能の改善、骨格筋量の増加 |
| 透析効率・栄養 | 低栄養・炎症複合症候群の改善、透析効率の改善 |
| 日常症状の改善 | 血圧低下、貧血の改善、血漿脂質改善、食欲の増進、便通が良くなる、生活習慣病の改善 |
| 心理・QOLの改善 | 不安やうつなどの精神・心理状態の改善、QOL(生活の質)の改善、ADL(日常生活活動)の改善 |
| 予後改善 | 長期的な生命予後の改善(透析患者における複数の研究で示唆) |
このように「何のために運動をするのか?」と言えば、透析患者だから特別にするのではなく、健康な人と理由はほぼ同じなのです。運動することで体力の低下を抑えたり、治療上での「透析効率の改善」「血圧低下の改善」、生活上での「貧血の改善」などが期待され、日々の生活の質(QOL)を落とさない、ストレス解消にもつながっていくわけです。
【ON HD エクササイズ】とは?〜透析中にできる運動〜

病院によっては透析中に運動療法に取り組んでいるところがあります。ベッド上で安静しまたは寝たきり状態にするのではなく、「ベッド上で簡単にできる運動」を透析しながら行っていくものです。但し、病院だけの取り組みだけではなく、透析患者の運動に対する意識や意思に委ねるところがあります。
透析日の運動、透析中に行う運動のことを【ON HD エクササイズ】と呼んでいるのですが、その内容は、ストレッチング、チューブ運動、エルゴメーターによる自転車こぎといったものがあります。
透析中に行う運動ではありますが、透析していくと次第に「透析低血圧」の症状が出てくることがあります。体内に溜まった水分の除水が行われ、体内を巡る血液量が減って血圧の低下が起きるからです。それを避けるためにも運動は、透析開始の30分以降〜約1時間くらいという「比較的血圧が安定している時間帯」を狙って行います。
2022年4月の診療報酬改定で、透析中に行う運動指導が「透析時運動指導等加算」として保険適用(公的医療保険で算定可能)になりました。これにより、医師・看護師・理学療法士・作業療法士が連携して透析中の運動指導を行いやすくなっています。また、日本腎臓リハビリテーション学会が「腎臓リハビリテーションガイドライン2022年版」を発行し、透析患者への運動療法の科学的根拠と標準的な方法が整理されました。以前は「道半ば」だった運動療法の体制が、着実に整いつつあります。
【ON HD エクササイズ】の効果としては、先述した「透析患者が運動することで期待できること」もありますし、「透析」という面からみれば、老廃物の除去の効率が高まるばかりではなく、最低4時間が透析ラインですが、それ以上〜5時間透析をしたのと同じくらいの効果があるともされています。
また非透析日、透析でない日に行う運動を【OFF HD エクササイズ】と言いますが、「長い時間をかけて行うことはない」といったメリットもあります。
【ON HD エクササイズ】と言わずとも、例えば透析前に運動室を開放したり、非透析日に「散歩の会」「レクリェーション大会」などイベント的に行っている病院もあります(ちなみにこれらを行った後の食事は、豪華な透析食になったり、弁当が出たりして食も楽しみます)。
運動療法が病院によって差があるのはなぜ?
