2026年7月29日


透析治療を始めるかどうか迷っている方、または透析を拒否した場合どうなるのか不安を感じているあなたの気持ちはよく分かります。私自身、20年超透析と向き合ってきた経験から言えることがあります。透析が必要な状態になったのに治療を受けないと、体内の老廃物や水分が蓄積し、様々な深刻な症状が現れてきます。むくみや息切れから始まり、最終的には命に関わる状態にまで進行することもあるのです。この記事では、透析をしないとどのような経過をたどるのか、実体験も交えながら詳しくお伝えしていきます。
そもそも、なぜ透析が必要になるのでしょうか。これを理解するには、まず腎臓の働きを知る必要があります。
腎臓は私たちの体の中で「最高のろ過装置」として機能しています。血液中の老廃物を取り除き、必要な栄養素は体内に戻し、不要なものは尿として排出する。この単純なようで複雑な作業を、私たちが意識することなく24時間365日休むことなく続けているんですよね。
私が透析を始めた頃、医師から「あなたの腎臓は正常の10%以下の機能しかありません」と告げられたときの衝撃は今でも忘れられません。それまで何となく「腎臓が悪い」とは理解していたものの、その深刻さを実感したのはその瞬間でした。
腎臓の機能が低下すると、体内の老廃物や余分な水分を排出できなくなります。この状態を「尿毒症」と呼びます。透析はこの腎臓の働きを人工的に代替する治療法なのです。
透析が必要な状態なのに治療を受けないと、まず初期症状として以下のような変化が現れます。
最初に気づくのは、足首や顔のむくみでしょう。朝起きたときに目の周りがパンパンになっていたり、靴がきつく感じたりします。これは体内に水分が溜まっている証拠です。
私の場合、透析前は夕方になると靴が入らなくなるほどでした。朝と夕方で体重が2kg以上変わることもザラでしたね。このむくみは見た目の問題だけではなく、内臓にも負担をかけています。
階段を上るだけで息が切れる、少し動いただけで異常に疲れる。こんな症状も腎機能低下の典型的なサインです。
これは主に二つの理由があります。一つは体内の水分過多により肺に負担がかかること。もう一つは貧血です。腎臓は赤血球を作るためのホルモン(エリスロポエチン)を分泌していますが、腎機能が低下するとこのホルモンも減少し、貧血を引き起こします。
「会社の帰り、駅の階段を上るのがこんなにつらかったことはない」と思ったのが、私が医師に相談するきっかけでした。今思えば、あの時すぐに相談して本当に良かったと思います。
老廃物が体内に蓄積すると、消化器系にも影響が出てきます。食欲がなくなり、吐き気を感じることが増えます。
私の友人は「何を食べても美味しくない」と言っていましたが、それは老廃物による味覚の変化だったのです。透析を始めてからは「食事がこんなに美味しかったなんて」と喜んでいました。
初期症状を放置すると、より深刻な症状へと進行していきます。
カリウムは私たちの筋肉や神経の機能に必要な電解質ですが、腎機能が低下するとカリウムを排出できなくなります。血中のカリウム濃度が上昇すると、不整脈や心停止のリスクが高まります。
これは本当に怖いもので、私の透析仲間の一人は透析前に高カリウム血症で緊急入院したことがありました。「何の前触れもなく突然胸がドキドキして、その後意識を失った」と言っていました。幸い一命は取り留めましたが、透析を始める決断が遅れていたら危なかったかもしれません。
腎臓は体内の酸塩基平衡を調整する重要な役割も担っています。腎機能が低下すると、体内に酸が蓄積し「代謝性アシドーシス」という状態になります。
これにより呼吸が速くなったり、筋肉の衰弱、骨からカルシウムが溶け出すなどの症状が現れます。長期間この状態が続くと、骨粗しょう症のリスクも高まります。
私自身、透析前は常に体がだるく、筋肉痛のような症状がありました。今思えばこれもアシドーシスの症状だったのでしょう。透析を始めてからは嘘のように楽になりました。
尿毒症が進行すると、皮膚にも変化が現れます。肌が黄色っぽく変色したり、異常な乾燥、そして耐えられないほどの痒みが生じることがあります。
これは「尿毒症性掻痒症」と呼ばれ、体内の老廃物が皮膚から排出されようとすることで起こります。私の場合、特に夜になると全身が痒くて眠れないことがありました。透析を始めてからこの症状は徐々に改善しましたが、完全になくなるまでには時間がかかりました。
透析が必要な状態で治療を受けずに放置すると、最終的には命に関わる深刻な状態に陥ります。
老廃物が脳に影響を及ぼすと、認知機能の低下、混乱、けいれん、さらには昏睡状態に至ることもあります。これを「尿毒症性脳症」と呼びます。
私の透析センターで知り合った方は、透析を始める前に「なぜか計算ができなくなった」「家族の名前が出てこなくなった」という経験をしたそうです。透析を始めてからは認知機能も回復しましたが、早期に治療を開始することの重要性を痛感させられる話でした。
尿毒症が進行すると、心臓を包む膜(心膜)に炎症が起こる「尿毒症性心膜炎」や、過剰な水分負荷による心不全のリスクが高まります。
胸の痛み、息切れ、不整脈などの症状が現れ、緊急の医療介入が必要になることも少なくありません。
