「腎臓のはたらきにはどのようなものがありますか?」と聞かれたら、何と答えますか。
「尿をつくること」「おしっこをつくるところ」と真っ先にに挙げるのではないのではないでしょうか?
実はほかにもさまざまな働きがあります。
生体の腎臓のはたらきが弱って腎不全に陥ると、腎臓としての機能がまったく働かないので、代替的にしかも人工的に器械でおこなうのが「人工透析(じんこうとうせき)」なのです。
・7つのはたらきとは、「尿の生成」「水分量の調節」「電解質バランスの維持調整」
「血中の酸・アルカリの調整」「血圧の調節」「血液産生の促進」「ビタミンDの活性化」
・腎臓が弱ったり機能しなくなると、腎代替療法(透析療法または腎移植)をとる必要がある
・日本においては透析療法が主流。透析療法とはいえ生体の腎臓のように万全ではない
透析治療とは何か?
「人工透析」とか単に「透析」という言葉は、聞いたことはあるかと思います。
医学的にいうならば、次のように説明されています。
腎機能が低下、機能が働いていない腎臓の機能を人工的に代替するのが透析であり、それは医療行為(区分上:「処置」)となります。
つまり、透析は医療行為であって「処置」にあたるのです。
腎臓の7つのはたらきを知る
透析の治療は何か?を知る前に、生体の腎臓についていろいろ知る必要があります。
腎臓の主なはたらきは「尿を生成すること」ですが、まとめると7つのはたらきがあります。
「尿の生成」「水分量の調節」「電解質(でんかいしつ)バランスの維持調整」「血中の酸・アルカリの調整」「血圧の調節」「血液産生の促進」「ビタミンDの活性化」です。
では一つずつ見ていきましょう。
1.尿の生成
腎臓は1日約200Lもの血液を濾過し、体から不要になった老廃物を1.5Lもの尿をつくっています。
2.水分量の調節
私たちの体は成人の場合で約60%が水分だといいます。どんな状況にあってもほぼ変わりません。これも腎臓が水分量を保とうとして尿量を調節しているからです。
夏の時期をイメージすると、水分を多めにとると尿量は多くなり、汗を沢山かいたときには尿量が少なくなります。
3.電解質(でんかいしつ)バランスの維持調整
私たちの体の水分には、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リン(R)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)などが含まれています。
これらを電解質といい、その濃度が一定に保つようなはたらきをします。そして筋肉の収縮や弛緩、血圧の調整などの作用が、適正に営まれるようにしています。
4.血中の酸・アルカリの調整
私たちの体にある液体成分には、「血液」、「細胞内」、「細胞内と細胞などにある水分」があります。
これら血液のpH(ペーハーと読みます。=酸・アルカリ)を調節しているのが腎臓で、弱アルカリ性(pH:7.4)に保たれています。
もし、弱アルカリ性が保てずに酸性に傾けば、不規則な呼吸や血圧低下、不整脈、頭痛、昏睡などの症状があらわれます。
片やアルカリ性になると痙攣(けいれん)、しびれ、不整脈、意識障害、昏睡の症状があらわれます。
5.血圧の調節
腎臓には血圧を調整するレニンやカリクレインといったホルモン分泌を調節することで、血圧を正常に保つはたらきをしています。
レニンは血圧を上昇させるはたらきが、カリクレインは血圧を下げるはたらきがあります。
6.血液産生の促進
骨髄に赤血球を作る作用を促すエリスロポエチンという造血ホルモンを分泌します。
血液が産生されることで、赤血球が十分に作られ、血圧が安定します。
7.ビタミンDの活性化
ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨に沈着させ、骨を丈夫にしようとするビタミンです。
ビタミンDそのままでは活性することはないので、腎臓や肝臓で水酸化することではじめて「活性化ビタミンD」が合成されます。活性化ビタミンDは、小腸でカルシウムの吸収や腎臓でのカルシウムの再吸収を促進します。
末期腎不全に至ったとき
治療を行いつつも「腎代替療法」の準備を同時考えなければならない時期というのがあります。
それが慢性腎臓病のステージ(病期)でいうところのステージ4です。
さらに進行するとステージ5では「末期腎不全」となります。
末期腎不全に至ったとき、元の健康のときのような生体の腎臓の状態に戻ることは困難です。
ステージ5では「末期腎不全」というのは、
残腎機能(=残っている腎機能)でもある糸球体濾過量(GFR)は15%未満、クレアチニン値も8.0mg/dL超であり、腎臓はほとんど機能していない状態です。
さらに糸球体濾過量(GFR)が10%以下になると、食事療法や薬物療法を行っていても改善できない「尿毒症」の症状があらわれてきます。
尿が生成されない結果、体内では血液とともに尿毒素が全身を巡回します。
すると、個人差はありますが食欲不振や吐き気、嘔吐、疲れやすい、記憶力が低下などの意識障害、昏睡状態に陥ることもあります。