運動療法は、病院によってその取り組み方はまちまちです。なぜなら透析患者には腎不全による慢性合併症、長期間にわたる透析から来る影響(「体力の低下」「栄養障害」「運動不足傾向」)があり、それらの症状もその程度も、全く違っていて個人差があります。
血液透析そのものが「集団治療」ではありますが、小中学校のような「体育」の時間ではありません。「さあ、皆で一緒に運動しましょう!」というわけにはいきません。健康な人の運動とは全く違った透析患者一人ひとりに対してアプローチをしなければならないのです。
それに加えて透析患者のなかにある「運動に対する意識部分」によるところもあります。運動不足だからと受け身ながらも「運動したい」人もいますが、「面倒くさい」「恥ずかしい、効果あるの?」「医療スタッフに監視されたくない…」などとそう考えている人もいます。
スタッフさん(看護師や臨床工学技士)にしても常に動き回ってますし、忙しいです。病院・スタッフとしても「運動」に関して適切な指導者が欲しいと考えていますが、現状なかなかいないようです(リハビリ専門のプロの理学療法士がいれば良いのですが)。
2022年に保険収載された「透析時運動指導等加算」の普及とともに、道半ばとは言え、透析中にできる運動療法【ON HD エクササイズ】は少しずつ注目されてきており、病院やスタッフ内で浸透し、透析患者にも認識されつつあります。
まとめにかえて〜自分の身体、もっと心配してください!〜
現在の慢性腎臓病(CKD)治療における運動は「腎臓に負担をかけない」「疲労を起こさない」ようにしつつ「適度な運動」を行うこと、とされています(激しい運動は厳禁!)。ただ慢性腎臓病の治療中で「適度な運動」を行っていても体力低下は起こっています。
そして透析へ。かつての「適度な運動」よりかは緩くはなりますが、今度は透析のためにベッド上で安静し、寝たきり状態(ベッドレスト)で明らかに運動不足になってしまい、骨格筋量の減少といった身体問題とその影響を受けることになるのです。
私自身も透析導入を機に介護職から事務職へ転職しました。そのため生活も変わりました、車通勤をしてデスクワークに。隔日透析で通院のために車を運転。透析でベッドで横になって…。
「私はいったい運動はどこでやっているのだろうか?」
「運動しないと…足腰も弱ってくる!」
幸い犬の散歩をしてはいるのですが、透析歴が長くなるということは、年齢も重ねていくこと。ただの散歩だけでも足りない気がしてきます。会社内ではエレベーターを使ってばかりいると、階段の昇り降りが大変です(泣)
「昇り」ともなれば、足は筋肉痛になり、「はあはあ」息が切れるくらい呼吸も苦しいです(喫煙こそしませんが、「酸素消費量は健康な人の50〜60%」「O₂輸送効率(FO₂)も健康な人の48%」といった影響ですね)。「体力不足」「筋力の弱さ」「息切れや疲れ」…感じてしまいます。
食事療法、リン・カルシウムの摂取制限から来る「骨粗しょう症」も心配です。正直、将来の骨折しないかどうかも怖いですし、今の状態から果たして身体は動けるのか!?
【叫び:運動不足ですよ!】
もしあなたが「透析導入を検討中である」「透析導入者」なのであれば、こう考えてみてはいかがでしょうか?これまでの「適度な運動」から「透析を始めたら運動をしても良い」という程度ではなく、半ば強制的に「運動しなければならない」というくらいまで認識して、今日から運動を始めてください。
もしあなたが「透析患者」なのであれば、運動を始めてください!
今日から始めよう!透析患者の無理しない運動の第一歩
「どんな運動から始めればいい?」という疑問には、まずは以下を参考にしてください。もちろん、必ず主治医・担当看護師・透析スタッフに相談してから始めてください。
▼ 透析患者の無理しない運動の始め方(参考)
| 状況 | おすすめの運動 | ポイント |
|---|---|---|
| 透析中(ON HD) | ストレッチ、チューブ運動、エルゴメーター(自転車こぎ) | 透析開始30分後〜1時間以内が目安。血圧が安定した時間帯に行う |
| 非透析日(OFF HD) | 散歩・ウォーキング、軽い筋トレ、ストレッチ | 長時間一気にやる必要はない。10〜20分でもOK |
| 日常生活 | 階段を使う、なるべく歩く、エレベーターを避ける | 「ちりも積もれば」精神で継続することが最大の効果 |
| 注意が必要な場合 | 胸痛・強い息切れ・シャント部の痛みがあるときは即中止 | 体調が優れない日は無理しない。翌日の透析日に報告する |
まとめ
「透析患者は運動不足です!」健康的で活動的な生活が送れるようにするためにも、日頃から身体を動かしてください!
- 透析患者は年間で約1か月分をベッド上で過ごしている計算になり、運動不足は深刻
- 酸素消費量は健常者の50〜60%、下肢筋肉は健常者の40%など、身体機能の低下は数字でも明確
- 骨格筋量の減少(サルコペニア)は透析患者の2〜3人に1人が抱える問題
- 末梢動脈疾患(PAD)は放置すると心筋梗塞・脳卒中・下肢切断のリスクにつながる
- 運動することで透析効率・QOL・予後の改善が期待できる
- 2022年から「透析時運動指導等加算」が保険収載され、透析中の運動指導体制が整いつつある
- まずは主治医・スタッフに相談して、今日から無理なく始めることが大切
※本記事の身体機能データは日本腎臓リハビリテーション学会「腎臓リハビリテーションガイドライン」・日本透析医学会各種資料・各種医学文献をもとに記載しています。サルコペニア有病率データは日本透析医学会・kishisei.co.jp他をもとに記載。個人の病状によって異なりますので、運動開始前は必ずかかりつけ医・管理栄養士・透析スタッフにご相談ください。