透析が必要な状態で治療を受けずに放置すると、最終的には多臓器不全に至り、命を落とすリスクが非常に高くなります。
正確な期間は個人差がありますが、一般的に末期腎不全の状態で透析を受けなければ、数週間から数ヶ月で生命に関わる状態になるとされています。
これは決して脅かすためではなく、透析の重要性を理解していただくためにお伝えしています。私自身、透析を始める決断をするのに時間がかかりましたが、今では「あの時決断して本当に良かった」と心から思っています。
透析が必要だと診断されても、治療を拒否したり先延ばしにしたりする方は少なくありません。その背景には様々な心理的要因があります。
「自分はまだ大丈夫」「そんなに悪くない」という否認の気持ちや、透析に対する恐怖心から治療を避けることがあります。
私も最初は「まだ若いのに透析なんて」と現実を受け入れられませんでした。でも、医師から「透析は人生の終わりではなく、新しい生活の始まり」と言われたことが心に残っています。
週に3回、4時間ほどの透析時間が必要になること。食事や水分の制限があること。こうした生活の大きな変化への不安も治療拒否の要因になります。
確かに透析を始めると生活は変わります。でも、驚くべきことに人間は適応する生き物です。私も最初は「こんな生活続けられるだろうか」と不安でしたが、今では透析の時間を読書や仕事の計画を立てる貴重な時間として活用しています。
透析に対する不安や恐怖がある場合は、腎臓専門医や透析看護師、心理カウンセラーなどの専門家に相談することをおすすめします。
また、患者会や支援グループに参加することで、同じ経験をしている人々から実践的なアドバイスや精神的なサポートを得ることができます。
私自身、透析患者の交流会で多くのことを学び、前向きになれました。「一人じゃない」という実感は何物にも代えがたいものです。
透析には主に「血液透析」と「腹膜透析」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、自分のライフスタイルに合った方法を選ぶことが大切です。
血液透析は、専用の透析機器を使用して血液を体外に取り出し、ダイアライザー(人工腎臓)で浄化した後に体内に戻す方法です。
通常、週3回、1回4時間程度の治療が必要で、医療機関で行います。効率的に老廃物や余分な水分を除去できる一方で、通院の負担や時間的制約があります。
私は20年以上血液透析を続けていますが、通院のリズムが生活の一部になっています。透析中は読書や仕事の計画を立てるなど、自分の時間として活用しています。
腹膜透析は、お腹の中の腹膜を利用して血液を浄化する方法です。腹部に留置したカテーテルから透析液を注入し、一定時間後に排出します。
自宅で行うことができ、生活スタイルの自由度が高いのが特徴です。ただし、毎日の処置が必要で、腹膜炎などの感染症リスクがあります。
私の透析仲間には、仕事の都合で腹膜透析を選んだ人もいます。「自分のペースで透析ができる」と満足していましたが、数年後に血液透析に移行した方もいます。どちらが良いというわけではなく、その時々の生活状況に合わせて選択することが大切です。
状況によっては、血液透析と腹膜透析を併用したり、一方から他方に移行したりすることもあります。
どの方法を選ぶにせよ、医療チームとよく相談し、自分の生活スタイルや価値観に合った選択をすることが重要です。
次に、透析患者の生活の質を高めるという視点でみていきます。
透析を受けながらも、充実した生活を送ることは十分に可能です。私自身の経験から、生活の質を高めるためのいくつかの工夫をお伝えします。
透析患者は一般的に、カリウム、リン、塩分、水分などの制限があります。しかし、これは「何も食べられない」ということではありません。
私が実践している工夫としては、野菜は茹でこぼしてカリウムを減らす、塩の代わりにハーブやスパイスで味付けする、水分制限がある場合は氷を舐めて喉の渇きを癒すなどがあります。
最近は透析患者向けの宅配食やレシピ本も充実していますので、上手に活用するといいでしょう。私のお気に入りは、低カリウム・低リン・減塩でありながら美味しい和食のレシピ集です。
透析を受けていても、適切な運動は体調管理に非常に重要です。医師と相談の上、ウォーキングや軽い筋トレなど、自分に合った運動を続けることをおすすめします。
私は透析日以外の朝に30分のウォーキングを習慣にしています。始めた当初は疲れやすかったですが、続けるうちに体力がついてきました。運動は身体だけでなく、心の健康にも良い影響を与えてくれます。
透析生活では、時に落ち込んだり不安になったりすることもあります。そんな時は、家族や友人、同じ透析患者との交流、必要に応じて心理カウンセラーなどの専門家のサポートを受けることも大切です。
私自身、透析を始めて数年経ったころに精神的に落ち込む時期がありました。その時、患者会で知り合った先輩患者さんの「透析は人生の一部であって、人生そのものではない」という言葉に救われました。今では私もその言葉を新しい患者さんに伝えています。
透析患者の生活の質を高めるという視点の次にみるべきは、社会的支援制度です。