また下肢が痺れて、足が浮くような感覚やむくみ、貧血からくる息切れ、呼吸困難、下痢、皮下出血、鼻血、骨の障害、不整脈などの症状もあらわれてきます。
これら全身のあらゆるところからくる尿毒症の症状を放置すれば、当然生命にかかわってきます。そのために生命維持のための「腎代替療法」が必要となってくるわけです。
腎臓の機能を人工的に代替するとは?(人工透析)
先述では、腎臓の7つのはたらきを挙げました。
末期腎不全となり尿毒症の症状があらわれ、本来の腎臓のはたらきである「尿の生成」「血圧の調節」などができなくなったとき、腎代替療法を選んで治療に入っていくことになります。
腎代替療法には、透析療法(血液透析・腹膜透析)と腎移植(献腎移植・生体移植)とがあります。
日本においては前者の透析療法が主流ですが、それには「血液透析」と「腹膜透析」の2種類の治療法があります。透析療法のいずれにおいても、装置や器械を用いて体に溜まった老廃物を体外へ出すことは共通しています。
現状、日本において透析者のうち約97%が、血液透析の治療法を選んでいます。
ですので、血液透析をもとにして、「どのようにして腎臓の機能を代替しているのか」について以下、見ていきたいと思います(透析の7つのはたらき)。
1.尿の生成できない(=老廃物の排泄ができない)→体内から尿毒素を取り除く
腎臓のはたらきにより尿として体の外に排泄されるべき老廃物(尿毒素)は、腎機能が低下、機能が働いていないので、装置によって取り除きます。
2.体内で水分が滞留する一方→体内から余分な水分を取り除く
腎臓のはたらきにより体の外に尿として排泄されるべき水分は、それができないので、装置によって取り除きます。
3.食事などで電解質バランス崩れてしまう→電解質バランスを整える
透析では1日半ないし2日半は空いてしまいます。食事などを通して体内の電解質バランスが崩れてしまいます。
ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)などの血液中の電解質が過剰な場合は透析液へ排泄し、不足する場合は透析液※から補うことで正常な範囲に整えていきます。
またカリウム吸着薬やリン吸着薬は腸内で吸着させて、便として排泄する目的で処方されることもあります。
※透析液は治療中に使用されるものです。透析液は体内に蓄積している毒素を効率よく除去したり、血液中の電解質濃度やpH(ペーハー。=酸・アルカリ)のバランスを正常に調節するといった役割があります。
4.食事などで血液のpH(ペーハー)が傾きがち→弱アルカリ性の調節
pH(ペーハー)とは酸性とアルカリ性のことを言います。
血液の望ましいpHは「弱アルカリ性」です。血液中の酸を取り除いてアルカリを透析液から補います。
5.血圧の調節ができない(高血圧の傾向)→降圧剤で血圧を下げる
高血圧は心筋梗塞や心不全、脳卒中などの心血管疾患のリスクになります。透析していても食事療法(減塩や水分制限等)を行いながら血圧のコントロールを行います。
それが難しい場合降圧薬を用いますが、透析者の血圧の状態や腎機能などによって降圧薬が使い分けられます。
6.造血ホルモンの分泌できず腎性貧血に→貧血改善薬で貧血を是正
造血ホルモンの分泌できないので、エリスロポエチン製剤という貧血改善薬で注射します。
7.ビタミンDの活性化できない→活性型ビタミンD製剤で補う
ビタミンDの活性化できないということは、骨の沈着や丈夫にすることができなくなります。骨が弱くなってもろくなります(骨粗しょう症や副甲状腺の異常な亢進など)。
そのため、活性型ビタミンD製剤の薬で補います。
「6,貧血改善薬で貧血を是正」や「7,活性型ビタミンD製剤で補う」は生体の腎臓ではできるのですが、透析となると体内でつくることもおろか、透析液で補うこともできません。
以上が、腎臓に替わって行われる「透析の7つのはたらき」でした。
◆まとめにかえて
腎臓のはたらきとして「尿を生成すること」は知っていました。中高の理科や保健体育で学んだ内容だと思います。
しかし、ほかにもそのはたらきを知ったとき改めて「いかにすごい司令塔を持った臓器。腎臓ってすごいなあ!」と率直にそう思いました。
昔に比べたら、血液も腹膜も透析の技術は進歩したといいます。
ただ、「腎臓の機能を人工的に代替する」といっても誤解、勘違いしてしまいがちですが、透析治療は万全ではありません。
透析治療では溜まった尿毒素と同時に余計な水分も取り除いてくれますが、腎臓ではできることが透析装置や器械ではできないことがあるのです。
透析の7つのはたらきで説明したように、貧血改善薬や活性型ビタミンD製剤がそうで、透析装置や器械で行っても足りないところは、内服薬を飲んだり、注射薬で補っているのです。
血液透析の場合では最低4時間×3日間、1週間に12時間の治療を行います(12時間といっても、かなり少ないです!)
ですが、腎臓は生きている限りおいて決して休むことなく、毎日24時間フルに働いています。
処理能力といい処理時間といい、比較したときに腎臓と透析との違いが端的にあらわれていました。
腎臓の司令塔のすごさを物語っていますね。