透析治療は身体的・経済的な負担が大きいですが、日本には透析患者を支援するための様々な制度があります。
透析治療は「人工透析を必要とする慢性腎不全」として特定疾病に指定されており、医療費の自己負担が軽減される制度があります。
具体的には、「特定疾病療養受療証」を取得することで、医療費の自己負担額が月額1万円程度(2万円の場合あり)に抑えられます。また、「身体障害者手帳」の交付を受けることで、さらなる医療費の助成や税金の控除などが受けられる場合があります。
私も透析を始めた当初は医療費の不安がありましたが、ソーシャルワーカーに相談して必要な手続きを教えてもらいました。制度をきちんと利用することで、経済的な負担はかなり軽減されます。
透析患者は、条件を満たせば「障害年金」を受給できる可能性があります。また、自治体によっては独自の手当や支援制度を設けているところもあります。
私は無かったのですが、透析患者となって、透析開始後に障害年金の申請をしたものの書類不備で却下されたというケースも散見されます。そのようなときは、社会保険労務士のアドバイスを受けて再申請する。専門家のサポートを受けることも大切ですね。
透析を受けながら働き続けることも可能です。「就労支援制度」や「職場内外での合理的配慮」について知っておくと良いでしょう。
私は透析を始めた後も同じ会社で働き続けていますが、透析日は時短勤務にしてもらうなど、会社側の理解と配慮があります。最初は「あれもこれもということで大丈夫か!?」とあって言い出しづらかったですが、正直に状況を説明したところ、柔軟に対応してもらえました。
透析と長く付き合っていくためには、前向きなマインドセットが非常に重要です。
透析が必要だと診断されたとき、多くの人は否認、怒り、交渉、抑うつ、受容というステージを経験します。これは自然なプロセスであり、一人ひとりのペースで進んでいくものです。
私も最初は「なぜ自分が」と怒りや悲しみを感じましたが、時間をかけて「これが新しい生活なんだ」と受け入れていきました。無理に前向きになろうとせず、自分の感情を大切にしながら少しずつ進んでいくことが大切だと思います。
大きな目標よりも、達成可能な小さな目標を設定することで、成功体験を積み重ねていくことができます。
例えば、「今月は透析中に1冊本を読む」「週に2回は30分歩く」など、具体的で達成可能な目標を設定してみましょう。
私は透析を始めた頃、「1年後に家族で温泉旅行に行く」という目標を立てました。そのために必要な体調管理や旅行先の透析施設の手配など、一つひとつクリアしていくことで自信がつきました。目標があると、透析生活にも前向きに取り組めるようになります。
同じ透析患者との交流は、情報交換だけでなく精神的なサポートにもなります。患者会や交流会、SNS、オンラインコミュニティなどを活用してみましょう。
私にとって、月に一度の患者交流会は大きな支えになっています。同じ悩みを持つ人と話すことで「自分だけじゃない」と感じられますし、先輩患者からの経験談は何よりも心強いものです。
最後に、透析しないことのリスクと、透析を始める決断について考えてみます。
透析が必要な状態になったのに治療を受けないと、前述したように様々な合併症のリスクが高まり、最終的には生命を脅かす状態に至ります。
医学的な観点からは、腎機能が著しく低下した状態(一般的にeGFRが15ml/分/1.73m²未満)で、症状が現れている場合は、できるだけ早く透析を開始することが推奨されています。
透析を始めるかどうかの決断は、単に寿命を延ばすだけでなく、QOL(生活・人生の質)も考慮する必要があります。
透析によって症状が改善し、日常生活を送れるようになることで、全体的なQOLが向上する可能性が高いです。
私の経験から言えば、透析前は常に体調不良で仕事も家庭生活も充実していませんでしたが、透析を始めてからは体調が安定し、以前よりも充実した日々を送れるようになりました。
最終的には、医療チームからの情報提供を受けた上で、自分自身の価値観や生活スタイルを考慮して決断することが大切です。
家族や信頼できる人と話し合い、十分な情報を得た上で決断することをおすすめします。
私が透析を始める決断をしたとき、家族と何度も話し合いました。不安もありましたが、「まだやりたいことがたくさんある」という思いが決断を後押ししてくれました。透析20年超が経った今、あの決断は間違っていなかったと心から思います。
透析しないとどうなるか、その影響やリスクについてお伝えしてきました。確かに透析は大変な治療ですが、それによって命を守り、生活の質を維持することができます。
私自身、透析20年超の透析と共に生きてきて、様々な困難もありましたが、家族との時間、仕事での達成感、趣味を楽しむ喜びなど、かけがえのない経験をたくさん積み重ねてきました。
透析は人生の終わりではなく、新しい生活の始まりです。適切な医療サポートと自己管理、そして前向きな気持ちがあれば、透析と共に充実した人生を歩むことは十分に可能です。
もし今、透析を始めるかどうか迷っているなら、ぜひ医療チームに相談し、同じ経験をしている患者の声に耳を傾けてみてください。あなたは一人ではありません。多くの仲間と医療スタッフがあなたの新しい一歩を支えてくれるはずです。